魔王クリエイター

百合之花

文字の大きさ
上 下
132 / 132
Ⅵ章 衰亡

132

しおりを挟む
「ォぉおぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ!!」

なんとも形容し難い、聞いたことのない奇声を叫びながら、魔王のホムンクルスが異様に肥大化した手のひらを薙ぎ払うように振り回す。

「ちっ!舐めんなクソやろおっ!!」

先頭を走るリーダーの兵士がスライディングをするように姿勢を低くして飛び込む。
狙いは馬鹿みたいに開いている股下だ。
魔王のホムンクルスの体長は2メートルほど。
家屋内という狭い環境下ではあるもののギリギリ股下を潜り抜けれるだけのスペースはある。
それだけではない。
手に持つ巨獣用ライフルと呼んだソレの引き金をすれ違いざまに引く。
発射された数発の弾丸は顎下から頭上へ貫けとばかりに撃ち込まれ、下から上へと向かう弾はホムンクルスの他の部位に比べて比較的薄い顎下皮膚を着弾、そして貫通。
口腔内へと侵入、そのまま硬口蓋をも貫通して脳内にまで侵入をはたす。中にある柔らかい脳組織を貫通し続けて頭部内の頭蓋骨で弾は押しどまった。
つまりは苦し紛れの弾丸がホムンクルスの脳をも損傷させた。

「おぽぉっ?!」

殆どの急所が骨のような外骨格に覆われているホムンクルスの数少ない弱点である顎下への攻撃に、たまらずよろける魔王のホムンクルス。
見た目には出血も少なく然程のダメージではないように見える。
しかし、確実に重傷致命傷の類ではあった。

とはいえ。

致命傷ではあるがすぐに死んでしまうほどではない。
最早追撃は間に合わぬと判断したホムンクルスは脳を損失したことで動きを鈍くしながらも、まんまと自らを出し抜いたリーダー兵士には目もくれず後から続こうとする兵士に体ごとぶつかる様に襲い掛かった。

「ぃっ!!」

後から続く兵士が足を止めずに巨獣用アサルトライフルをぶっ放しながら、なんとか押し留めようとするが、顎下から弱点を撃ち抜いた先の場合とは違い、真正面からの射撃ではその硬い外骨格で弾は弾かれて、致命傷はおろかよろけさせることすら難しい。
脇を抜けようにも、家屋内の通路でそこまでのスペースはない。
リーダーと同じく股下を抜けようにも警戒している様で姿勢を低くして半ば四足歩行をするように突っ込んできた。
背後からはまだまだ元気なもう一体のホムンクルス。

「飛べぇっ!!」
「了解!」

躊躇いは一瞬。判断も一瞬。
股下を抜けぬ様に姿勢を低くして突っ込んだ結果、上方向に抜けるスペースができた。
2人の兵士は跳び箱を飛ぶように突っ込んでくるホムンクルスをかわし、すり抜けた。
ホムンクルスは背後のホムンクルスへと激突。
派手に転げる。

その隙に2人の兵士もまた死地から生還し、結果的には5人中、3人の兵士が家屋内からの脱出を果たしたのである。

「お前たち、無事だったか!」

外で包囲していた兵士の一部が脱出してきた3人へ駆け寄る。
ヘルメット内部には通信機もあるために5人がどうなっていたのか、ある程度の状況は把握できていた。

「他2名は?」
「生死不明です!」
「そうか…救助に行きたいところだが…」

あえなくホムンクルスに倒された生死不明の2名の兵士を助けたいと考えるのは当然のことだが、いかんせん家屋内に救援隊を送ろうにも狭い家屋内でぞろぞろと突入するわけにはいかない。
閉鎖空間で銃器を使えば跳弾ないしは何かの拍子に銃の射線を遮って誤射してしまう可能性が高いためである。
かと言って接近戦でなんとかできる相手ではないだろう。
そうした問題がなかったら2人がやられる前に援軍を送り込んでいただろうし、そもそもわざわざ5人だけで攻めることなく全員で攻め入ったのだから。

「…追ってくると思ったが、追ってこない様だな?」
ゴブリンの一種のように見えますからね。彼らは非常に賢いと聞きますから、我々が待ち構えているところにわざわざ出てはこないでしょう」

どうしたものかと僅かながらに膠着状態へと陥る。
持っている巨獣用ライフルならば一般家庭の壁くらいなら容易に貫通させて中にいる敵に攻撃を与えることはできる。
しかし、いる場所に当たりをつけて撃ったところで大部分の弾は外れるだろうし、ただでさえ効果の薄かった巨獣用ライフルが、壁で多少なりとも威力を減らした状態になるのだ。
いくら弾をぶち込んでも死ぬとは思えないし、死ぬにしてもアホほどの弾薬が必要になる。
大部分の人手や資材をドーラと人腕ナマコとの戦いで消費し続けている現状において、そんな大量の弾薬を用意している余裕はなかった。
しかも家屋内の2匹だけではなく、さらに2匹もいることがわかっている。
しかもだ。
本来ならば1の化け物が2匹いたということは、他にも見逃した個体がいる可能性だってある。
いっそのこと奴らは放置でもいいのではと言う極端な考えすら浮かぶ。
どうせこの街、超巨大都市ゴモランは放棄することになるし、現在ここにいる人間は死を覚悟した軍人のみ。
放置した場合の被害と無理して倒そうとした際の被害を考え、比較して無理をしてまで倒す必要性は薄い、と考えたところで指令室からの頼もしい援軍の知らせだ。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

解除
ポケットティッシュ

いつも楽しく読んでいます、今後の展開が気になります!

解除
りんかい
2021.03.19 りんかい

ゴブリンの毛皮…めっちゃ気になる

解除

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。