有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

文字の大きさ
上 下
77 / 82
第五章:もういいよ

飛田_5-1

しおりを挟む
「ありがとうございました! そして、すみませんでした!」
 桜花学園の記者会見が終わると、帰り道で飛田は虹河原に謝罪をした。今回の件、飛田は反保と行動していたときに生徒達から、記者会見で何をするつもりなのか等は聞いていたのだ。そして、その内容を虹河原に報告をしたのだが、『黙認すること』も一緒にお願いしたのだった。
 警察としてはあるまじき行為かもしれない。だが、生徒達のやりたいようにやらせてあげたかったのだ。

 結果、虹河原は――『黙認』した。
 例え了承してくれたとはいえ、飛田は虹河原に頭を下げずにはいられなかった。それは彼自身がその行動をしたこと。そして、先輩である虹河原にそれを了承させた意味を理解しているからだ。

「……飛田くんの行動は警察のすべき行動ではありません。正しくないですから。おそらく、我々は注意を受けるでしょうね」
 飛田の頭に虹河原の言葉が降ってくる。
「ですが、飛田くんらしい行動と判断だったと思いますよ。顔を上げてください」
 飛田が顔を上げると、虹河原は優しく微笑んでくれた。そして、その表情を消して、真面目の仮面を被ると、
「これから桜華学園の後処理で忙しくなります。頼りにしていますよ」
 そう言って、虹河原は警察に戻る為に歩き出す。
「はい!」
 飛田は元気よく返事をすると、小走りで虹河原の横に並ぶと共に歩き出した。 
「ん?」
 少し進んだところで、スマートフォンの着信音が短く鳴った。飛田はそれを取り出して見ると、メッセージの着信が一件。着信欄の名前には『キノコ』と彼が登録した名前が表示されている。

 ――そういや、以前治療を受けた病院が一緒になったときに連絡先を交換したな。

 自身が無理矢理に交換させた、という部分は抜けて思い出す。彼は、画面をタップしてメッセージを確認した。

『本日はありがとうございました』

 それが時任を殴りそうになったことを止めたことなのか。
 生徒達が記者会見の場に来ることを黙認したことなのか。
 それとも、ただの社交辞令なのか。

 どれのことなのかは解らないが、
「不器用な奴」
 メッセージを確認した飛田をそう呟いて、小さく笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

化粧品会社開発サポート部社員の忙しない日常

たぬきち25番
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞、奨励賞受賞作品!!】 化粧品会社の開発サポート部の伊月宗近は、鳴滝グループ会長の息子であり、会社の心臓部門である商品開発部の天才にして変人の鳴滝巧に振り回される社畜である。そうしてとうとう伊月は、鳴滝に連れて行かれた場所で、殺人事件に巻き込まれることになってしまったのだった。 ※※このお話はフィクションです。実在の人物、団体などとは、一切関係ありません※※ ※殺人現場の描写や、若干の官能(?)表現(本当に少しですので、その辺りは期待されませんように……)がありますので……保険でR15です。全年齢でもいいかもしれませんが……念のため。 タイトル変更しました~ 旧タイトル:とばっちり社畜探偵 伊月さん

グレイマンションの謎

葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。 二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?

幻影のアリア

葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、とある古時計のある屋敷を訪れる。その屋敷では、不可解な事件が頻発しており、葉羽は事件の真相を解き明かすべく、推理を開始する。しかし、屋敷には奇妙な力が渦巻いており、葉羽は次第に現実と幻想の境目が曖昧になっていく。果たして、葉羽は事件の謎を解き明かし、屋敷から無事に脱出できるのか?

ヨハネの傲慢(上) 神の処刑

真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。

殺人推理:配信案内~プログラマー探偵:路軸《ろじく》九美子《くみこ》 第1章:愛憎の反転《桁あふれ》~

喰寝丸太
ミステリー
僕の会社の広報担当である蜂人《はちと》が無断欠勤した。 様子を見に行ってほしいと言われて、行った先で蜂人《はちと》は絞殺されて死んでいた。 状況は密室だが、引き戸につっかえ棒をしただけの構造。 この密室トリックは簡単に破れそうなんだけど、破れない。 第一発見者である僕は警察に疑われて容疑者となった。 濡れ衣を晴らすためにも、知り合いの路軸《ろじく》九美子《くみこ》と配信の視聴者をパートナーとして、事件を調べ始めた。

一話完結のミステリー短編集

緑川 つきあかり
ミステリー
全て一話完結です。 黒猫と白猫と?神の願い あらすじ 不変なき日常を生きる三つの存在。 白猫と黒猫と?神だけが在る空間。 其々の持つ願望が世界を変える。 岐天駅 あらすじ 人はその選択に後悔する その駅に辿り着いた者は皆、絶望する。 どんな道を選んだとしても、正解は無いのだから。

処理中です...