幸せのありか

神室さち

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第一章 幸せのありか

39 side樹理

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「そうねぇ、速人君の基準じゃこの家のかもいで頭打たなかったらチビになるんじゃないかしら。ここのかもい、すごく低いでしょ? 当たらないって分かってても身を屈めてるだけ。速人君も百八十はないよ? と言うより哉君はいつも速人君よりバカでかいのと並んでいるから、どうしても小さく見えるんじゃないの?」


 そう言えばあっちのバカはなにしてるのかしらねぇと独り言をつぶやきながら、理右湖が速人の使っていた食器を片付けている。

 二人の少女につられるままに久しぶりに満腹までご飯を食べた樹理が苦笑してもう食べられないからと断っても二人とも残念そうにしている。

「ほら、椿はサッカーの練習があるんでしょう? 桜も遊びに行くんじゃなかったの? 遅れるわよ」


 お茶を運んできた理右湖にそう言われて時計を見てやっぱりぎゃあぎゃあとわめきながら二人が出ていった。椿はユニフォームに、桜も制服から私服に着替えて食卓に現れてまだ帰らないよねと樹理に聞いてきた。どうしたらいいか分からなくて理右湖に助けを求めるように視線を向けると理右湖が笑って、今日はまだ帰らないから大丈夫と二人を送り出す。

 柱にかかったカレンダーと寝ていたという日数と自分の記憶を照らし合わせて今日が月曜日だと言うことを確認する。

「ごめんなさいね、うるさくって。ちょっとそのまま待ってて、速人君呼んでくるから」

 三人分のお茶を置くと理右湖が診療所の方へ消えて、すぐに帰って来た。その後に速人が低いかもいに手をかけて屈んで越えながらやってくる。

「具合は?」

「はい。もう全然」

 ひいていた風邪も治っていた。咽の痛みも、全然ない。

「そうか」

 たったそれだけで会話が途切れてしまう。何を言っていいのか分からなくてどうしようかと思っていたら理右湖が口を開いた。

「あのね、樹理ちゃん……」

 理右湖が言いにくそうにそこで言葉を切った。この二人は樹理が何をされたのか分かっている。治療をしてくれたのはこの人達だ。

「あのバカのことは気にしなくていい。自分の家に帰りたかったら帰っていいそうだ。何も気にせずに帰っていいといっていたぞ」

「あの……バカ……?」

「哉だ哉!! 昔から変なヤツだったけどこんなことするとは思わなかったぞ。その上一回も見舞いにも来やしねぇ」

 哉が見舞いに来ないのは、あたりまえだと思う。哉が毎日とても忙しく仕事をしていることを知っていた。見舞いなど来れるわけがない。

 そして彼の仕事を増やしているのは自分であり、父の会社であることを。


「あの………」

 哉のことを言おうとして、気付く。一度も彼のことを呼んだ事がなかった。どう言おうか迷った後、結局。

「………氷川さんと……」

「同級生だ! 歳は二十七! 俺もあいつも違う意味で見えないだろうけどな」


「にじゅう、なな?」


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