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第二章 恋におちたら
35 side樹理
しおりを挟む「本当にごめんなさい。三時には帰ります」
結局、予定を前倒しするからと押し切られ、断りきれなくて土曜は朝早くからばたばたと用意して樹理は慌てて家をでた。
哉がなんとなく怒っていたような気がするけれど、不機嫌そうなのはいつものことなので気のせいと言うことにして、樹理は待ち合わせの場所に急ぐ。電車がいつも通り遅れていたら……それに乗れば多分間に合う。
着ていく服に散々悩み、あの二人に会うのだから、哉に買ってもらった服を着ていけば外れないだろうと今日はシンプルなデザインのシャツと膝丈のシフォンスカートを選んだ。選ぶのに時間をかけすぎてこの急ぎっぷりだ。
大急ぎで駅構内を走り、階段を駆け上がってホームにまだ停車していた電車に飛び乗る。いつもと反対側に向かう電車は、見慣れない町並みの中を規則正しくゆれながら進んでいく。そして、待ち合わせの駅に付く頃には動悸も息切れもなかったことにできた。改札の向こうにいた目立つ二人連れが樹理に気づいてキャーキャー言いながら手を振っている。道行く人々が目を見張りながら彼女達の横を通り過ぎていくが、本人達は周りの注目を集めていることなど全く気にしていない。
「かわいい! 似合ってる!!」
そう言う真里菜はお尻がかろうじて隠れるくらい短い桜の花柄のワンピースの下に、ひざ小僧が見えるくらいの長さの桜色のスパッツをはいている。絶対彼女のほうがかわいい。
「ボクもほしかったんだけどさすがに三枚目だしあきらめたスカートだぁ」
ブランドをいいあててうらやましそうに言う翠は、少年のような細い体にぴったりと沿ったヘソが見えそうな丈のTシャツにこれまた細身のジーンズをはいている。
足元は二人とも素足にかかともつま先もものすごい高さがあるミュールだ。ローヒールに近い樹理が一番背が低くなっている。
「んじゃまぁ とにかく。ケータイ選びれっつらごーで」
待ち合わせた駅はその建物がそのまま総合商業施設になっている。三階から七階までがすべて有名家電量販店で、その上にこれまた有名洋服ブランドの店が入り、最上階に書店がある。
契約に必要な書類は予め哉が全部調えてくれているので、後は機種を選ぶだけだ。ご機嫌斜めでもちゃんといろいろしてくれる。その上、出がけにぽんとカードまで渡された。これで携帯本体の支払いをするようにと。
携帯電話を扱う売り場は、入ってすぐの一番目に付く場所にあった。その隣にパソコンがずらりと並んでいる。
ピラミッドのようになったひな壇に、携帯電話がこれでもかと並んでいる。真里菜と翠は一つ一つ手にとって、あれでもないこれでもないと品定めに夢中だ。
「リナこれがいい」
「ええー 丸すぎ。こっちくらいのがいいよ」
「この前は翠のいいって言ったのにしたんだから今度はリナの番だもん」
「「お姉さま、どっちがいい!?」」
ステレオの問いかけと同時に、二つの携帯電話が差し出される。どちらも大手メーカーの最新夏モデルだ。価格は同じ。新規なら一万二千円台。
「え。別に……こっちでも……」
言いながら、隅にちまっと収まっているものを指す。新規ゼロ円。どっちでも電話がかけられてメールができればそれでいいではないか。
「ダメダメダメダメーっ だって、ボク達もおそろいに替えるんだもん」
「液晶とか、文字がガタガタしてなくて滑らかとか、ボタンが押しやすいとか音がクリアとか音楽がきれいとかっ とにかくそれとこれとじゃぜんぜん違うの。型遅れの安物はダメですよ、安物はっ」
さあどっち!? と、さらにずいっと携帯電話が寄ってくる。どっちでもいいとはいえない雰囲気だ。二人の持っているものを見比べる。翠の言うとおり、真里菜の持っている携帯電話はコロコロ丸い。代わって翠の持っている携帯電話は、カクカク四角い。
「……どんな色があるか、見てから決めていい?」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
この話はね、12年前に書いたんですけど。ええ。
第一章から第二章、朝チュンでつながってるけど、実は執筆にすごい時間開いてるんですよ…
微妙に言い回しが古かったりするけどそのままにします。
携帯電話は本当に形のバリエーション豊富でしたよね…
価格も高いものだって一桁前半万円で買えたし。
現代に真里菜と翠が居たら迷わずあいぽん()の最新機種使ってるイメージ…
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