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第一章 幸せのありか
25 side哉
しおりを挟む久しぶりに湯船に浸かってゆっくりと風呂に入った哉がダイニングに行くと、帰って来た時感じたよりもっといいにおいがしていて、ちゃんと暖めなおされた食事がテーブルに置いてある。
「…………」
「あ、すいません、いらない、ですか? ビールとかの方が……」
なにも言わずにそれを見ている哉にお茶を運んでいた樹理がくるりと方向転換をしてキッチンに戻ろうとする。
「ビールはいい。こっちを食うから」
座ると樹理がほっとしたようにしながら、ことんと湯のみを置く。
なんのことはない、朝食と同じく白いご飯と、こちらは具の違う味噌汁。白身の魚と根菜類の煮つけ、鳥のささみが入っている酢の物。
全体的に色素の薄く、どう見ても、見た目今時の女子高生な樹理から想像のつかない純和風。
「あの、ご飯とか、お代わりありますから、言ってもらったら……」
「構うな。とっとと風呂に入って寝ろ」
「……はい」
ぺこんと樹理が頭を下げてキッチンに盆を返しに行き、すぐに和室に戻り、着替えを持って今度は風呂場に走っていく。
黙々と箸を動かす。夕食は会社で済ませていたけれど、こっちの方が美味かった。少なくとも哉がキライなものが出て来ることはないはずだ。
食べながら何気なく室内を見渡す。全体的に微妙に明るい。床も埃一つなかった。そう言えば廊下の獣道も消えていた。
ふと、今着ているバスローブの衿をつかんで匂いを嗅ぐ。ちゃんと洗って乾燥機にでも入れたのか、かすかに石けんの匂いがした。
倒産寸前の会社がどう持ちなおすのかが見たくて、ちょっとしたゲームのつもりではじめたけれど、なかなかどうして、樹理はそれなりにちゃんと働く。
味噌汁をすすると今朝と全然味が違うことに驚く。
おそらくだし汁まで変えたのだ。朝はカツオか何かを使っていたのだろうけれど、魚の好みを聞いて昆布でとることにしたらしい。
コレは本当に、渡りに船でいいものを拾ったかもしれない。
そしてなぜか笑えてきた。
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