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第二章 恋におちたら
45 side樹理
しおりを挟む当初の目的であったトイレを済ませた逢と手をつないで会場にはいる。人々の間を縫って、母親と別れた場所を覚えているらしい逢が先に歩いていく。
「逢」
不意に呼び止められて、逢が足を止めて周りを見上げる。一緒になって周りを見ると、ほっそりとした体にシンプルな青いチャイナドレスのようなドレスを着た女性が手招きしている。
「琉伊ちゃん」
「あっちには行かないほうがいいわよ」
歩みよる逢にささやくようにそう言って二人を壁際の椅子の並ぶ場所に誘い、ウェイターを呼び止めてオレンジジュースを三つオーダーした。
「琉伊ちゃんがいるってことは、もしかして大魔神様御降臨? 電話かけてきたのは琉伊ちゃん?」
「もしかしなくてもよ。私、実は少し早くからどうも哉がこのパーティにでるらしいって知ってたから。当然黙ってたわよ。知ったらあの人絶対行くじゃない? 東京から離れておこうと思ってなだめてすかして何とか南の島にバカンスに連れ出したんだけど正午過ぎかしら、どこのマヌケか知らないけれどあの人の携帯に哉のことをチクってくれた馬鹿がいてね。空港のラウンジで搭乗待ってたところに! で、とんぼ返りよ。せめて飛行機に乗ってたら何とかなったのに。でもよかったわ、離れててくれて。ごめんね、逢。実冴さんに電話したの、私なのよ」
グラスに注がれたオレンジジュースを持ってきてくれたウェイターに礼を言って琉伊が自分の分をとる。
「あああー だからお母さん、慌てて来たんだ。あ、樹理ちゃん、この人、哉くんの妹の琉伊ちゃん」
「え、あ、あの、行野樹理ですっ えっと、あの、初めまして」
話しかけるきっかけが見当たらず、自分のオレンジジュースを少しずつ飲んでいた樹理が突然の紹介にぴょんと椅子から立ち上がる。
「初めまして。氷川琉伊よ。よろしくね。なんとなく似てるでしょう? でも哉はほぼ能面だからね」
ほっそりとした顔。薄い唇をちょっと皮肉っぽくゆがめて笑う顔でも好印象なのは目が笑っているからだろうか。
「写真よりかわいいのね。ああ、ごめんなさい。母がそれはもう、呪うためにしても無駄だろうってくらい大量にあなたの写真を持っているものだから。ほとんど隠し撮りみたいだけどね。それからあなたに関する資料も。斜め読みだけれど家族構成はもちろん幼稚園から現在に至るまでの学校、果ては生まれた産院まで知ってるわよ、私」
ぽかんとした表情の樹理に、くすくすと笑いながら琉伊が続ける。
「母は兄の嫁選びで大失敗したと思っているからそれはもう念入りに哉の嫁を探していたのよ。そこにあなたでしょう? 一度完全に切れたのに誰も知らないうちに突然関係が復活したと思えば、色恋なんて絶対なさそうな哉があなたのために辞表まで出しちゃうんだから、そりゃあとんびに油揚げさらわれちゃったようなものでしょう? それもまあ、氷川と同格の企業のお嬢様ならともかく、協力工場の娘じゃあの人にとってはあなたは大事な大事なお魚を銜えて逃げた泥棒ネコってとこかしら」
「琉伊ちゃん、それちょっと言いすぎ」
「あら、現実は早めに把握しておかないと、知らずに過ぎたら後で痛い目にあうでしょう? 申し訳ないんだけど、ちょっと込み入った話をしたいから、逢は敵情視察をお願いしていいかしら?」
「あーあ。琉伊ちゃんも逢だけ仲間はずれにするんだ」
半分残ったジュースを琉伊に押し付けて、逢が椅子から降りて、文句とは裏腹に何かを含むような顔で笑いながら敬礼して去っていった。
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