贄の娘(むすめご)

ふしきの

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具現 ある町の観光名所案内

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 夕食の時より、父のひざ元に座り、寝入ることを許されている娘がいました。
 誰からも賛辞され、いつ頃からか、父よりも娘を愛でに来ると風潮するまでの地位に鎮座することになったのです。

 貧しく、身の一つを売ることでしか生き延びられない地の出の子どもがいました。彼の父は、常日頃、彼に言い聞かせたのです。
「誰かが、お前に頼るのなら、お前を懇願して頼るなら、無下に断るものではない」と。父は、その行いを常に彼に見せていました。父が英雄と讃えられ、生きながらに死ぬその日も彼は父を見続けたのです。

 同じころ、娘と彼に呼び出しがかかったのです。
 賛辞と称賛と喜びで町は三日三晩祭りが行われたそうです。

 
「痛みが喜びに変わるとき」
「我が身を讃え、賛美が歌われたとき」
「その高揚感はどの言葉をも、当てはまらない」
 彼ら二人だけが知りえた唯一の共通項でした。


 やがて知るのは、醜悪な自身の衰えの速さ、多くのものが、自己顕示欲をいまだに持っていると邪心され続けているということ。そして、「お前の地位を譲れ」という言葉の裏に隠された「健在を讃える言葉」。

 私たちは贄の子どもだ。
 次に来る災いの前の子どもだ。
 私が倒れれば、次の子を用意するだけだ。
 理不尽にも、根拠がない恐怖の中、ひたすら今生きている勝者に酔狂する民でありたいのだ。自分もまた同じだというのに。

『あなたの子が次に選ばれました。喜ばしきことです』と、門の外で賢者が深々と頭を下げる。あの日、父は夜に一つ涙を流したのだ。「門扉を開けるのではなかった」と。
 夜、ドアを叩く者すべては災いであるとの古い言葉がこの地には残っています。
 
 殺しあうことで名を上げた子と、表面の美しさのみを磨き続け、鮮血を知らず、自身から放つ香りまで変えた娘はお互いの言葉が通じなくてもお互いを知ることを知ったのです。そして、天窓から崩れ落ちた欠片によって潰され、人々が群がり、彼らの身をお守りとして引き裂いたと物語は終わっています。

 けれども、狂人なる美を追求してやまない芸術家がいたのです。
 死したデスマスクで取った、二つの半身で作られた栄光の像は瞬く間に町の潤いと過去の遠い遠い物語に変えたのです。
「この美しい筋肉と相反して、まだ幼い面立ちをした少年のまなざし、こちらの讃えようのない甘美な娘は産まれて以来長い髪を切ったことも結ったこともないと言われています。女性の美しさをたたえ、その長い髪ゆえに捕まってしまったというたとえでもあります。この像によく似たモニュメントはこの町の宝探しのようにいたるところに陳列していますので、観光時間が許す限り、街の散策をしてみるのもよいかと思います。それでは、明日まで自由時間です、『夜のドアを叩く者はたとえ、ホテルのボーイであっても開けてはいけない』皆様に良い旅の思い出ができますように」 
 現地観光案内人はウィンクしてその場を離れました。
 

 

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