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Ⅳ章
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「見慣れぬ剣を構えているが…お前、剣士ではなかろう?」
「…貴方を斃すための希望の剣、聖剣よ。アストルフを殺したお前も年貢の納め時ね?覚悟しなさい。…絶対に殺してやるから」
異形のヒトを討ち取らねばならない。
大都市ランブルの市長バングはそう考えた時、現戦力では異形のヒトは倒せないと判断した。
何故ならばアルマ共和国の英雄、アストルフが勝てなかったからである。
さらにアストルフが死ぬほどの激戦から逃げ帰ったアニーとガイの話から、戦闘中に強くなった上に、異形のヒトを作った親玉のような存在すらいるらしいことが判明した。
これが意味することはつまり、英雄アストルフを超える化け物が2体以上出現するかもしれないということになる。
いや、知らぬだけで既に存在しているというのが最近になって判った。
半年ほど前からプラベリアと黄泉国を除いた三つの大国で未確認だった魔獣らしきものが確認されたという。
異形のヒトと無関係とは考えにくい。
大都市ランブル市長バングからの報告を含めた様々な事情を加味した結果、アルマ共和国は新兵器の配備を決めた。
その名も『聖剣シリーズ』。
元々、その雛形は完成していた。
なにせこの世界では地球とは比べ物にならないレベルで人が殖えに殖えていた。
住み良い土地や、食料をめぐる戦争がいつ起きてもおかしくはないほどに。
だからこそ身を守るないしは攻め込むための軍事技術の研究は常日頃から行われており、今回の異形のヒトの一件でそれは加速した。
生み出された新たな兵器は聖剣と名付けられ、その試作機一号は今、アニーの手の中にある。
この世界には魔王物語という童話のようなものがある。
魔王と勇者の戦いを描いた作品で、魔王物語はあえて魔王側の視点から書かれた物語ということで非常に面白いと評判の物語だ。
とはいえ。
異世界と言えども、魔王だの勇者だのは現実には存在しない。
扱いとしては地球に近く、大人が魔王だの勇者だのを名乗っていたらバカにされるにちがいない。
しかし、そんな物語に登場する勇者の持つ聖剣、それを現実に再現しようとした兵器開発者がいた。
鬼才として有名だった彼は現実に聖剣を作り上げることに成功。
強力な魔科学武器として一時期、兵器界隈が賑やかになった。
しかし、強力な魔科学武器ではあったものの幾つかの欠点を抱えていたために実戦配備はまだまだ先の話になるはずだったのが、急転。
異形のヒトを討ち取るには聖剣しかないと、再開発プロジェクトが始動。
幾つかの欠点を改善、ないしは緩和した兵器としての性能は据え置きのまま、扱い易くした聖剣。正式名称、新型試作聖剣ホープ。
それがアニーの手の中で煌々と光り輝く。
それだけではない。
彼女の体もほんのりと光を発しており、異形のヒトはその光と、自らの感覚を併せて、聖剣とやらの効果の一端を理解した。
「凄まじいな…魔力を感じ取れるとは…」
魔力は体内エネルギーの一種に過ぎない。
人の体内の熱や電気エネルギーを感知して、何処そこに誰それがいると感知できる人間がいないように、普通の人間は異世界人であろうとも他者の魔力を感じ取るというのは不可能に近い。
相手の体温を感じ取るのにオデコを合わせるように触れ合える状態ならばともかく、異形のヒトとアニーは数メートル離れた位置にいる。
だというのに、アニーの魔力を感じ取ることが出来るという事態に異形のヒトは恐れすら抱いていた。
異形のヒトは他者の魔力を感知するようなスキルは持っていない。
にも関わらず、はっきりと魔力を感じ取れてしまう。
この距離で感じ取れるほどに増幅されているアニーの魔力量は一体どれ程あるやら。
少なくとも、聖剣とやらは異常なまでの魔力量の増幅が出来るようだ。
「お前、それほどの魔力を纏った状態でよくも生きていられるな?私よりも余程人外じみているぞ?」
「スパーキングウィンドっ!!」
異形のヒトの感嘆の台詞に対する返答は沢山の雷が襲いかかる攻撃魔法だった。
「それは私が芝犬もどきの頃に受けた魔法の一つだったな…威力と規模が跳ね上がって別物みたいだ」
周辺に転がっている仲間たちの死体を気にしない大規模攻撃魔術に、一旦、飛び退く。
その一瞬でアニーは接近。
異形のヒトの頭目掛けて聖剣ホープを振るった。
「仲間の死体もお構いなし…なりふり構わずと言ったところか」
「…これはっ…これはぁっ!!」
聖剣ホープは異形のヒトの体を斬ることは出来なかった。
阻まれたからである。
「ふふ、どうだ?
これは私のお気に入りなんだ」
背中周りから盛り上がり、姿を表した尻尾のように細めた捕食専用の器官の先には、アニーにとって見慣れた大剣が付いていた。
それに聖剣が阻まれてしまったのだ。
「あの男を仕留めた際に、死体と一緒に取り込んだ…アストルフとやらが使っていた魔科学武器だ。一度、体内に分解吸収した上に、元々破損していた部分を私の体組織で補修したせいで見てくれは多少変わったが、まだ幾らか原型は留めたまま。懐かしいだろう?」
「殺してやるっ!!」
より明確に目の前の女がアストルフを殺したのだと実感させられたアニーは激情のままに聖剣を振るった。
しかし、ただでさえ剣が振れるわけではないアニーの剣戟は怒りによって単調極まりなく、いくら聖剣で身体能力が跳ね上がっていても、避けるのは難しくない。
避けて、そして両断してやろうと尻尾状に変形させた捕食器官の先に生成した大剣を振るうが、それは重装備の男に防御される。
アストルフとアニーの親友でもあり、パーティメンバーでもある大楯を構えたガイであった。
しかし勢いを殺しきれずにガイはアニーと一緒に弾き飛ばされた。
「ガイか。そういえばいたな。大方、復讐の念に駆られて先走ったアニーに置いていかれて、今追いついたと言ったところか?」
「知った風な口を聞くなよ、化け物風情が」
素早く起き上がりつつ、ガイは大楯を改めて構える。
「ふむ、聖剣とやらは使用する際にある程度の準備時間が必要なようだ。今までの雑魚どもの攻撃はそのための時間稼ぎ兼、少しでも私の体力を削ることを目的としていたのかな?」
「ドラゴンウィンドっ!!」
「少しは話に付き合ってくれても良いだろうに…」
異形のヒトを魔法で発生した竜巻が包み込む。
「ヴォルカニックバーン」
炎の斬撃が竜巻を寸断した。
「アストルフの剣だけではなく魔法まで使えるというのか?」
「それはアストルフの魔法よっ!!貴様が使うなぁっ!!」
「ははは、会話する気になってくれたかね?」
「黙れっ!!」
「落ち着けっ!アニーッ!!挑発に乗るなっ!それでさっきもヤられそうになったんだぞっ!?」
「…わかってるわっ!わかってるけどっ!!」
アニーは自分でも頭に血が上っていたのがわかったのだろう。
一度、深く息を吐き、つぶやいた。
「…あれを使うわ」
「馬鹿野郎っ!あれは…あれは使わない予定だったろう!?アニスはどうする!?最近になってようやくオムツが取れたばかりで…」
アニーが聖剣を祈るように持ち上げた。
「大丈夫、少しだけ。少しだけならなんとかなる。してみせる」
聖剣が強く、より強く煌めいた。
「…貴方を斃すための希望の剣、聖剣よ。アストルフを殺したお前も年貢の納め時ね?覚悟しなさい。…絶対に殺してやるから」
異形のヒトを討ち取らねばならない。
大都市ランブルの市長バングはそう考えた時、現戦力では異形のヒトは倒せないと判断した。
何故ならばアルマ共和国の英雄、アストルフが勝てなかったからである。
さらにアストルフが死ぬほどの激戦から逃げ帰ったアニーとガイの話から、戦闘中に強くなった上に、異形のヒトを作った親玉のような存在すらいるらしいことが判明した。
これが意味することはつまり、英雄アストルフを超える化け物が2体以上出現するかもしれないということになる。
いや、知らぬだけで既に存在しているというのが最近になって判った。
半年ほど前からプラベリアと黄泉国を除いた三つの大国で未確認だった魔獣らしきものが確認されたという。
異形のヒトと無関係とは考えにくい。
大都市ランブル市長バングからの報告を含めた様々な事情を加味した結果、アルマ共和国は新兵器の配備を決めた。
その名も『聖剣シリーズ』。
元々、その雛形は完成していた。
なにせこの世界では地球とは比べ物にならないレベルで人が殖えに殖えていた。
住み良い土地や、食料をめぐる戦争がいつ起きてもおかしくはないほどに。
だからこそ身を守るないしは攻め込むための軍事技術の研究は常日頃から行われており、今回の異形のヒトの一件でそれは加速した。
生み出された新たな兵器は聖剣と名付けられ、その試作機一号は今、アニーの手の中にある。
この世界には魔王物語という童話のようなものがある。
魔王と勇者の戦いを描いた作品で、魔王物語はあえて魔王側の視点から書かれた物語ということで非常に面白いと評判の物語だ。
とはいえ。
異世界と言えども、魔王だの勇者だのは現実には存在しない。
扱いとしては地球に近く、大人が魔王だの勇者だのを名乗っていたらバカにされるにちがいない。
しかし、そんな物語に登場する勇者の持つ聖剣、それを現実に再現しようとした兵器開発者がいた。
鬼才として有名だった彼は現実に聖剣を作り上げることに成功。
強力な魔科学武器として一時期、兵器界隈が賑やかになった。
しかし、強力な魔科学武器ではあったものの幾つかの欠点を抱えていたために実戦配備はまだまだ先の話になるはずだったのが、急転。
異形のヒトを討ち取るには聖剣しかないと、再開発プロジェクトが始動。
幾つかの欠点を改善、ないしは緩和した兵器としての性能は据え置きのまま、扱い易くした聖剣。正式名称、新型試作聖剣ホープ。
それがアニーの手の中で煌々と光り輝く。
それだけではない。
彼女の体もほんのりと光を発しており、異形のヒトはその光と、自らの感覚を併せて、聖剣とやらの効果の一端を理解した。
「凄まじいな…魔力を感じ取れるとは…」
魔力は体内エネルギーの一種に過ぎない。
人の体内の熱や電気エネルギーを感知して、何処そこに誰それがいると感知できる人間がいないように、普通の人間は異世界人であろうとも他者の魔力を感じ取るというのは不可能に近い。
相手の体温を感じ取るのにオデコを合わせるように触れ合える状態ならばともかく、異形のヒトとアニーは数メートル離れた位置にいる。
だというのに、アニーの魔力を感じ取ることが出来るという事態に異形のヒトは恐れすら抱いていた。
異形のヒトは他者の魔力を感知するようなスキルは持っていない。
にも関わらず、はっきりと魔力を感じ取れてしまう。
この距離で感じ取れるほどに増幅されているアニーの魔力量は一体どれ程あるやら。
少なくとも、聖剣とやらは異常なまでの魔力量の増幅が出来るようだ。
「お前、それほどの魔力を纏った状態でよくも生きていられるな?私よりも余程人外じみているぞ?」
「スパーキングウィンドっ!!」
異形のヒトの感嘆の台詞に対する返答は沢山の雷が襲いかかる攻撃魔法だった。
「それは私が芝犬もどきの頃に受けた魔法の一つだったな…威力と規模が跳ね上がって別物みたいだ」
周辺に転がっている仲間たちの死体を気にしない大規模攻撃魔術に、一旦、飛び退く。
その一瞬でアニーは接近。
異形のヒトの頭目掛けて聖剣ホープを振るった。
「仲間の死体もお構いなし…なりふり構わずと言ったところか」
「…これはっ…これはぁっ!!」
聖剣ホープは異形のヒトの体を斬ることは出来なかった。
阻まれたからである。
「ふふ、どうだ?
これは私のお気に入りなんだ」
背中周りから盛り上がり、姿を表した尻尾のように細めた捕食専用の器官の先には、アニーにとって見慣れた大剣が付いていた。
それに聖剣が阻まれてしまったのだ。
「あの男を仕留めた際に、死体と一緒に取り込んだ…アストルフとやらが使っていた魔科学武器だ。一度、体内に分解吸収した上に、元々破損していた部分を私の体組織で補修したせいで見てくれは多少変わったが、まだ幾らか原型は留めたまま。懐かしいだろう?」
「殺してやるっ!!」
より明確に目の前の女がアストルフを殺したのだと実感させられたアニーは激情のままに聖剣を振るった。
しかし、ただでさえ剣が振れるわけではないアニーの剣戟は怒りによって単調極まりなく、いくら聖剣で身体能力が跳ね上がっていても、避けるのは難しくない。
避けて、そして両断してやろうと尻尾状に変形させた捕食器官の先に生成した大剣を振るうが、それは重装備の男に防御される。
アストルフとアニーの親友でもあり、パーティメンバーでもある大楯を構えたガイであった。
しかし勢いを殺しきれずにガイはアニーと一緒に弾き飛ばされた。
「ガイか。そういえばいたな。大方、復讐の念に駆られて先走ったアニーに置いていかれて、今追いついたと言ったところか?」
「知った風な口を聞くなよ、化け物風情が」
素早く起き上がりつつ、ガイは大楯を改めて構える。
「ふむ、聖剣とやらは使用する際にある程度の準備時間が必要なようだ。今までの雑魚どもの攻撃はそのための時間稼ぎ兼、少しでも私の体力を削ることを目的としていたのかな?」
「ドラゴンウィンドっ!!」
「少しは話に付き合ってくれても良いだろうに…」
異形のヒトを魔法で発生した竜巻が包み込む。
「ヴォルカニックバーン」
炎の斬撃が竜巻を寸断した。
「アストルフの剣だけではなく魔法まで使えるというのか?」
「それはアストルフの魔法よっ!!貴様が使うなぁっ!!」
「ははは、会話する気になってくれたかね?」
「黙れっ!!」
「落ち着けっ!アニーッ!!挑発に乗るなっ!それでさっきもヤられそうになったんだぞっ!?」
「…わかってるわっ!わかってるけどっ!!」
アニーは自分でも頭に血が上っていたのがわかったのだろう。
一度、深く息を吐き、つぶやいた。
「…あれを使うわ」
「馬鹿野郎っ!あれは…あれは使わない予定だったろう!?アニスはどうする!?最近になってようやくオムツが取れたばかりで…」
アニーが聖剣を祈るように持ち上げた。
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