幸せのありか

神室さち

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学園☆天国

16 side夏清

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 先生と氷川さんは、早々に戦線離脱。時間には茶道部の部室前にいるからと消えてしまった。そして私は、まるで戦車かロードローラのような、辺りのものを軒並み押しつぶす勢いのリナちゃんに、絶対似合うからと押し付けられた奇抜な制服を着て、カーテンをつけただけの簡易更衣室を出た。

 お上品に評すると、その色はラベンダーカラー。まあ、ぶっちゃけると、真紫とか、ど紫とか、ナス色とか、が、使われている。


 丈の短いブレザーの全体色はラベンダー。デザイン重視なのか、異様に細身。スカートのウエストもかろうじて止まるくらいの細さで、ブレザーのウエストも変わらない。まあ当然、胸が結構キッチキチ。ネクタイでごまかさないとシャツの前がヤバイかも。

 襟や袖、裾にナス色のバイヤスライン。胸ポケットのエンブレムは、ど紫がやたら自己主張。ブレザーの下には、ラベンダーをさらに薄くした白に近い襟高のカッターシャツ。胸元には、ナス色のネクタイ。膝上二十センチの超ミニの、超細かいプリーツが入ったスカートは、ナスとラベンダーの細いラインと空色と白の太いラインが入ったチェック。


 そして、なんとも形容しがたい、紫に銀色を混ぜたような色のカラータイツ。暑いのにタイツ。しかしこれを履かないことには歩いただけで余裕でスカートの中が覗けそうだ。正座したら色々ダメっぽい。他の衣装も似たり寄ったり。いや、ドレスみたいなのばかりだから、これよりひどいかも。

 付属品は頭には金メッキのヘアバンド。そして極め付けが模擬刀。これはスチル撮影用のものだとかで、中が空洞の樹脂製。ただ本物っぽく重厚に塗装されてるので見た目を裏切る軽さ。それを挿す為の、皮製の剣帯……これはもしかして、このゴールデンウイークに公開されてた学園アクション恋愛映画の衣装?


「くぅううぅううぅっ! 似合うっ 似合いすぎるっ!、麻生ミイより絶対似合う!!」

 興奮気味のリナちゃんの言葉に、その隣に居た翠ちゃんもうんうんと頷いている。麻生ミイは、あの映画の主役の女の子、刃朔羅(ハザクラ)をやっていた若手ナンバーワン(って言われてる)アイドルだ。

「麻生ミイが、映画で着てた服……?」

「そう。夏清ちゃんも見た? 本人が撮影で着てたのなんだって。すごいね、すっごく似合ってるよ」

 これが似合うってのはちょっと微妙だけど、ほめ言葉以外の何物でもないんだろう。はしゃぎまくってる二人ではなく、樹理ちゃんが答えてくれる。さっきの舞台衣装といい、ものすごいもの揃えてるなぁ 

「うん、クラスメイトと一緒に見に行ったから。結構面白かったよね」


 クラスのみんなと出かけた映画館でキリカが買った公式パンフレットには、麻生ミイという女優の全身の写真の横に、やたらと目のでっかい女の子のカラーイラスト。マンガならありえる奇抜な配色。どうしてアニメで映画化じゃなくて実写だったんだろう。しかし、このスカート丈。こんな部分まで原作に忠実ってどういうことなのさ。

「私も三人で見に行ったよ。すごかったよね、特撮」

 特撮……うん、確かにすごかった。でも私はそれより麻生ミイの演技の方がすごかったと思う。まあ、どうすごいかは言わないけど。


「ああああー! ほんっと、ミスコンの縛りが無かったらお姉さまにも着てほしかったのにっ!」

「どうしよう翠っ! ホントにモロ好みなんだけどっ!!」

 すぐ横でリナちゃんと翠ちゃんがキャーキャー騒いでる。さらに向こうには、もう何着目になるか知れないくらい着替えては撮影会をしてるユリさん。


「あ、写真撮ろうよ。せっかくだからっ」

「賛成っ じゃあみんなで撮ろうっ」

 応も否もなく、私は二人に引きずられて、部屋の隅につけられたベージュのロールスクリーンの前に立たされる。ポーズ指導はリナちゃん。抜刀して構えてくださいとか、無理だから、そんな恥ずかしいポーズは。

「ええー『刃朔羅(ハザクラ)見参!!』とか言ってよぅ」

「絶対無理。ってか、写真に写らないから、声は」

 キャラクタ名を出して、リナちゃんがポーズを決める。まあ、よく見なくてもすごいかわいい子だし、手がすんなり長いから、妙な姿勢も妙にキマって見える。


「ん?」


「どうかした? 夏清ちゃん?」

 騒がしいノイズの中に、なにか別の気配が混じったような気がして、窓の外を見る。この学校の校舎はコの字型になって、中庭を挟んだ向こうにあまり人気のなさそうな教室が見える。今何か、光った?

 窓際まで歩いて、もう一度向こうを見ると、閉められたカーテンが不自然に揺れている教室があった。

「あの教室って、今日使ってる? 誰かいたような気がしたんだけど」

 私たちが居るのが二階。指を指したのはほぼ対面にある校舎の四階の教室。それを見上げた樹理ちゃんが、緩々首を振っている。

「あそこ? 二階までは展示とかに使ってるけど、あの校舎の四階の教室はここと同じで特別教室だから用はないはずなんだけど……三階は私たち三年の教室だし……ああ、やっぱり、三階には生徒がいる」


 樹理ちゃんが言うとおり、三階の教室はほとんどのカーテンが開かれ、ところどころ窓も開いていて、生徒の影が見える。そして、私が気になる四階は全ての教室のカーテンが閉まっている。気のせいかな。生徒が居ただけかな。でもなんか、さっきの背筋が寒くなるような感覚は見逃しがたくて、とりあえず確認だけしたいと言ったら、樹理ちゃんたちも一緒に来てくれた。



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