不受理実験レポート

ふしきの

文字の大きさ
上 下
6 / 7
水槽の子ども

アンジーとアダムス

しおりを挟む
 この国の小学校の教科書に、載っている物語があります。
 『ビックスたち』あるいは『大きな猿のアンジーと中くらいに大きいアダムス』という不思議なお話です。

 二ひきの猿は、果物の果樹園で、退屈な毎日をのどかに過ごしていました。
 けれどもつきに数日、エキサイトな日がおとづれます。
 その日は、特別な日でした。
 水道の栓が外れ、空の上の配管からたんぱく質が流れ落ちる日だったのです。その日は、肥えた魚が三びき、そしてげっ歯がかご一杯、ぽとりと一体、ひとがたが落ちてきたのです。
 中くらいの大きいアダムスはひとがたを頭にのせてのっしのっしとそこら中を歩き回ってみました。頭にのせても落っこちないそれは乾くとアダムスよりも熱をもていました。
 アンジーは、子どもの鳴き声のようなひとがたをとても心配しましたが、乳が出る果汁ですら受け付けない死にかけの子どもの臭いに怯えて泣き出しました。
 中くらいに大きいアダムスはまだ若くて脇のポケットに入れたり、みみの裏に寝かせてみたりしてみては居心地の悪いぬるっとしたとしゃぶつを吐き出すひとがたの面倒をいつまでもいつまでもみていました。
 楽園の管理をするひとがたがアンジーとアダムスの大事なものをやっと見てくれましたが、ほとんど興味がないのでいつもひとがたの調子が良くなると小屋の外に投げ捨ててしまうのです。
 ひとがたは不自由な足と手で四六時中傾いて真っ直ぐ立つことができませんでしたが、きれいな声で歌を奏でることはできるようでした。アンジーとアダムスと同じように果樹園の看板も読むことができるようになりました。
 けれども、ひとがたはとても弱く、もろいので、アンジーとアダムスが数回目を離しただけで、倒れこんで高熱を出すものですから、その度に、楽園の管理をする小さいひとがたに身ぶり手振りで頼るしかありませんでした。

 アダムスはひとがたに柔らかいこよりの服を着せてあげ、いつも自分の首のそばで眠らせたがりました。少し年寄りのアンジーは、空から落ちるたんぱく質を綺麗に解体し、食べられる部分と致死する毒物を捨てて見せては、長い爪でひとがたに指し示しました。
 活きたり、死んだ目をしたりのとてもたいへんなひとがたが二ひきにはいとおしいものでした。
 けれども、楽園の閉鎖が決まって、次々に弱い樹木が枯れていくのを見て、食料も固形物とバケツの水になったときにアンジーは泣き出しました。
 アダムスは声帯を持っていませんでしたが、手話とタッチすると出る、コンソールキーを打つことができます。
『僕らのたいせつなひよこちゃん、僕らの支えなしで両足で立って歩けるようになった。僕らの蜜月はもうすぐ終わる、最後に楽しいパーティーをしてお別れしよう。今日はアンジーが面白いことをするよ、楽しんでね』
 ひとがたは昔付けられていた病院内の識別色のひよこちゃんが自分の名前だと思って最後まで喜んでいました。
 アンジーはその日、機械操作室でコンロを使いました。
 調理器具の音にひよこちゃんは泣き出しましたが、肉の焼ける匂いとわずかな調味料がパラパラ落ちて跳ねてバチバチいうとこの子が満面の笑みで笑ったのです。
『お前はすぐに具合が悪くなるたちみたいだからよく火を通して食べるんだよ、わずかに少食に、そしてゆっくりと味わってお食べ』
 それよりもひよこちゃんは、一瞬でブレーカーが落ちて地が揺れたことにビックリしました。
「沈黙の時間……補助電力が切り替わって主電力までのタイムラグ」
 ひよこちゃん、ひとがたのひよこちゃんは楽園の門を堂々と抜ける決心がついた日でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

事故現場・観光パンフレット

山口かずなり
ミステリー
事故現場・観光パンフレット。 こんにちわ 「あなた」 五十音順に名前を持つ子どもたちの死の舞台を観光する前に、パンフレットを贈ります。 約束の時代、時刻にお待ちしております。 (事故現場観光パンフレットは、不幸でしあわせな子どもたちという小説の続編です)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

『量子の檻 -永遠の観測者-』

葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。 幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。 やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。 教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。 葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。 現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

白羽の刃 ー警視庁特別捜査班第七係怪奇捜査ファイルー

きのと
ミステリー
―逢魔が時、空が割れ漆黒の切れ目から白い矢が放たれる。胸を射貫かれた人間は連れ去られ魂を抜かれるー 現代版の神隠し「白羽の矢伝説」は荒唐無稽な都市伝説ではなく、実際に多くの行方不明者を出していた。 白羽の矢の正体を突き止めるために創設された警視庁特捜班第七係。新人刑事の度会健人が白羽の矢の謎に迫る。それには悠久の時を超えたかつての因縁があった。 ※作中の蘊蓄にはかなり嘘も含まれています。ご承知のほどよろしくお願いいたします。

月夜のさや

蓮恭
ミステリー
 いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。  夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。  近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。  夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。  彼女の名前は「さや」。  夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。     さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。  その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。  さやと紗陽、二人の秘密とは……? ※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。 「小説家になろう」にも掲載中。  

華麗なる推理の真似事

洋海
ミステリー
制限時間は20分。 シャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンは無事に洋館から脱出することができるのか―― 他の作品も読んで見て下さい...!

処理中です...