19 / 76
第二章:開幕
有栖_2-2
しおりを挟む
「高本さん」
有栖は休憩エリアに来ると、高本のキッチンカーのある場所まで進み、客がいないことを確認した上でなにやら作業中の彼に声をかけた。
「有栖さん、来てくれたんですね」
「どうしたんですか?」
「ちょっとお願いがありまして――あ、これ良かったら、どうぞ」
高本は紙コップにアイスコーヒーを注ぐとそれを右手に持ち、もう片方の手でキャンディ包みの丸いチョコレートを二つ慣れた動作で掬い取ると、有栖に差し出した。ふわり、とコーヒーの香りが届き、張り詰めていた緊張感が自然と緩むのを彼女は感じる。
「お金払いますよ」
「お願いを聞いてくれれば、これはサービスで良いです」
「じゃあ、聞いてから判断します」
有栖は悪戯をするような子供っぽい笑みを浮かべると、高本は苦笑いを返した。
「とある人からコーヒーを持ってきて欲しい、とここの社員さん経由で頼まれまして」
「へぇ、誰ですか?」
「アース博士です」
「知り合いなんですか?」
予想外の人物の名前が出てきたので有栖は驚き、少し声を大きくした。
「ちょっとした機会があって俺の店に来まして……それ以来は常連です。まぁ、彼女は多忙な方なので来店する回数は少ないですけど」
「まさか、高本さんがサイバーフェスに出店してるのって……」
「アース博士の要望です」
有栖は高本の人脈の広さに関心すると同時に断れない事情もあるのだろう、と少し同情もした。
「客商売も大変ですね。良いですよ、持って行きます」
「でも、アース博士には護衛の人以外は近づけない、と聞きましたので、その方に渡して貰えれば――」
その発言を聞き、有栖は真顔で自身の顔を指さす。それを見て、高本は少し目を開き、驚いた表情を見せた。
「厄介なお仕事をしてますね」
「自分でもそう思います。というわけで、持って行きますよ」
そう言って、有栖は先程渡されたコーヒーをサービスとして貰うことにし、一口飲んだ。そして、チョコレートを一つ口に放り込み、もう一つをポケットに入れた。
食べたチョコレートは口の中でゆっくりと溶け、優しい甘みが広がる。疲れた身体には心地良かった。
「助かります。実は二回届ける必要がありまして……何やら、彼女はもうすぐ発表会があるらしいので、その前後が良いらしいです」
「自分、もうすぐ護衛の担当なので、ちょうどそのタイミングで渡せますよ」
アース博士が本日、発表会があることは事前にユースティティアにも警察にも連絡が来ていた。
「では、お願いします」
「解りました。しかし、そんなにコーヒーが欲しいのならロボットに頼めば良いのに」
そう言って、有栖は忙しなく動いている自身と同じ名前のロボットを見ていた。
「ロボットはプログラムされたことしかできませんから……忙しいんでしょう」
「自分もそこそこ忙しいんですよ?」
「ロボットよりも?」
「良い勝負だと思います」
有栖は休憩エリアに来ると、高本のキッチンカーのある場所まで進み、客がいないことを確認した上でなにやら作業中の彼に声をかけた。
「有栖さん、来てくれたんですね」
「どうしたんですか?」
「ちょっとお願いがありまして――あ、これ良かったら、どうぞ」
高本は紙コップにアイスコーヒーを注ぐとそれを右手に持ち、もう片方の手でキャンディ包みの丸いチョコレートを二つ慣れた動作で掬い取ると、有栖に差し出した。ふわり、とコーヒーの香りが届き、張り詰めていた緊張感が自然と緩むのを彼女は感じる。
「お金払いますよ」
「お願いを聞いてくれれば、これはサービスで良いです」
「じゃあ、聞いてから判断します」
有栖は悪戯をするような子供っぽい笑みを浮かべると、高本は苦笑いを返した。
「とある人からコーヒーを持ってきて欲しい、とここの社員さん経由で頼まれまして」
「へぇ、誰ですか?」
「アース博士です」
「知り合いなんですか?」
予想外の人物の名前が出てきたので有栖は驚き、少し声を大きくした。
「ちょっとした機会があって俺の店に来まして……それ以来は常連です。まぁ、彼女は多忙な方なので来店する回数は少ないですけど」
「まさか、高本さんがサイバーフェスに出店してるのって……」
「アース博士の要望です」
有栖は高本の人脈の広さに関心すると同時に断れない事情もあるのだろう、と少し同情もした。
「客商売も大変ですね。良いですよ、持って行きます」
「でも、アース博士には護衛の人以外は近づけない、と聞きましたので、その方に渡して貰えれば――」
その発言を聞き、有栖は真顔で自身の顔を指さす。それを見て、高本は少し目を開き、驚いた表情を見せた。
「厄介なお仕事をしてますね」
「自分でもそう思います。というわけで、持って行きますよ」
そう言って、有栖は先程渡されたコーヒーをサービスとして貰うことにし、一口飲んだ。そして、チョコレートを一つ口に放り込み、もう一つをポケットに入れた。
食べたチョコレートは口の中でゆっくりと溶け、優しい甘みが広がる。疲れた身体には心地良かった。
「助かります。実は二回届ける必要がありまして……何やら、彼女はもうすぐ発表会があるらしいので、その前後が良いらしいです」
「自分、もうすぐ護衛の担当なので、ちょうどそのタイミングで渡せますよ」
アース博士が本日、発表会があることは事前にユースティティアにも警察にも連絡が来ていた。
「では、お願いします」
「解りました。しかし、そんなにコーヒーが欲しいのならロボットに頼めば良いのに」
そう言って、有栖は忙しなく動いている自身と同じ名前のロボットを見ていた。
「ロボットはプログラムされたことしかできませんから……忙しいんでしょう」
「自分もそこそこ忙しいんですよ?」
「ロボットよりも?」
「良い勝負だと思います」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
機織姫
ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
10分で読める『不穏な空気』短編集
成木沢ヨウ
ライト文芸
各ストーリーにつき7ページ前後です。
それぞれ約10分ほどでお楽しみいただけます。
不穏な空気漂うショートストーリーを、短編集にしてお届けしてまいります。
男女関係のもつれ、職場でのいざこざ、不思議な出会い……。
日常の中にある非日常を、ぜひご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる