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第33話 チームワーク
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「なあアルベート。お前らはともかくとして、マルクはなんで冒険者なんかやっているんだ? あの腕前と統率力なら、もっといい職に就けるだろうによ」
「あ、兄貴……さらっと言いましたが、今のは結構傷つきましたよ……。俺がこのチームに入ったのは半年前なんで、詳しいことは分かりません」
「そうなのか? もっと古い付き合いだと思っていたんだけどな」
「俺の趣味が高じて前のチームから追い出され野垂れ死に寸前のところを、マルクさんが拾ってくれたんです」
生い茂る枝葉を掻き分けて、談笑を交えながら歩みを速める現在地は42階層。
超巨大な方錐形の体を成すハラムディンの半分を過ぎたあたりだ。
マルクの先導は実に老獪で、エリシュが持参した迷路地図だけでは知り得ない情報を補填しながら、屈強な外魔獣との戦闘を巧みに避け、進んでいく。
だが、ハラムディンの大部分を占める迷路はそんなに甘くはない。
「二人とも、お喋りはそこまでだ。———外魔獣が10……いや、15体ほど進路を塞いでいる」
マルクの言葉に素早く視線を戻す。
茂みが揺れ、幾重にも連鎖する葉擦れ音。一匹、二匹とその姿をさらけ出していく。
ミルラット。
今まで何度か遭遇したことのあるネズミを模した外魔獣。
大きさは大型犬くらいあり、常に群れで行動し、俊敏な動きで相手を撹乱。鋭利な前歯で喉元目掛けて喰らいついてくる。
「さて……どうする? ヤマト」
言いながら、槍を構えるマルクの拳に力が注ぎ込まれていく。
いつでも準備はできている、と。
自分の意思を隙のない構えと鋭い眼光で知らしめる。その上で、最後のジャッジをこの俺に委ねる言い回し。
リーダーを買って出たマルクは、人を乗せるのが上手いヤツだ。
常に冷静。瞬時の判断が生死を分かつ場合に限り有無を言わさず号令を出すが、それ以外は周りに意見を必ず求める。
相手は討伐ランクCの外魔獣。「お前の覚悟を見せてみろ」と、挑発されていると捉えるのは少々穿ち過ぎだろうか。
どちらにしろ、回り道は極力避けたい。
だったら、マルクの思うがままに乗せられよう。……そもそも悪い気分じゃねぇしな!
「へっ、聞くまでもねぇな! 当然強行突破だ! いくぞっ!」
茂みの奥に怪しく光る瞳に向かい、俺は狭い通路を駆け出した。
「……で、マルク。お前が50階層の階層主だったって話はホントなのか? ……よっと!」
先頭を駆るミルラットを、充分に懐まで呼び寄せて、一刀で切り伏せる。その影から襲いかかるもう一匹のミルラット。拙い波状攻撃を上体だけ逸らして躱すと、俺は後方のマルクを見た。
「ああ、本当だ。もう三年も前の話……だがな!」
攻撃が空振りに終わり、宙に浮くミルラットをマルクの槍が突き落とす。
「50階層とはいえ、階層主なら生活には困らなかっただろ? なのにどうして冒険者なんかやっているんだ?」
マルクに疑問を投げかけてるその間にも、俺は右のミルラットを右下から切り上げて反転。返す刀で左のミルラットを真上から両断する。
「60階層に予備兵を回せと言われてな。下層のほうが断然に外魔獣が多いのにだ。俺がそんな余裕は下層にはないと断ると、60階層の階層主は王城に虚偽報告をすると言う。あまりに頭にきたんでな、そのまま60階層に乗り込んで、階層主を殴りつけてやったんだ」
三匹のミルラットがマルクを襲う。話しながらでも素早い刺突による二連撃は、確実にミルラット二匹の眉間を貫いた。跳び上がり頭上から迫りくるミルラットには、槍を高速回転させての対空防御。『ギャン!』と一鳴きしてミルラットは弾かれる。
槍の回転を頭上で綺麗に止めると、そのまま矛先の刃の部分で、無防備にさらした毛深い腹を切り裂いた。
「———ふふ、うわっはははははは! こいつぁいい! いつもは冷静なマルクも意外と熱いモン持ってるじゃねーか! 俺と気が合うかもしれねえな! ……っと、あぶねぇ!」
あまりの可笑しさに、俺は戦闘中に腹を抱えて笑ってしまった。その隙に急襲するミルラット二匹。その攻撃を躱しつつ、二匹目にはしっかり剣を合わせカウンター。外魔獣の勢いを利用して、あっさりと頭部をかち割った。
なんだかんだと話しながら、ミルラットの群れの半数を俺とマルクで駆逐した。残りは俺たちの傍をすり抜けるように、エリシュたちの後衛へと牙を向ける。
エリシュの短い詠唱から、鋭い火炎による三連弾。その狙いは違うことなくミルラット三匹を一瞬で灰燼と化した。
「ふんっ! とぉ!」
「やああああああぁぁぁ!」
アルベートとクリスティも複数のミルラットを相手に善戦中だ。
……いやいや、ちょっと押されているかも。
クリスティの背後から、一匹のミルラットが好機とばかりに襲いかかる。
「あ、危ねぇ!」
俺の声と同調して、エリシュの火球が奇襲をかけたミルラットを撃ち抜いた。
続けざまにもう一射。アルベートの憂いも消し炭にする。
それぞれ一対一となったアルベートとクリスティは、何合か剣を振るった後、対峙するミルラットにとどめを刺した。
外魔獣の全滅を確認し、エリシュがゆっくりと近づいてくる。
「……前衛の二人。いくらミルラットが相手だからと言ってもね、もう少し戦闘に集中して欲しいわ。今程度の攻撃なら、もう二匹くらいは前衛で仕留められたはずよ」
「おーこわ。次からは、エリシュさんの言う通りにしますって」
「ヤマト。だいたいあなたはね、いつもそう。もうちょっと……」
エリシュのお説教は、途切れることなく延々と続いていく。
俺の戯けた返答に、マルクから含み笑いが溢れると、アルベートとクリスティも控えめに笑う。
小言を言いながらエリシュの顔も、いつの間にか苦笑いへと変わっていた。
「あ、兄貴……さらっと言いましたが、今のは結構傷つきましたよ……。俺がこのチームに入ったのは半年前なんで、詳しいことは分かりません」
「そうなのか? もっと古い付き合いだと思っていたんだけどな」
「俺の趣味が高じて前のチームから追い出され野垂れ死に寸前のところを、マルクさんが拾ってくれたんです」
生い茂る枝葉を掻き分けて、談笑を交えながら歩みを速める現在地は42階層。
超巨大な方錐形の体を成すハラムディンの半分を過ぎたあたりだ。
マルクの先導は実に老獪で、エリシュが持参した迷路地図だけでは知り得ない情報を補填しながら、屈強な外魔獣との戦闘を巧みに避け、進んでいく。
だが、ハラムディンの大部分を占める迷路はそんなに甘くはない。
「二人とも、お喋りはそこまでだ。———外魔獣が10……いや、15体ほど進路を塞いでいる」
マルクの言葉に素早く視線を戻す。
茂みが揺れ、幾重にも連鎖する葉擦れ音。一匹、二匹とその姿をさらけ出していく。
ミルラット。
今まで何度か遭遇したことのあるネズミを模した外魔獣。
大きさは大型犬くらいあり、常に群れで行動し、俊敏な動きで相手を撹乱。鋭利な前歯で喉元目掛けて喰らいついてくる。
「さて……どうする? ヤマト」
言いながら、槍を構えるマルクの拳に力が注ぎ込まれていく。
いつでも準備はできている、と。
自分の意思を隙のない構えと鋭い眼光で知らしめる。その上で、最後のジャッジをこの俺に委ねる言い回し。
リーダーを買って出たマルクは、人を乗せるのが上手いヤツだ。
常に冷静。瞬時の判断が生死を分かつ場合に限り有無を言わさず号令を出すが、それ以外は周りに意見を必ず求める。
相手は討伐ランクCの外魔獣。「お前の覚悟を見せてみろ」と、挑発されていると捉えるのは少々穿ち過ぎだろうか。
どちらにしろ、回り道は極力避けたい。
だったら、マルクの思うがままに乗せられよう。……そもそも悪い気分じゃねぇしな!
「へっ、聞くまでもねぇな! 当然強行突破だ! いくぞっ!」
茂みの奥に怪しく光る瞳に向かい、俺は狭い通路を駆け出した。
「……で、マルク。お前が50階層の階層主だったって話はホントなのか? ……よっと!」
先頭を駆るミルラットを、充分に懐まで呼び寄せて、一刀で切り伏せる。その影から襲いかかるもう一匹のミルラット。拙い波状攻撃を上体だけ逸らして躱すと、俺は後方のマルクを見た。
「ああ、本当だ。もう三年も前の話……だがな!」
攻撃が空振りに終わり、宙に浮くミルラットをマルクの槍が突き落とす。
「50階層とはいえ、階層主なら生活には困らなかっただろ? なのにどうして冒険者なんかやっているんだ?」
マルクに疑問を投げかけてるその間にも、俺は右のミルラットを右下から切り上げて反転。返す刀で左のミルラットを真上から両断する。
「60階層に予備兵を回せと言われてな。下層のほうが断然に外魔獣が多いのにだ。俺がそんな余裕は下層にはないと断ると、60階層の階層主は王城に虚偽報告をすると言う。あまりに頭にきたんでな、そのまま60階層に乗り込んで、階層主を殴りつけてやったんだ」
三匹のミルラットがマルクを襲う。話しながらでも素早い刺突による二連撃は、確実にミルラット二匹の眉間を貫いた。跳び上がり頭上から迫りくるミルラットには、槍を高速回転させての対空防御。『ギャン!』と一鳴きしてミルラットは弾かれる。
槍の回転を頭上で綺麗に止めると、そのまま矛先の刃の部分で、無防備にさらした毛深い腹を切り裂いた。
「———ふふ、うわっはははははは! こいつぁいい! いつもは冷静なマルクも意外と熱いモン持ってるじゃねーか! 俺と気が合うかもしれねえな! ……っと、あぶねぇ!」
あまりの可笑しさに、俺は戦闘中に腹を抱えて笑ってしまった。その隙に急襲するミルラット二匹。その攻撃を躱しつつ、二匹目にはしっかり剣を合わせカウンター。外魔獣の勢いを利用して、あっさりと頭部をかち割った。
なんだかんだと話しながら、ミルラットの群れの半数を俺とマルクで駆逐した。残りは俺たちの傍をすり抜けるように、エリシュたちの後衛へと牙を向ける。
エリシュの短い詠唱から、鋭い火炎による三連弾。その狙いは違うことなくミルラット三匹を一瞬で灰燼と化した。
「ふんっ! とぉ!」
「やああああああぁぁぁ!」
アルベートとクリスティも複数のミルラットを相手に善戦中だ。
……いやいや、ちょっと押されているかも。
クリスティの背後から、一匹のミルラットが好機とばかりに襲いかかる。
「あ、危ねぇ!」
俺の声と同調して、エリシュの火球が奇襲をかけたミルラットを撃ち抜いた。
続けざまにもう一射。アルベートの憂いも消し炭にする。
それぞれ一対一となったアルベートとクリスティは、何合か剣を振るった後、対峙するミルラットにとどめを刺した。
外魔獣の全滅を確認し、エリシュがゆっくりと近づいてくる。
「……前衛の二人。いくらミルラットが相手だからと言ってもね、もう少し戦闘に集中して欲しいわ。今程度の攻撃なら、もう二匹くらいは前衛で仕留められたはずよ」
「おーこわ。次からは、エリシュさんの言う通りにしますって」
「ヤマト。だいたいあなたはね、いつもそう。もうちょっと……」
エリシュのお説教は、途切れることなく延々と続いていく。
俺の戯けた返答に、マルクから含み笑いが溢れると、アルベートとクリスティも控えめに笑う。
小言を言いながらエリシュの顔も、いつの間にか苦笑いへと変わっていた。
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