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第二章 恋におちたら
36 side樹理
しおりを挟む三人で同じ機種を持つなら、色違いがいいだろう。ざっと見ても色も同じ赤でも機種によってワインレッドから絵の具の赤色までいろいろだ。
結局色のバリエーションで翠の持っている機種を契約することにした。二人は言っていた通り、今までの携帯電話から新しいものに替えている。しかも、前に替えてから半年も経っていないらしく、二万円を超える出費だ。ものともしていない様子だが。
データの移し変えもすぐに済み、樹理のほうも先に契約書を作っていたこともあってすぐに電話が手元にやってくる。樹理が空色、真里菜が桜色、そして翠はやぱり緑色だ。今度のは深緑。
一階のコーヒーショップでお互いの番号を交換し、樹理の携帯のメールアドレスをわかりやすいものに直し、それも交換する。やれやれと一息つくまもなく、早々にキャラメルラテを飲み終えた真里菜が気合を入れて立ち上がる。
「いよーっし。お姉さまの買い物終了っ じゃあ今度はリナにお付き合いねがいまーっス」
駅ビルを出て真里菜が指差したのは、駅前スクランブル交差点の向こうに建つしゃれたビルだ。訳もわからないままほぼ連行されるように樹理が付いていく。着いてから、そこがどこだかわかった。
「ここって……エステサロン?」
「そうでっす。あ、お金は大丈夫。私、身内だから。私のお友達からお金を取るような人は身内にはいないし」
及び腰になった樹理の両手を、二人が両側から逃げられないようにがっちりつないだまま、エレベーターで七階へ上がる。着いた先は先ほどまでより明らかに豪華さが違うじゅうたんが敷かれ、ところどころに配置された大きな花瓶にはきれいな花が飾られている。
正面のドアを元気よく開けて、真里菜が人を呼んだ。
「かーおるちゃーん。リナの一生のお願い聞いてー?」
部屋の中には、白いソファの来客セットと、その奥に白地に金で装飾された大きな机があり、黒い髪を結い上げた美人がそこに座っていた。
「リナ。今年何回目かしらね、あなたのそのお願い」
「十回は超えてると思う」
美人の問いかけに、真里菜がさらりと応える。
「今日はなぁに?」
苦笑しながら、美人がめがねをはずした。
「リナのお姉さまをぴっかぴかにしてくださいな」
そう言われて、美女はいつもより一人人数が多いことに気づいたらしい。
「あら、お姉さま?」
「はい。行野樹理お姉さま」
ニコニコと笑っている真里菜に対して、樹理は引きつった笑みを何とかゆがまないようにするのに必死だった。目の前の美人、見たことがある人だと思ったら、そうだ、このサロンの社長だ。名前は確か。
「こんにちは、樹理さん。真里菜と親しくしてくださってありがとう。私は次能香織(つぐのうかおる)と申します。真里菜の祖母よ」
見えません。と言う言葉が口をついてでてきそうだ。目の前の美女はどう見ても三十代半ば……どう年上に見積もっても四十代だ。次能と言う姓ならば、あの美青年の母か。だとしたらどんなに若くても四十代後半以上のはずなのに、絶対見えない。真里菜の母ですと言われてもそうですかと納得するだろう。
「は、はじめまして。行野樹理です。こちらこそ、真里菜さんにはお世話になりっぱなしで……こんなところまで来てしまって。すいません」
ぺこりとお辞儀をする樹理に、香織はにっこり微笑んだ。
「よかったわ。常識がありそうで。リナにいろいろ教えてやってくださらない? 私が言うのもなんだけど、本当に枠に収まらない孫なのよ」
「はあ」
「あなた達はどうするの?」
どう応えていいものか間の抜けた返事をした樹理の左右の少女達に香織が問う。
「私達、今日は顔だけー そんなに気合入れない感じでお願いしまーっす」
「そう、じゃあ隣で待っていて。樹理さんは全身ぴっかぴかでいいのね?」
「もう、これ以上ないってくらいに」
いってらっしゃーいと見送られて樹理は香織に促されるまま別の部屋に通された。
「あなた、だまされてつれてこられたんでしょう」
くすくすと笑いながら香織に問われて、樹理がうなずく。今日は携帯を買った後は別の買い物に付き合ってほしいと頼まれていたのだ。
「えっと、あの、したふりっていうか、私、エステとかは別に……」
「ダメよ。ふりなんてできるわけないでしょう。使用前使用後。ビフォーアフターでどうなるか、体験してみなさい」
なんだか自信たっぷりにそう言われて、差し出されたピンク色のガウンを受け取ってしまった樹理だった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
私はカクカクした携帯が好きだった。
そして、香織さんはたぶん、ろくじゅ……げふんげふn
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