16 / 53
第16話 新しい装備で気合を入れろ!
しおりを挟む
新しい装備に身を包まれ、俺たちは大型施設を後にした。
聖支柱からの眩しい光を跳ね返し、キラリと輝く軽量甲冑。
胸部と左肩を守るだけの軽装備と違って、硬質な素材で精製された軽量甲冑は上半身のほとんどを覆っており、それでいて機能性にも余念がない。関節部を境目にエルボーパットやガントレット、両肩のショルダーパットもそれぞれが独立した作りとなっている。
装備するにはやや時間が掛かる代わりに、関節の可動域を妨げないこの防具は、俺の一つ頭を抜きん出ているAGIを最大限活かせるように、エリシュが見立ててくれたものだ。
防具を扱う店舗で数多の商品が陳列する中、一番高価な軽量甲冑を選んだだけあって、装着感も文句なく、しかも軽い。
35万Gという値段が高いのか安いのか俺には見当がつかなかったけど、エリシュが手渡した金貨と店主の嬉しそうな表情を見る限り、決して安い買い物じゃないんだなと容易に推測できた。
もともとエリシュが装備していた軽量甲冑には大きな損傷はなかったので、その後は俺に手渡した———俺が今、ほっかむりのように被っている肌着の替えを数枚と、食料や回復薬などを大量に買い込んだ。
こうして身なりを整えた俺たちは、大きなバッグを肩から下げながら、階層主が居住する建物を目指して歩く道すがら。
人工池の周りでは、小さな子供たちが無邪気に走りまわっていた。
鬼ごっこに近い遊びなのだろうか。追い縋った子供と共に数人がコロコロ転倒すると、声変わり前の笑い声が重なり合う。その周りには目を細めて見守る大人たち。おそらくは両親、またはそれに近しい者なのだろうか。
「……本当にここは平和なんだな。さっきまでの戦いのほうが逆に、嘘に思えてくるぜ」
「下層で命を張っている人たちを土足で踏み付けて作られた、仮初の平和よ。こんなのはまやかしもいいところだわ」
先程の表情から、エリシュの心情は察したつもりだ。だがエリシュが家族の団欒へと向けた目は、憎悪と言い換えてもおかしくない鈍い眼光を、憚ることなく解き放っている。
「……でもよ、こんな言い方しちゃ悪ぃが、エリシュだってブレイクって王子だって、そのお陰で暮らしていたんだろ? 俺だってさっき理由を聞いたときにゃ不愉快だけどもさ……なんていうかエリシュ、お前ちょっと嫌い方がハンパじゃなくね?」
「……あなたには……ヤマトには関係のないことよ」
「あっそ。じゃあこれ以上は聞かねーよ。……早く階層主のところへ急ごうぜ」
他の建物より屋根一つ分高い建物が見え始めると、エリシュが歩く速度を緩ませた。あれが目当ての屋敷だと、そう告げた上で、いつにも増して隙のない真顔を向けてきた。
「いい? この階層の階層主は当然ブレイク王子の顔を知っている。だから言動には気をつけて。余計な混乱はあなただって望むところじゃないでしょう? だから王子らしく振る舞って頂戴」
「へいへい。わかったよ」
「…………フゥ」
(……今、聞こえないようにため息をついたな、おい!)
だけどここで『王子じゃない!』とか因縁をつけられていざこざに巻き込まれてしまうのは、とても困る。
俺には玲奈に会って、思いっきり抱きしめて、そしてできればそのままキスまで……。おっと妄想が暴走したようだ。
ともかく玲奈を探して救い出すのが、俺の第一優先。
もちろんこの80階層に住んでいる病み上がりの少女が玲奈なら、それですべては解決だけど、当たりを引く確率は1/3。
それにエリシュに豪語してしまったけど、姿形が変わっても果たして玲奈と分かるかどうか。
これまで勢いに支えられてきた自信が、急速にしおしおと萎え始める。
(———どこまでアホなんだ、俺は!)
両の手で、自分の頬を痛烈に打ちつける。
張られた肉の快音に、慌てて振り向くエリシュの顔を視界の端に捉えながら。
「———うしっ! 気合注入完了! もう二度とめげない、折れない、諦めない! 玲奈はきっと待っている! 早く行こうぜ、エリシュ!」
今度は俺がエリシュの細い腕を牽引して、建物目掛けて地を蹴り進んだ。
聖支柱からの眩しい光を跳ね返し、キラリと輝く軽量甲冑。
胸部と左肩を守るだけの軽装備と違って、硬質な素材で精製された軽量甲冑は上半身のほとんどを覆っており、それでいて機能性にも余念がない。関節部を境目にエルボーパットやガントレット、両肩のショルダーパットもそれぞれが独立した作りとなっている。
装備するにはやや時間が掛かる代わりに、関節の可動域を妨げないこの防具は、俺の一つ頭を抜きん出ているAGIを最大限活かせるように、エリシュが見立ててくれたものだ。
防具を扱う店舗で数多の商品が陳列する中、一番高価な軽量甲冑を選んだだけあって、装着感も文句なく、しかも軽い。
35万Gという値段が高いのか安いのか俺には見当がつかなかったけど、エリシュが手渡した金貨と店主の嬉しそうな表情を見る限り、決して安い買い物じゃないんだなと容易に推測できた。
もともとエリシュが装備していた軽量甲冑には大きな損傷はなかったので、その後は俺に手渡した———俺が今、ほっかむりのように被っている肌着の替えを数枚と、食料や回復薬などを大量に買い込んだ。
こうして身なりを整えた俺たちは、大きなバッグを肩から下げながら、階層主が居住する建物を目指して歩く道すがら。
人工池の周りでは、小さな子供たちが無邪気に走りまわっていた。
鬼ごっこに近い遊びなのだろうか。追い縋った子供と共に数人がコロコロ転倒すると、声変わり前の笑い声が重なり合う。その周りには目を細めて見守る大人たち。おそらくは両親、またはそれに近しい者なのだろうか。
「……本当にここは平和なんだな。さっきまでの戦いのほうが逆に、嘘に思えてくるぜ」
「下層で命を張っている人たちを土足で踏み付けて作られた、仮初の平和よ。こんなのはまやかしもいいところだわ」
先程の表情から、エリシュの心情は察したつもりだ。だがエリシュが家族の団欒へと向けた目は、憎悪と言い換えてもおかしくない鈍い眼光を、憚ることなく解き放っている。
「……でもよ、こんな言い方しちゃ悪ぃが、エリシュだってブレイクって王子だって、そのお陰で暮らしていたんだろ? 俺だってさっき理由を聞いたときにゃ不愉快だけどもさ……なんていうかエリシュ、お前ちょっと嫌い方がハンパじゃなくね?」
「……あなたには……ヤマトには関係のないことよ」
「あっそ。じゃあこれ以上は聞かねーよ。……早く階層主のところへ急ごうぜ」
他の建物より屋根一つ分高い建物が見え始めると、エリシュが歩く速度を緩ませた。あれが目当ての屋敷だと、そう告げた上で、いつにも増して隙のない真顔を向けてきた。
「いい? この階層の階層主は当然ブレイク王子の顔を知っている。だから言動には気をつけて。余計な混乱はあなただって望むところじゃないでしょう? だから王子らしく振る舞って頂戴」
「へいへい。わかったよ」
「…………フゥ」
(……今、聞こえないようにため息をついたな、おい!)
だけどここで『王子じゃない!』とか因縁をつけられていざこざに巻き込まれてしまうのは、とても困る。
俺には玲奈に会って、思いっきり抱きしめて、そしてできればそのままキスまで……。おっと妄想が暴走したようだ。
ともかく玲奈を探して救い出すのが、俺の第一優先。
もちろんこの80階層に住んでいる病み上がりの少女が玲奈なら、それですべては解決だけど、当たりを引く確率は1/3。
それにエリシュに豪語してしまったけど、姿形が変わっても果たして玲奈と分かるかどうか。
これまで勢いに支えられてきた自信が、急速にしおしおと萎え始める。
(———どこまでアホなんだ、俺は!)
両の手で、自分の頬を痛烈に打ちつける。
張られた肉の快音に、慌てて振り向くエリシュの顔を視界の端に捉えながら。
「———うしっ! 気合注入完了! もう二度とめげない、折れない、諦めない! 玲奈はきっと待っている! 早く行こうぜ、エリシュ!」
今度は俺がエリシュの細い腕を牽引して、建物目掛けて地を蹴り進んだ。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
トカゲ(本当は神竜)を召喚した聖獣使い、竜の背中で開拓ライフ~無能と言われ追放されたので、空の上に建国します~
水都 蓮(みなとれん)
ファンタジー
本作品の書籍版の四巻と水月とーこ先生によるコミックスの一巻が6/19(水)に発売となります!!
それにともない、現在公開中のエピソードも非公開となります。
貧乏貴族家の長男レヴィンは《聖獣使い》である。
しかし、儀式でトカゲの卵を召喚したことから、レヴィンは国王の怒りを買い、執拗な暴力の末に国外に追放されてしまうのであった。
おまけに幼馴染みのアリアと公爵家長子アーガスの婚姻が発表されたことで、レヴィンは全てを失ってしまうのであった。
国を追われ森を彷徨うレヴィンであったが、そこで自分が授かったトカゲがただのトカゲでなく、伝説の神竜族の姫であることを知る。
エルフィと名付けられた神竜の子は、あっという間に成長し、レヴィンを巨大な竜の眠る遺跡へと導いた。
その竜は背中に都市を乗せた、空飛ぶ竜大陸とも言うべき存在であった。
エルフィは、レヴィンに都市を復興させて一緒に住もうと提案する。
幼馴染みも目的も故郷も失ったレヴィンはそれを了承し、竜の背中に移住することを決意した。
そんな未知の大陸での開拓を手伝うのは、レヴィンが契約した《聖獣》、そして、ブラック国家やギルドに使い潰されたり、追放されたりしたチート持ちであった。
レヴィンは彼らに衣食住を与えたり、スキルのデメリットを解決するための聖獣をパートナーに付けたりしながら、竜大陸への移住プランを提案していく。
やがて、レヴィンが空中に築いた国家は手が付けられないほどに繁栄し、周辺国家の注目を集めていく。
一方、仲間達は、レヴィンに人生を変えられたことから、何故か彼をママと崇められるようになるのであった。
Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。
石八
ファンタジー
主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
パーティから追放された雑用係、ガチャで『商才』に目覚め、金の力で『カンストメンバー』を雇って元パーティに復讐します!
yonechanish
ファンタジー
雑用係のケンタは、魔王討伐パーティから追放された。
平民に落とされたケンタは復讐を誓う。
「俺を貶めたメンバー達を最底辺に落としてやる」
だが、能力も何もない。
途方に暮れたケンタにある光り輝く『ガチャ』が現れた。
そのガチャを引いたことで彼は『商才』に目覚める。
復讐の旅が始まった!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる