有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第三章：幕間

虹河原_3-1

「少々、危ういか」
　展示場の見回りしながら感じた雰囲気を虹河原は立ち止まって呟いた。
　初日を無事に終えたことにより、慣れが生まれたのだろう。他の見回りをしている者達からは昨日ほどの緊張感は感じられない。

　――緊張で縛られてしまうよりは良いと思うべきか。弛んでいると注意すべきか。

　緊張はプラスにもマイナスにも効果があることを、虹河原は理解している。プラス面は集中力と警戒心が強くなる。マイナス面は緊張し過ぎると通常のパフォーマンスを発揮できない。
　だが、サイバーフェスの警備経験がある虹河原は緊張感を保つことで精神が擦り切れ、疲労困憊になることも知っている。

　――最低限の注意をすべきか。それとも、このことについて考えること自体が徒労と思うべきか。

　得てして、このような緩みが生まれたときに問題が発生するのだが、と考えながら歩いていると、ドン、と誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません――あっ……」
「考え事しながら歩くんは危ないで」
　偶然同じ場所を見回っていた一色が虹河原に笑顔を見せて、注意をする。
　虹河原は相手が相手だけに、注意力が散漫になっていた自身を強く後悔した。