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学園☆天国
19 side真里菜
しおりを挟むヤツの姿が階段へ消えて、もうだめかと思った瞬間、夏清ちゃんが走った勢いごとテラスの柵を乗り越えちゃったのだ。軽やかに。下までは結構な高さがある。悪くしたら骨折しかねない高さなのに!!
自分の息が切れていることも忘れて、柵に体当たりするように下を見下ろす。
見えたのは、キレイな上段の構えの後姿。長い黒髪が、体が落ちる重力の速度に遅れてたなびく。
飛び込んでいくのが、まるでスローモーション。リアルに。
「こぉおんっのー!! きったない手で樹理ちゃんにさわんなっ! ヘンタイがあっ!!」
あ、やっぱり今『掴んでんのはお姉さまの方』とか、突っ込んじゃいけないわね。うん。都合の悪いことは全部ヤツのせいにしとけばいいんだ。それが正義! あっけに取られた様にぽかんとアホ面で止まってしまったヤツに向かって、夏清ちゃんが飛ぶ。空中で体勢をひねって、ヤツの背中側に着地点を定めたようだ。
いくら中身のない軽い模擬刀とは言え、自由落下ではなく、柵を蹴って威力と体重を存分に乗せた一撃は、かなり痛かったに違いない。
お姉さまが腕をつかんでいた方の肩をしたたかに打たれて情けない悲鳴。衝撃でも伝わったのか、お姉さまがぱっと手を離して離れる。
打たれた肩を押さえてうずくまりそうになるヤツに、夏清ちゃん、さらに攻撃。カエルが潰されるような声で、ヤツが前かがみで撃沈。まあ、どこを攻撃したかとか、オトメのクチからはいえないわ。うん。
「リナちゃん! 先生……警備員さん呼んでっ!」
下を覗いていたら、夏清ちゃんが階段の踊り場でこちらを振り仰いでさけぶ。逃げてたヤツの背中に体重を乗せた膝を入れて、肩を打たれた衝撃のせいでしびれたのか、最後にヤられた箇所を押さえることも出来なかったらしい片手を後ろ手に見事にロック。
あたしが呼ばなくても、騒ぎを聞きつけていつもは門にいる守衛さんたちが校舎に入ってきていた。
「こっちです! 盗撮してたのこの人っ!!」
……人気のない教室。あのごっついカメラ。まあ、この想像は外れてないはず。指差した階段の踊り場に、どやどや警備会社のゴツイおじさんたちが駆け込んで、あっという間にヤツは文字通り引きずられながら引っ立てられて行った。
パンパンと両手を払っている夏清ちゃん。まあなんていうか、改めて高さと距離を見る。テラスの柵は普通に一メートル二十センチ。そして、この踊り場までそこから多分三、四メートル下。問題は距離だよ。夏清ちゃんが飛んだところからこの踊り場まで、ヨコの距離、目測で五メートル以上あるよ。勢いがあったとは言え、よくこんなとこまで飛んだよね、この人。
「すごいね。あの人」
階段を降りるため、翠の方に近づくと、ため息とも付かない息を吐いて、翠が感心したようにつぶやいた。
「うん。カッコいいねー 混じってきていい?」
「近くより俯瞰で見てるほうが楽しいと思うよ?」
「そうかなぁ」
手すりに寄りかかって、階下を眺める。先ほどの騒動に、ギャラリーもてんこ盛り。その中心は、あの二人だ。なんていうか、二人の距離の近さがヅカの舞台みたいだな。なんて。実は生で見たことないけど。
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