魔王クリエイター

百合之花

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Ⅳ章

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さて。
唐突であるが、アルマ共和国の創り出した聖剣シリーズとは何なのか、改めて解説しよう。

実は聖剣とはあくまで最初に創り出されたのが剣状だったためにそう名付けられただけであり、剣の形をしている必要は無い。
なんなら聖なる要素だって微塵もない。

聖剣という名称は不適切である。
作成者のこだわりから剣状に生み出された兵器ではあるものの、剣としての性能は平均よりも質の良いという程度。凄い切れ味を持つ剣であるだとか、特別頑丈であるとか、剣としては極端に優れているというわけではない。
特別な材質で出来てはいるものの、普通の刀剣より頑丈かな?と言う程度の刀剣である。
なぜか?

聖剣の真価は剣としての性能にはないからだ。

剣として扱うのではなく、剣の所持者を強化する強化アイテムとして聖剣は開発された。
その1番の能力は所持者の魔力を異常なまでに増幅させるところにある。
過去にアストルフが何故英雄と呼ばれるまでの戦闘力を持つかについては話したかと思う。
彼は魔科学武器に搭載された制御盤を故意に無効化して、魔科学武器による魔力増幅機能を異常なまでに高めて使用していた。
通常、こうした運用は不可能である。
魔科学武器によって増幅された魔力は本人の魔力とは別ものになるため、制御が非常に難しくなる。

制御盤は魔科学武器所持者が魔力の過剰な増幅の防止、増えた魔力のコントロールを助力する機能を果たす部品として必ず魔科学武器に搭載されていた。

聖剣はその制御盤が特殊なものになっている。

まず魔力を従来の制御盤とは比べ物にならないレベルで増幅できるようになっている。
魔科学武器の理論上の最大魔力増幅量は約10倍となっているが、聖剣の増幅量は約50倍。
アストルフが用いた大剣ですら20倍となっており、既存の魔科学武器よりも遥かに高い増幅率を誇る。

さらに聖剣は従来の方式、すなわち魔科学武器が魔力を制御するという手法ではなく、所持者の魔力制御能力に干渉することで魔力制御を、助けるという形を取っている。
これによって、直感的かつ繊細な魔力コントロールを可能とした結果、聖剣を扱えば誰でも英雄アストルフ並みの…いや、それ以上の戦闘力を得られるようになる。

さらには聖剣には更なる切り札とも言うべき機能まで存在した。

「アニー、分かってるとは思うが、くれぐれも無茶をするなよ?」
「分かってるわ…アニスもいるしね。死なない程度に使うから、そう心配しないで」

拵解そんかい

アニーの口から聞き慣れぬ言葉が発せられた。
その瞬間、ただでさえ化け物じみた魔力が膨れ上がる。

拵解とは聖剣の刀身部分を分離破棄して聖剣の核部分のみになる変形機構のことである。
聖剣の刀身部分は先も言ったように剣として特別優れているわけではない。
極論、飾りである。
が、一切の機能が無いというわけではなく、刀身部分は普通の魔科学武器で言うところの制御盤、すなわち魔力が増えすぎないための抑制機構としての機能もある。
そしてそれを破棄するとどうなるのか?

答えは言わずもがな、魔力がさらに増幅することが可能になる。さらには大気中の魔力の吸収機能まで発動することで魔力増幅量は最大で約120倍までになる。
ただでさえ人ではまず持ち得ない大容量の魔力によって、聖剣所持者は自然と身体能力が強化される上に聖剣による肉体強化魔法も重なることで超人じみた身体能力を持つようになるにも関わらず、この抑制破棄機能、吸収機能によって超人化を超えた超人化が行われるのだ。

聖剣全ての機能を扱いこなせれば魔王の1匹や2匹は軽く倒せてしまうだろう。

扱えれば、の話だが。

強力無比な聖剣シリーズであるが、使用するにあたって幾つかの致命的な欠点を有する。

その一つが所持者を選ぶということだ。

まずあまりの大容量の魔力はコントロールが異常なまでに難しい。
聖剣の機能の一つとして、所持者のコントロール能力そのものを跳ね上げるが、それでもなお困難である。
その結果、魔女と呼ばれる、魔科学武器を持たずとも素の状態で魔法が使える人でなければ、扱えないことが判明した。
魔女は元から魔法が使えるというだけあって魔力の制御能力が常人よりも高い、ないしは聖剣による補助を得ると他の人よりも格段に制御能力が高まることが分かった。
異形のヒトとやり合うために生産された聖剣はたった2つ。しかし、魔女としての能力があってなお、聖剣を扱うのは難しく、なんとか使いこなせたのは英雄アストルフのパーティメンバーにして、魔女であり、強力な魔法使いでもあったアニーだけであった。アストルフのように極端に魔力の制御能力が高い人間は滅多に見つからない。

次に魔力増幅に時間がかかるという点。

拵解そんかいを使わずとも、約50倍近い魔力増幅率を誇るが、それだけの魔力の増幅に10分ほどの時間を要する。
増幅と一言に言うが、周囲から魔力を吸収する拵解そんかい状態ならばともかく、通常状態ではどこからともなく魔力を回収するわけではない。
聖剣が所持者の魔力を燃料に、増幅していくようになっている。
一度、増えればその維持は簡単なのだが、技術的限界から増やす速度そのものはそこまででもない。

そして最後の欠点が非常に大きな負担が所持者に襲いかかると言うところだ。

魔力というのはこの世界における体を動かすためのエネルギーの一種である。
多ければ多いほど寿命が延びたり、病気になりにくくなったり、様々な身体能力が高くなったりと魔力は基本的に体に良い影響を与えてくれる。
魔力を使って発動する魔法ならばともかく、魔力そのものが体を保護するというわけではないので、岩をも砕くようなパンチを受けても怪我をしない、なんてことはないが、生理的機能の増加で筋肉や骨の質が高まりやすくなった結果、死ににくくはなる。
しかし、当然ながらそれにも限度はある。

例えば体温。
恒温動物である人間は常に体温が一定に保たれている。
熱エネルギーを常に作り続けることで、寒さで体が凍らないようにすることで雪国であろうとさほど支障なく活動ができる。
また、体温が1度上がるだけで病気に対する抵抗力(免疫力)が何倍にもなると言う話もあり、病気になったりするのも防いでくれるだろう。
風邪などに感染した時に熱が出て体温が上がるのは、体温を上げることで免疫力を上げるための防衛反応だと言われるくらいだ。
魔力と同じように熱力は人にとって良い影響を与えてくれる。
しかし、それもあくまで適正な熱量であればの話。
熱が出て免疫力が上がったとしても、熱が出れば体調が悪くなる。
熱中症などで体温が上がりすぎても体調を崩す。
基本的に1度、2度だけでも体温が上がれば体調を崩してしまう。

魔力も同じ。

あまりに過剰な魔力は制御できず、制御できない魔力は体内でさまざまな組織に悪影響を与え、体の機能を様々な形で破壊して回る毒となる。
聖剣レベルの魔力増幅量ともなれば、使用した瞬間に死んでもおかしくはない。
しかし、アニーは死んでいなかった。

何故ならば聖剣の所持者は超人化するからである。

当然ながら、聖剣を開発した側からすれば魔力による負担が大きい、そんなことは百も承知。
それに対する対策ももちろんある。

聖剣で出た問題もまた聖剣でどうにかする、である。

聖剣によって魔力をできる限り制御し、制御しきれずに体内を暴れ回る魔力は聖剣によって常に発動している強力な肉体強化魔法で耐える。耐えられる体へと強引に作り替える。
耐え切れずに傷付けば同じく常時発動している回復魔法で傷ついた側から治していく。
剣だけではなく、アニーの体が光を纏っていたのは制御し切れない魔力が表皮を突き破って体外へと出ようとしていたためであった。
つまり、聖剣所持者は常に体中を怪我しながら戦うわけで、痛み辛みがとんでもないことになる。
体への負担、精神的な負担、聖剣とは名ばかりの拷問じみた苦痛の果てにようやく聖剣を扱うことが出来るのだ。

「これはっ…」
「っづぅっ…!!」

拵解を使用し、更なる魔力を纏い始めたアニーを見て、言葉を無くす異形のヒト。
今までの比ではない全身を襲う激痛に耐えて、呻く。
聖剣は刀身だけではなく刀で言うところのつかつばまでなくなって、内蔵されていた丸い水晶玉のような姿に変わっていた。
刀身が無くなって光り輝くアニーの周辺を漂う聖剣、アニーはそれを一瞥した後に改めてアニーは異形のヒトを睨んだ。

「…つぅっ、ふぅ、ふぅ…っ!
…はぁ、はぁ…い、言ったで、しょう?」


…絶対に殺すってね。



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