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第二章 恋におちたら
29 side樹理
しおりを挟む「いつもいつも。本当に風みたいに」
指示を待つまでもなく、巨大な金魚鉢が片付けられていくのを見ていたら、都織が消えた木立を見ていた美礼がため息をつく。しかしその口元は笑っている。
「樹理さん、申し訳ないわね。ああいうのが親な上に、翠さんと一緒だとこの娘たちは台風みたいでしょう?」
「ハイ、あ、いえ……」
思わずうなずきかけて慌てて否定するが、言葉が続かない。
「いいのよ。まじめに付き合うと疲れるだけだから、適当に断ってやって」
「おばあ様、私、別にお姉さまに無理をお願いしたりしてません。あくまでもおしとやかに。さりげなく、思ってることの半分も……」
「そうね、言葉遣いは目上の方に対しては合格だわ。私に対してもそんな口の聞き方、したこともないのにがんばっているわ。でもね、真里菜」
言葉を切って、孫娘の目をじっと見つめながら、美礼が続ける。
「あなたの半分は普通の人の倍だと思いなさい。思っていることの十のうち一つで十分よ」
「そんなのちっとも面白くないっ」
「あなたを面白がさせる為に樹理さんがいるわけではないのよ」
「……そんなのわかってるもん」
ちいさな赤い唇が、つんととがっている。すねてもかわいい。先ほどまでとは口調が明らかに変わっている。こちらのほうが地なのだろう。隣にいる翠も同じような顔だ。彼女もこの人には頭が上がらないらしい。
「お姉さま、ご迷惑ですか?」
「私たちとは一緒にいたくないですか?」
じっと見つめるように、上目遣いで大きな瞳が迫ってくる。
「真里菜、翠さん。それがダメなの。そんなこといわれて、樹理さんが迷惑だなんておっしゃるわけがないでしょう」
先ほどとは違って、美礼は困りきったような顔でため息をつき、樹理を見た。どうやらこのお茶会は、この二人の少女たちにクギを刺すためのものだったらしいと樹理も理解した。
「真里菜さん、翠さん、あなたたちはそんなふうに言われて楽しい?」
樹理の言葉に、二人がきょとんとした顔になる。そしてお互いの顔をみて、シンクロするように首を横に振ってしょぼんとうなだれる。
「そうよね、あんまり楽しくないわよね。私、ずっと違和感があったの。できれば、ただ一緒に遊ばない? って言ってほしかったんだわ。二人ともなんだか他人行儀な誘い方で、線を引かれてるような感じで……その……迷惑ではないけど一緒にいてもちょっと寂かったわ。ただ仲良くなりたいだけですって言われても、イマイチ信用しきれなかったのはそのせいかも」
ますます二人がうなだれている。つむじの天辺まで見えそうな角度だ。
「二人がもしよかったらなんだけど、明日は第一学食でお昼をしましょう。真里菜さんのおばあ様のお弁当もおいしかったけど、あそこのパスタもおいしいから」
二つの頭がぱぱっとあがってくる。
「それと、言葉遣いも、堅苦しいのはもうたくさん」
樹理が笑ってそう言うと、二人も笑う。
「よかったー ホントは舌噛みそうでどうしようかと思ってて。私の一人称も言い馴れなくて気持ち悪いし。いっつもボクなのに」
翠がそう言うと真里菜もそうそうとうなずく。
「リナも気持ち悪かったー お嬢コトバで攻めようって決めたけど、翠がワタシって言うたびに『ひぃ』って感じ。あごの運動にはなるけどねー お姉さまがいつ気持ち悪いからやめてって言ってくれるか待ってたの」
「待ってたの? 私はもう、あなたたちはいつもそう言う言葉遣いなのかと思ってあわせるのに必死だったのに」
くすくすと笑う少女たちに、美礼があきれたようにつぶやいた。
「全く、世話の焼ける子達だこと」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
上げなおしてて思ったんだけど真里菜のおばあ様である美礼さんは50歳になっていない。
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