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第五章:もういいよ
楓_5-2
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「心配したんだぞ」
「縁、ごめんってば」
桜華学園での一件から数日後――楓自身も色々と対応に追われ、両親からも怒られ、一段落したところで彼女は縁と会うことが出来た。場所は高本のカフェである。
「それで、とりあえず終わったんだな」
「うん」
「あんまり無茶するなよ」
「友達の為だもん、無茶ぐらいするよ」
当然、と言わんばかりに楓が即答し、縁は溜め息をついた。
そこから二人は色々とこれまでのことを話し合った。
縁が有栖に依頼した経緯や今日までのこと。
縁が有栖に相談するきっかけになった楓の傷やボロボロになったカバンはイジメ動画を撮影したときの演出だったこと。
空白を埋めていくように、胡乱な事象を明確にするように。
「葵とはさ、仲良かったんだよ。恋愛相談にものっていてさ……時任先生に対する感情も知ってた」
「そっか……それは、楓としては違和感はなかったの?」
「うーん、なかったね。いや、なくなったかな?」
楓は少し考えたあとに続ける。
「最初は恋愛対象が異性じゃないことに違和感はあったと思うよ。だけど、葵と接していく中で、みんな葵が好きになったし、葵も自分自身のことを自信をもって好きだったんだよ。だから、そこに対して『変』とか『異常』とか思うより、葵が幸せになって欲しいと思ってた」
「そっか」
「こういった性別に関することってさ、特別な呼び方とかも必要だとは思うけどさ――葵はどう呼んでほしいとか、周囲にどう見られることよりも、自分のことや周囲の人達を自信をもって好きだって向き合っていたと思う。そうしていれば大丈夫って思っていたんだよ。だから、私達も、きっと時任先生も『日下部葵』って人間が好きになったんだ。だから、私達は葵を応援したかったし、幸せになって欲しかった」
「誰にでもできることじゃないかもしれないけどな。きっと、日下部葵さんも見えないところでは傷ついたこともあるし、戦っていたこともあるだろうしな」
「うん、当事者じゃなくて友達って立場の私には解らない部分もきっと多くあると思う。けど、葵の生き方って真っ直ぐだったんだよ、きっと。色んなことに逃げずに向き合って、誰かに幸せになって欲しい、一緒に幸せになりたい――そんな当たり前で、中々できない生き方」
「そうだな」
「そんな生き方の葵が死んだ、と聞いたとき――ショックだった。制服の件も聞いたし、その制服も私が貸したし」
その言葉を聞いて、縁は驚く。
「楓の制服だったのか?」
「うん。急に言われたときは何で、とは思ったけど、葵が言っても違和感はなかったし、古くて捨てる予定のもあったから貸したの」
「そっか。でも、そのときには決心してたんだろ? しかし、何で楓に頼んだんだろうな?」
「仲が良かったし、ユースティティアの隊員の娘ってことは知っていたから、問題にしてくれるって思ったんじゃない?」
「そうかな? 楓なら乗り越えてくれる、と思ったんじゃないかな。楓の言う通り、真っ直ぐに楓と付き合っていたなら、そう思ったのかも」
「……そうかもね。でも違うよ。私は戦ったけど、私も悲しかった」
楓はそう呟くと俯き、涙を流した。これまで気丈に振る舞い、決して誰にも見せなかった涙だ。
「葵、ショックだったんだよね。葵はいつも本気で生きてたから、本気で時任先生のことが好きだったから、本気で信じていたから、別の人からの経由とはいえ性別のことで嫌われたことや大人の悪意が……」
縁は涙ながらに語る楓の手を握っていた。
「私も葵みたいに本気で生きるよ。たくさん傷つくかもしれないけど、胸を張って生きれるように。それで、いつかはこの人と結ばれないなら死んだ方がマシって思えるぐらいの人に出会って、この生き方をした自分を好きにさせてやる。そんな人生を歩むんだ」
「俺はその相手になるように頑張るよ。もちろん、楓を死なせない」
「ここで『俺がいるだろ』って言わないところが、縁の良いところだよね」
そう言って、楓は涙を拭って微笑んだ。
「縁、ごめんってば」
桜華学園での一件から数日後――楓自身も色々と対応に追われ、両親からも怒られ、一段落したところで彼女は縁と会うことが出来た。場所は高本のカフェである。
「それで、とりあえず終わったんだな」
「うん」
「あんまり無茶するなよ」
「友達の為だもん、無茶ぐらいするよ」
当然、と言わんばかりに楓が即答し、縁は溜め息をついた。
そこから二人は色々とこれまでのことを話し合った。
縁が有栖に依頼した経緯や今日までのこと。
縁が有栖に相談するきっかけになった楓の傷やボロボロになったカバンはイジメ動画を撮影したときの演出だったこと。
空白を埋めていくように、胡乱な事象を明確にするように。
「葵とはさ、仲良かったんだよ。恋愛相談にものっていてさ……時任先生に対する感情も知ってた」
「そっか……それは、楓としては違和感はなかったの?」
「うーん、なかったね。いや、なくなったかな?」
楓は少し考えたあとに続ける。
「最初は恋愛対象が異性じゃないことに違和感はあったと思うよ。だけど、葵と接していく中で、みんな葵が好きになったし、葵も自分自身のことを自信をもって好きだったんだよ。だから、そこに対して『変』とか『異常』とか思うより、葵が幸せになって欲しいと思ってた」
「そっか」
「こういった性別に関することってさ、特別な呼び方とかも必要だとは思うけどさ――葵はどう呼んでほしいとか、周囲にどう見られることよりも、自分のことや周囲の人達を自信をもって好きだって向き合っていたと思う。そうしていれば大丈夫って思っていたんだよ。だから、私達も、きっと時任先生も『日下部葵』って人間が好きになったんだ。だから、私達は葵を応援したかったし、幸せになって欲しかった」
「誰にでもできることじゃないかもしれないけどな。きっと、日下部葵さんも見えないところでは傷ついたこともあるし、戦っていたこともあるだろうしな」
「うん、当事者じゃなくて友達って立場の私には解らない部分もきっと多くあると思う。けど、葵の生き方って真っ直ぐだったんだよ、きっと。色んなことに逃げずに向き合って、誰かに幸せになって欲しい、一緒に幸せになりたい――そんな当たり前で、中々できない生き方」
「そうだな」
「そんな生き方の葵が死んだ、と聞いたとき――ショックだった。制服の件も聞いたし、その制服も私が貸したし」
その言葉を聞いて、縁は驚く。
「楓の制服だったのか?」
「うん。急に言われたときは何で、とは思ったけど、葵が言っても違和感はなかったし、古くて捨てる予定のもあったから貸したの」
「そっか。でも、そのときには決心してたんだろ? しかし、何で楓に頼んだんだろうな?」
「仲が良かったし、ユースティティアの隊員の娘ってことは知っていたから、問題にしてくれるって思ったんじゃない?」
「そうかな? 楓なら乗り越えてくれる、と思ったんじゃないかな。楓の言う通り、真っ直ぐに楓と付き合っていたなら、そう思ったのかも」
「……そうかもね。でも違うよ。私は戦ったけど、私も悲しかった」
楓はそう呟くと俯き、涙を流した。これまで気丈に振る舞い、決して誰にも見せなかった涙だ。
「葵、ショックだったんだよね。葵はいつも本気で生きてたから、本気で時任先生のことが好きだったから、本気で信じていたから、別の人からの経由とはいえ性別のことで嫌われたことや大人の悪意が……」
縁は涙ながらに語る楓の手を握っていた。
「私も葵みたいに本気で生きるよ。たくさん傷つくかもしれないけど、胸を張って生きれるように。それで、いつかはこの人と結ばれないなら死んだ方がマシって思えるぐらいの人に出会って、この生き方をした自分を好きにさせてやる。そんな人生を歩むんだ」
「俺はその相手になるように頑張るよ。もちろん、楓を死なせない」
「ここで『俺がいるだろ』って言わないところが、縁の良いところだよね」
そう言って、楓は涙を拭って微笑んだ。
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