壊れるぐらい愛して

ふしきの

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第二章

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「うちの会社の傘下なのだけれど、独立する事にしてね。誰か紹介してくれって言われたときにまずお前の顔が浮かんだんだよ」
 久々に見る元会社の顔見知りの知り合いから、東谷に接触してきた。
 テーブルを挟んで、目の前にいる小汚ないが目が輝いている男が二人。
「って言ってもMR関係なのだろう、俺は主に建設系の輸出入を担当していたからなぁ」
「部署間は違っても手腕の程は相当だと伺っておりますが…」小憎らしく、何か不都合でも、という顔で、もう一人の方は見つめてくる。
「東谷。別にお前が先導してMRするわけじゃない。あくまで契約上は経営コンサルタント方面でのアシストをお願いしたいわけだ。俺の見る限りでもいい条件じゃないか」
 提示された契約内容は、昔の働いていた職場と似ているし、雇用条件もいい、だが啓吾にとっては、医療系は初めてのことでいままで視野にも入れたこともなかったし、この年で取締役兼主任的な地位に成ることが少し怖い面でもあった。
「一昼夜考えさせてくれ」と、言って分かれた。
 相手方は「良い返事を」と嬉しそうに頭を下げた。
 なんだかちょっと俺、臆病になっているのかと、啓吾は頭をかきむしった。前の自分なら、こんな好条件なヘッド・ハントをあてつけられたら、是が非でもと取り持ってもらっていただろう。が、今の自分は分不相な気がしていた。色ボケで前が見えていないのかもしれないな。と、思うと照れ臭い笑いが出た。

 家に帰ると登の作った歪なおむすびが、ちょこんとラップに覆われていた。
 リビングでくつろいでいる登の姿を啓吾は見つめていた。濃いまつげが閉じられている。起こそうか起こさずにこのままベッドに運ぼうかと覗き込んで考えていたら、眠そうに登は目を開けた。
「お、起きたか…遅くなって悪かった。あのな、今日な」
 かいつまんで啓吾はヘッド・ハントの話をした。
「製薬会社か。良かったじゃない…」
 登は笑って、キスをする。
「そうか?そうかなぁ」
 笑いながら服を脱がされる登は、汗ばんでいる啓吾の暖かい胸に顔を埋めた。
「出来るよ。啓吾なら」
「そうか」
「だって、今頭の中それでいっぱいだろう。見えてないもん」
「それほどでもないぞ。お前の身体を見ているばっかりで…まあ興奮が倍になったって所が本音かな」
「啓吾は何時も情熱的だからね…」
 そうかわされたのを啓吾はむっとして、
「今はお前だけ!」と唇を重ねる。
 登はくすくすと笑う。
 ムッとしながら唇を食む。
「仕事は寝てから考える、って言うか、仕事なんか家にもって帰らない性質なの、昔から俺は!」
「…だから何時も月末残業ばっかりだったんだな。居残り王って総務じゃ呼ばれてたんだよ」
「昔だ昔!昔の話だろ。ま、あの時は迷惑かけたな……って、つーか手伝ってくれたお礼に飯でもと言おうとしたのに、なんで逃げたのか今すげー聞きたくなった!俺、かなり傷ついたんだぞ!!」
 柔らかな唇は何度触れても気持ちがいい。
 初めて触れた唇はカサついていた。震えるような顔をして登は逃げて帰った。単に冗談では済まされないようなでも、啓吾にとっては何かの衝撃だったのを思い出すと何だかカッとなった。
 ぎゅうぎゅうと抱き締める。
「…馬鹿」
「恥ずかしがっている」
「うるさい、馬鹿」
 登はそれ以上言わせないために今度は自分から唇をふさぐ。
 二つの熱い体が一つに蕩けあうのを同時に二人は感じていく。


 啓吾の新しい職場の仕事は研究所から立ち上げたばかりの製薬会社で、最初のメインは後発薬品から入ったほうがとの話と、研究所からの引継ぎで、血清部門を重点的にという論争閣議中。同時に始まる下準備の事務処理と納品で仕事が遅くまで続いた。
 外商にも出たし、営業も本格的にしなくちゃいけない。やらないといけない仕事ばかりが続いて連日の終電帰りが続く。啓吾以外は理系分野は強いがやはり体力勝負となると、脆いが、若い会社なだけあって情熱だけで日々労働に耐えていた。
「オラお前ら、差し入れ!」
 そういう時には、会社の福利厚生室でまめに炊き出しを行うのは啓吾だった。
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