94 / 326
第二章 恋におちたら
22 side哉
しおりを挟む連休後半も穏やかに日々が過ぎていった。ただし哉はところかまわず転がって何時間でも本を読んでいた。樹理に部屋を明るくして座って、適度に目を休めるように言われていたが、あまり守っていた様子はない。
最後の一日だけ水族館に行っただけでほぼ自宅で過ごした。
さすがにその一日は、哉は家の中で樹理と二人きりでいるのが気詰まりだったのだ。
理由は、その前々日に届けられた衣装の山だ。
届くのはドレスだけだと、それだけならやっぱりきれいなドレスはうれしかったらしく、礼を言ってくれたのだが、あれもこれもそれもとずらずらと出てくる服、服、服である。そんなにたくさん頼んだ覚えはない。喜ぶどころか一着あるワンピースとボレロだって着る機会があまりなさそうでもったいないと思ったのに。これは何たることなのか。
呆然とした顔が、言葉もなくそう言っていたような気がした。
さらに、それにあわせた靴やアクセサリーもてんこ盛り付いてきた。ほとんど空だったシューズクローゼットがあっという間に半分埋まったし、何も入っていなかった和室のクローゼットにある引き出しにはキラキラと光るネックレスやイヤリング、ブレスレットに装飾品として価値の高そうな腕時計がずらりと並んだ。しかも結局服は和室の小さなクローゼットに入りきらず、使っていない洋室のクローゼットまで占拠した。
そして哉は、喜ぶと思ったのに、どんどん曇っていく樹理の顔をみて、勝手に買ったことを素直に謝った。樹理は特大のため息をつくことで応えて、和室にこもってしまった。
それでも、ちゃんとご飯は作ったのだから樹理も大したものだが、下を向いてもくもくと食べ、哉を見ようともしなかったのだ。
片づけが終わると、また何も言わずに和室に入ってしまった。翌日も同じで、いつも自分から声をかけてくれる樹理が本当に全くしゃべらない。
最終日の朝も哉が起きるとテーブルに朝食が用意されていたが、樹理の姿がない。中にいないときは空いている和室の障子がぴっちりと閉まっている。
「樹理、入っていいか?」
和室の障子越しに声をかけて、返事はなかったがそっとあけると、真ん中でこちらに背を向け、樹理がちょこんと座っていた。
「悪かったから、もう機嫌を直して何かしゃべってくれ」
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる