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I章 始まりの森
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あれから何時間たっただろう?
それとも何日?
何週間?
分からない。
僕はもうだめだ。
死ぬしかない。
どうあってもこの森からは出れないんだ!!
僕は絶望を胸に、ただ前に進み続けた。
・・・なんてことはなく。
あれから2日ほど経っていた。
意外と余裕があって我ながら驚いている。
せまりくる木でできた非常に不味いクモをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
ちなみに文字通りちぎって投げている。
だって、あいつら適当にタコ脚キャノンを打ち込んでも普通の生物とは違う構造をしてるみたいでまったく応えやがらない。
頭が弱点と言うわけではなく、どこを斬ったり潰したりしてもしばらくして再生して追ってくる。
なので足をちぎって捨てて行ってるのだ。
しかも捻り切る感じで。
断面の木の繊維がずたずたになって、彼らも再生しににくそうにしている。
これなら追ってこれない。
そして気になるのが、木々をエアスラッシュで切り進んでいるとたまに彼ら木クモにが抱えるゴブリンやヨロイグモといった生き物の死体を見かける。
彼らは森の掃除屋なのかな?
それらが死んで間もない死体なら、木クモから分捕ってつまみ食いしながら二日。
思ったよりは衰弱しなかったのだが、思ったよりは進んでいない。
それが現状だ。だがそれも昨日までの話。
同じところをぐるぐる回り続けていることに気づいたのが昨日の晩。
同じような木々の景色が続くために方向感覚が狂わされているようだ。
じゃあどうしよう?
と考えてひらめいたことがある。
地面を突き進めばいいじゃい by タコ。
てなわけで絶賛穴掘りをしていたのだけれど、これが思ったよりしんどかった。
忘れがちだけど、僕ってタコなのよね。
別に掘る事自体は体の形を変えればいい。
が、さすがに暗視まではできず、ある程度進むと光が入らなくて何も見えなくなった。
しかも木が動けば地面の下の根っこも動くわけで、それによって穴を掘ったそばからつぶされていく。
心が折れました。
じゃあ、どうしよう?と考え、さらにひらめくのが僕である。
人間の最大の武器はその知能だ!!
今はタコだけれども、むしろそっちの方がすばらしいだろう?
人間の知能+タコの能力。
結果、最強。(に見える!!)
ひらめいた策は簡単。
目で周りの景色を見るから迷うのだ。
地面を見ながら突き進めばいずれどこかには付くじゃない!?
と。
ふっ。僕の天才っぷりが遺憾なく発揮されてしまったな。
結果。
だめでした。
ならば木の上に出るのを邪魔する茨を無視して、時にはエアスラッシュで切り飛ばして駆け登ってみた。
「・・・。」
唖然としたね。
一面に広がる緑の絨毯。
どこまで行けばこの森を抜けられるのだろうというほどの途方もくれる距離。
水平線が森ってのはどういう了見だい?
さすが異世界。
とんでもないぜ。
確か日本人の平均身長で、水平線までの距離って4キロ前後じゃなかったっけ?
体を伸ばして目線を上げてみてみるが、それでも水平線は続いている。
少なくとも4キロは移動しないといけないということである。
そう、少なくとも、だ。
実際はどれほど移動しなくちゃいけないのか困ったものだ。
しかも周りは木でできたクモに囲まれてるときた。
睡眠なしでどれだけ歩けるか、どれだけ体力が持つか。
いや、木の天辺で寝ればいいか?
・・・とてもじゃないけど眠れないなぁ。
今もだけど木にはそれぞれ例外なく茨が巻きついている。
細い枝にもだ。
ここまで見せられればなんか知らないが森が中にいる生物を残らず殺そうとしてるのが分かる。
どうしてこんなことになったのか?
心当たりはあるけれど、そんなことを考えてる場合ではない。
とにかくこの森を抜けなくてはならない。
木の天辺を伝って歩くことにする。
とりあえず迷うことはなくなるだろう。
茨によって傷つくであろう触腕にタコ墨をかけて保護する。
このタコ墨。
粘液状で、固まるとさらっとした髪の毛のような材質になる。
これで触腕をコーティング‐名づけてキューティクルセーフ‐して歩けば茨なんて怖くない!
早く脱出して美味しい物を食べたい。
そう切に願う僕だった。
☆ ☆ ☆
そんな感じでしばらく歩いているとズガンゴガンと激しい物音がする。
そちらへ首を傾けるとどうやら人間たちがまとまっているようだ。
何か知っているかもしれないし、だめもとで盗み聞きしてみるか?
彼らの行動でもヒントになるかもしれない。
これから行く先々の森でこんなことが急に起こったらこちとら、安心して狩りに挑めない。
ちらり。
ちら、ちら。
木の葉の隙間から覗き込むと全員が疲労困憊という様子。
万が一にでも見つかると面倒なので当然保護色を使う。
「どういうつもりだ?
お前ら?」
「ユルガさん。
今回の件、あんたが仕組んだことだろ?」
「・・・どういう意味だ?」
言語は相変わらず分からないが、状況を見るにリーダーっぽい男と部下一号が喧嘩しているようだ。
こんなところでもたついているということは、彼らも今回の件についての被害者・・・だろうか?
だとするとこのまま見続けてもなんら意味がないということになるんだが。
「俺は知ってる、あんたの悪行をなっ!!
もともとこの森はクモの森と呼ばれてた。
それをはじまりの森と呼ばれるまでにしたのはあんたの手柄であり、失敗だってことになってる。
でもその行動を起こすのにどれだけの人間を非道な手段で抱き込んだか・・・俺は知ってるんだっ!!
ほとんど生きて帰らなかった!!
今回もそうだろう!?
どうせお前は俺達を殺して一人助かるつもりなんだっ!!」
「・・・くだらんな。」
「どうやって助かる気だっ!?俺達にもその方法を教えろっ!!」
「・・・追い詰められて、八つ当たりか。
まぁ、無理も無いが・・・それで?
教えない、と言ったらどうするんだ?」
「・・・ち、力づくで聞き出してやる!!」
「ほう?
この俺に?
お前程度のヒヨッコが・・・か?」
「俺だけじゃねぇっ!!
ここに居る全員でかかればあんたといえど・・・がはっ!?」
何か言い争ったと思ったらリーダーっぽい男、ひげを生やしてるからヒゲオでいいだろう。
ヒゲオが雑魚Aの首を切り抜いた。
頚動脈から血が吹き出る。
「ちょうどいい。
これを食うか。
食料は大事だからな。
ろくなものが食べれなくて困っていたところだ。」
「・・・っ!?」
「貴様らもなんら根拠の無い言いがかりで俺を殺すというのならかかって来い。
もれなく肉の塊にしてやる。
とはいえ腐ったら勿体無いからな。できれば一日一回、誰か一人にしてほしいが。」
なにやら仲間割れのようだ。
ヒゲオが言ったことにカチンときたのだろう。
全員が全員、ヒゲオに向かって剣をふりあげるが全員が返り討ちに。
ご愁傷様です。
そして驚くべきことに一人の死体を切り裁いて、火で焼き始めた。
もしかして・・・食べるのだろうか?
おいおい、人間同士で共食いとか。
この世界じゃ普通なのだろうか?
「・・・ユルガ・・・貴様、やりすぎではないか?
殺すとまで行かずとも・・・」
「弱い上に上の言葉も聞けないようじゃ、ただの足手まといだ。駒にもならん。
腹が膨れるのだから別にいいだろう?
いるか?」
「・・・いらん。」
「わがままを言っていては生き残れるものも生き残れんぞ。」
「・・・。」
「まぁ貴様に死なれては困る。やつらの携帯食料を食えばいいさ。これでさらに1週間は軽く持つ。」
「外道が。」
「正しい判断だと思うがなぁ。
情けで腹は膨れん。さぁ、そろそろ行くぞ。また邪魔臭い虫どものお出ましだ。さっさとこんなところ出てしまいたい。」
どうやら残った二人は移動するようで。
片方の人は武器を担いでいない。が、なにやら彼の周りにふよふよと浮く光があり、それを道しるべに歩いているようである。
なるほど。
彼らについていけば抜け道が分かるかもしれない。
少なくとも下手に動き回るよりは早く森を抜けることができるだろう。
僕は彼らの後を付いていくことに。
そして。
彼らの後をつけていくのがこんなに楽だとは思わなかった。
まずヒゲオさんは一緒に居た仲間をたちどころに殺した手並みどおり、やたらと強く、木々の囲いを木っ端微塵に粉砕する。
驚きの破壊力である。
途中で出てくる木でできたクモも木っ端微塵である。
木っ端微塵にされた木の囲いはさすがにすぐには再生ができないようで、かなりの距離を離れて後から続く僕でさえ悠然と突き進める。
道端で見かけたゴブリンなどを拾い食いしてるときに一度見失ったのだが、その破壊痕だけで簡単にどこに行ったかが分かるほどだ。
次にもう一人の研究者服の人。
研究者としての白衣以外に特徴が無いので白衣さんと呼ぶことにする。
白衣さんは微塵も迷わずにこの方向感覚の狂う森を突き進んでいる。
僕だって一応野生の生き物なのだ。
この体になってからというもの方向感覚には自身があった。
その僕でさえ迷ったというのに、彼らは木の上を歩いているというわけでもないのにさくさくと歩みを進める。
きっとあの光がなんらかの魔法なのだろう。
すばらしきかな。魔法。
彼らが道を拓いてくれるお陰で僕はとっても楽していたのであった。
「・・・くそ。やはりだめだ。」
「何がだ?」
「ここに来て帰還魔法が用を成さなくなった。」
「何?」
「やはり間に合わなかった。
森の拡大作業が終わったんだ。」
「だからなんだ?分かるように説明しろ。」
「森食みは大きく分けて三段階の作業工程がある。」
「森が広がったら収束して内部のものを取り込む。だったか?」
「ああ。広がってる間はまだよかった。
しかし収束作業が始まった。
もうこの森からは出られない。」
「だからどうしてだ?」
「論文の通りならそろそろ・・・くっ。」
「なっ!?」
一気に森が動く。
今までの比ではないレベルの力強さと速さで。
森というものがそこらから押し寄せてくる。
何がなんだか分からないけどこいつはまずいっ!!
今までで一番の命の危険を感じる。
すぐさま上空に駆け登る。が、あまりの森の振動でろくに登ることができない。
「くそっ!!
もうだめだっ!!
エステルッ!!
アイトッ!!・・・私は・・・」
「どうせ死ぬなら俺の盾になって死ねっ!!」
「うるさいっ!!
殺すなら殺せっ!!最早何も意味をなさんっ!!」
「だから諦める前に防御魔法を使って、俺の盾に・・・がはっ!?」
ヒゲオさんが森の収束における強い力がかかる場所にぶち当たったのだろう。
ごっそりと左半身がなくなっていた。
森が収束する。
それは摩訶不思議な光景だった。
森の土や生物の死骸、木々や草花が一斉に押し寄せてくる。
森の雪崩。
緑の激流に巻き込まれ、僕の意識は消えた。
「エステル・・・アイト・・・」
そんな呟きを耳にしながら。
それとも何日?
何週間?
分からない。
僕はもうだめだ。
死ぬしかない。
どうあってもこの森からは出れないんだ!!
僕は絶望を胸に、ただ前に進み続けた。
・・・なんてことはなく。
あれから2日ほど経っていた。
意外と余裕があって我ながら驚いている。
せまりくる木でできた非常に不味いクモをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
ちなみに文字通りちぎって投げている。
だって、あいつら適当にタコ脚キャノンを打ち込んでも普通の生物とは違う構造をしてるみたいでまったく応えやがらない。
頭が弱点と言うわけではなく、どこを斬ったり潰したりしてもしばらくして再生して追ってくる。
なので足をちぎって捨てて行ってるのだ。
しかも捻り切る感じで。
断面の木の繊維がずたずたになって、彼らも再生しににくそうにしている。
これなら追ってこれない。
そして気になるのが、木々をエアスラッシュで切り進んでいるとたまに彼ら木クモにが抱えるゴブリンやヨロイグモといった生き物の死体を見かける。
彼らは森の掃除屋なのかな?
それらが死んで間もない死体なら、木クモから分捕ってつまみ食いしながら二日。
思ったよりは衰弱しなかったのだが、思ったよりは進んでいない。
それが現状だ。だがそれも昨日までの話。
同じところをぐるぐる回り続けていることに気づいたのが昨日の晩。
同じような木々の景色が続くために方向感覚が狂わされているようだ。
じゃあどうしよう?
と考えてひらめいたことがある。
地面を突き進めばいいじゃい by タコ。
てなわけで絶賛穴掘りをしていたのだけれど、これが思ったよりしんどかった。
忘れがちだけど、僕ってタコなのよね。
別に掘る事自体は体の形を変えればいい。
が、さすがに暗視まではできず、ある程度進むと光が入らなくて何も見えなくなった。
しかも木が動けば地面の下の根っこも動くわけで、それによって穴を掘ったそばからつぶされていく。
心が折れました。
じゃあ、どうしよう?と考え、さらにひらめくのが僕である。
人間の最大の武器はその知能だ!!
今はタコだけれども、むしろそっちの方がすばらしいだろう?
人間の知能+タコの能力。
結果、最強。(に見える!!)
ひらめいた策は簡単。
目で周りの景色を見るから迷うのだ。
地面を見ながら突き進めばいずれどこかには付くじゃない!?
と。
ふっ。僕の天才っぷりが遺憾なく発揮されてしまったな。
結果。
だめでした。
ならば木の上に出るのを邪魔する茨を無視して、時にはエアスラッシュで切り飛ばして駆け登ってみた。
「・・・。」
唖然としたね。
一面に広がる緑の絨毯。
どこまで行けばこの森を抜けられるのだろうというほどの途方もくれる距離。
水平線が森ってのはどういう了見だい?
さすが異世界。
とんでもないぜ。
確か日本人の平均身長で、水平線までの距離って4キロ前後じゃなかったっけ?
体を伸ばして目線を上げてみてみるが、それでも水平線は続いている。
少なくとも4キロは移動しないといけないということである。
そう、少なくとも、だ。
実際はどれほど移動しなくちゃいけないのか困ったものだ。
しかも周りは木でできたクモに囲まれてるときた。
睡眠なしでどれだけ歩けるか、どれだけ体力が持つか。
いや、木の天辺で寝ればいいか?
・・・とてもじゃないけど眠れないなぁ。
今もだけど木にはそれぞれ例外なく茨が巻きついている。
細い枝にもだ。
ここまで見せられればなんか知らないが森が中にいる生物を残らず殺そうとしてるのが分かる。
どうしてこんなことになったのか?
心当たりはあるけれど、そんなことを考えてる場合ではない。
とにかくこの森を抜けなくてはならない。
木の天辺を伝って歩くことにする。
とりあえず迷うことはなくなるだろう。
茨によって傷つくであろう触腕にタコ墨をかけて保護する。
このタコ墨。
粘液状で、固まるとさらっとした髪の毛のような材質になる。
これで触腕をコーティング‐名づけてキューティクルセーフ‐して歩けば茨なんて怖くない!
早く脱出して美味しい物を食べたい。
そう切に願う僕だった。
☆ ☆ ☆
そんな感じでしばらく歩いているとズガンゴガンと激しい物音がする。
そちらへ首を傾けるとどうやら人間たちがまとまっているようだ。
何か知っているかもしれないし、だめもとで盗み聞きしてみるか?
彼らの行動でもヒントになるかもしれない。
これから行く先々の森でこんなことが急に起こったらこちとら、安心して狩りに挑めない。
ちらり。
ちら、ちら。
木の葉の隙間から覗き込むと全員が疲労困憊という様子。
万が一にでも見つかると面倒なので当然保護色を使う。
「どういうつもりだ?
お前ら?」
「ユルガさん。
今回の件、あんたが仕組んだことだろ?」
「・・・どういう意味だ?」
言語は相変わらず分からないが、状況を見るにリーダーっぽい男と部下一号が喧嘩しているようだ。
こんなところでもたついているということは、彼らも今回の件についての被害者・・・だろうか?
だとするとこのまま見続けてもなんら意味がないということになるんだが。
「俺は知ってる、あんたの悪行をなっ!!
もともとこの森はクモの森と呼ばれてた。
それをはじまりの森と呼ばれるまでにしたのはあんたの手柄であり、失敗だってことになってる。
でもその行動を起こすのにどれだけの人間を非道な手段で抱き込んだか・・・俺は知ってるんだっ!!
ほとんど生きて帰らなかった!!
今回もそうだろう!?
どうせお前は俺達を殺して一人助かるつもりなんだっ!!」
「・・・くだらんな。」
「どうやって助かる気だっ!?俺達にもその方法を教えろっ!!」
「・・・追い詰められて、八つ当たりか。
まぁ、無理も無いが・・・それで?
教えない、と言ったらどうするんだ?」
「・・・ち、力づくで聞き出してやる!!」
「ほう?
この俺に?
お前程度のヒヨッコが・・・か?」
「俺だけじゃねぇっ!!
ここに居る全員でかかればあんたといえど・・・がはっ!?」
何か言い争ったと思ったらリーダーっぽい男、ひげを生やしてるからヒゲオでいいだろう。
ヒゲオが雑魚Aの首を切り抜いた。
頚動脈から血が吹き出る。
「ちょうどいい。
これを食うか。
食料は大事だからな。
ろくなものが食べれなくて困っていたところだ。」
「・・・っ!?」
「貴様らもなんら根拠の無い言いがかりで俺を殺すというのならかかって来い。
もれなく肉の塊にしてやる。
とはいえ腐ったら勿体無いからな。できれば一日一回、誰か一人にしてほしいが。」
なにやら仲間割れのようだ。
ヒゲオが言ったことにカチンときたのだろう。
全員が全員、ヒゲオに向かって剣をふりあげるが全員が返り討ちに。
ご愁傷様です。
そして驚くべきことに一人の死体を切り裁いて、火で焼き始めた。
もしかして・・・食べるのだろうか?
おいおい、人間同士で共食いとか。
この世界じゃ普通なのだろうか?
「・・・ユルガ・・・貴様、やりすぎではないか?
殺すとまで行かずとも・・・」
「弱い上に上の言葉も聞けないようじゃ、ただの足手まといだ。駒にもならん。
腹が膨れるのだから別にいいだろう?
いるか?」
「・・・いらん。」
「わがままを言っていては生き残れるものも生き残れんぞ。」
「・・・。」
「まぁ貴様に死なれては困る。やつらの携帯食料を食えばいいさ。これでさらに1週間は軽く持つ。」
「外道が。」
「正しい判断だと思うがなぁ。
情けで腹は膨れん。さぁ、そろそろ行くぞ。また邪魔臭い虫どものお出ましだ。さっさとこんなところ出てしまいたい。」
どうやら残った二人は移動するようで。
片方の人は武器を担いでいない。が、なにやら彼の周りにふよふよと浮く光があり、それを道しるべに歩いているようである。
なるほど。
彼らについていけば抜け道が分かるかもしれない。
少なくとも下手に動き回るよりは早く森を抜けることができるだろう。
僕は彼らの後を付いていくことに。
そして。
彼らの後をつけていくのがこんなに楽だとは思わなかった。
まずヒゲオさんは一緒に居た仲間をたちどころに殺した手並みどおり、やたらと強く、木々の囲いを木っ端微塵に粉砕する。
驚きの破壊力である。
途中で出てくる木でできたクモも木っ端微塵である。
木っ端微塵にされた木の囲いはさすがにすぐには再生ができないようで、かなりの距離を離れて後から続く僕でさえ悠然と突き進める。
道端で見かけたゴブリンなどを拾い食いしてるときに一度見失ったのだが、その破壊痕だけで簡単にどこに行ったかが分かるほどだ。
次にもう一人の研究者服の人。
研究者としての白衣以外に特徴が無いので白衣さんと呼ぶことにする。
白衣さんは微塵も迷わずにこの方向感覚の狂う森を突き進んでいる。
僕だって一応野生の生き物なのだ。
この体になってからというもの方向感覚には自身があった。
その僕でさえ迷ったというのに、彼らは木の上を歩いているというわけでもないのにさくさくと歩みを進める。
きっとあの光がなんらかの魔法なのだろう。
すばらしきかな。魔法。
彼らが道を拓いてくれるお陰で僕はとっても楽していたのであった。
「・・・くそ。やはりだめだ。」
「何がだ?」
「ここに来て帰還魔法が用を成さなくなった。」
「何?」
「やはり間に合わなかった。
森の拡大作業が終わったんだ。」
「だからなんだ?分かるように説明しろ。」
「森食みは大きく分けて三段階の作業工程がある。」
「森が広がったら収束して内部のものを取り込む。だったか?」
「ああ。広がってる間はまだよかった。
しかし収束作業が始まった。
もうこの森からは出られない。」
「だからどうしてだ?」
「論文の通りならそろそろ・・・くっ。」
「なっ!?」
一気に森が動く。
今までの比ではないレベルの力強さと速さで。
森というものがそこらから押し寄せてくる。
何がなんだか分からないけどこいつはまずいっ!!
今までで一番の命の危険を感じる。
すぐさま上空に駆け登る。が、あまりの森の振動でろくに登ることができない。
「くそっ!!
もうだめだっ!!
エステルッ!!
アイトッ!!・・・私は・・・」
「どうせ死ぬなら俺の盾になって死ねっ!!」
「うるさいっ!!
殺すなら殺せっ!!最早何も意味をなさんっ!!」
「だから諦める前に防御魔法を使って、俺の盾に・・・がはっ!?」
ヒゲオさんが森の収束における強い力がかかる場所にぶち当たったのだろう。
ごっそりと左半身がなくなっていた。
森が収束する。
それは摩訶不思議な光景だった。
森の土や生物の死骸、木々や草花が一斉に押し寄せてくる。
森の雪崩。
緑の激流に巻き込まれ、僕の意識は消えた。
「エステル・・・アイト・・・」
そんな呟きを耳にしながら。
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