66 / 82
第五章:もういいよ
時任_5-2
しおりを挟む
時任は日下部葵が編入してきたときのことを良く覚えていた。
自身が特別に担当した、ということ。小中高一貫に編入してくる生徒が馴染めるのか、ということ。イジメなどに発展したらどうしよう、という様々な不安が時任にはあったからだ。その生徒がイジメの標的や、また、その生徒自身が問題を起こすと自身の出世にも響く――そんなことを考えていたのだ。
「はじめまして、日下部葵です。今日から宜しくお願いします」
だけど、その不安は日下部葵を一目みて払拭された。
中性的な顔と、テニスをしてきたことによるしなやかな体躯。男性だが髪は長く、ポニーテールにして後ろで結っていた。そして、屈託もない爽やかな笑顔に魅力を感じたのだ。
日下部はすぐに学園に馴染んだ。彼は魅力的で、明るくて周囲を笑顔にさせていった。人見知りもなく、最初からこの学園にいたのではないか、と思うぐらいにクラスの中心になり、テニス部の中心になった。
時任は特別に担当した、ということもあり、日下部に学園生活の状況などを聞く機会が多かった。通常ならば、このような面談は重苦しくなるものだが、日下部との会話は笑いが絶えず、仕事だということを忘れてしまうぐらいに楽しい記憶で埋め尽くされていた。その日が来るのが待ち遠しくなるぐらいに。惹かれていた、ということなのだろう。出世などの仕事のことを忘れていたのは彼の教師人生の中で初めてだった。
「時任先生って好きな人とかいるの?」
「いるように見えるか?」
「見えるよ? カッコイイし優しいじゃん。俺、めっちゃ好きだよ」
「……教師をからかうな」
いつだったかそんな会話をしたこと時任は覚えている。その言葉を聞き、嬉しくなって、照れて、恥ずかしくなって誤魔化した記憶だ。冗談だ、ふざけているんだ、と言い聞かせても真っ直ぐで少し潤んだ日下部の目が嘘を言っているようには思えなくて、鼓動が高鳴った。
聞こえないでくれ、と強く願うと同時に――時任は性別も、教師と生徒という関係も越えて、日下部に恋をしていることを自覚した。
もしかしたら日下部も同じ気持ちなのではないか、という淡い期待を抱いて。
自身が特別に担当した、ということ。小中高一貫に編入してくる生徒が馴染めるのか、ということ。イジメなどに発展したらどうしよう、という様々な不安が時任にはあったからだ。その生徒がイジメの標的や、また、その生徒自身が問題を起こすと自身の出世にも響く――そんなことを考えていたのだ。
「はじめまして、日下部葵です。今日から宜しくお願いします」
だけど、その不安は日下部葵を一目みて払拭された。
中性的な顔と、テニスをしてきたことによるしなやかな体躯。男性だが髪は長く、ポニーテールにして後ろで結っていた。そして、屈託もない爽やかな笑顔に魅力を感じたのだ。
日下部はすぐに学園に馴染んだ。彼は魅力的で、明るくて周囲を笑顔にさせていった。人見知りもなく、最初からこの学園にいたのではないか、と思うぐらいにクラスの中心になり、テニス部の中心になった。
時任は特別に担当した、ということもあり、日下部に学園生活の状況などを聞く機会が多かった。通常ならば、このような面談は重苦しくなるものだが、日下部との会話は笑いが絶えず、仕事だということを忘れてしまうぐらいに楽しい記憶で埋め尽くされていた。その日が来るのが待ち遠しくなるぐらいに。惹かれていた、ということなのだろう。出世などの仕事のことを忘れていたのは彼の教師人生の中で初めてだった。
「時任先生って好きな人とかいるの?」
「いるように見えるか?」
「見えるよ? カッコイイし優しいじゃん。俺、めっちゃ好きだよ」
「……教師をからかうな」
いつだったかそんな会話をしたこと時任は覚えている。その言葉を聞き、嬉しくなって、照れて、恥ずかしくなって誤魔化した記憶だ。冗談だ、ふざけているんだ、と言い聞かせても真っ直ぐで少し潤んだ日下部の目が嘘を言っているようには思えなくて、鼓動が高鳴った。
聞こえないでくれ、と強く願うと同時に――時任は性別も、教師と生徒という関係も越えて、日下部に恋をしていることを自覚した。
もしかしたら日下部も同じ気持ちなのではないか、という淡い期待を抱いて。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
処刑された女子少年死刑囚はガイノイドとして冤罪をはらすように命じられた
ジャン・幸田
ミステリー
身に覚えのない大量殺人によって女子少年死刑囚になった少女・・・
彼女は裁判確定後、強硬な世論の圧力に屈した法務官僚によって死刑が執行された。はずだった・・・
あの世に逝ったと思い目を覚ました彼女は自分の姿に絶句した! ロボットに改造されていた!?
この物語は、謎の組織によって嵌められた少女の冒険談である。
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
美しいお母さんだ…担任の教師が家庭訪問に来て私を見つめる…手を握られたその後に
マッキーの世界
大衆娯楽
小学校2年生になる息子の担任の教師が家庭訪問にくることになった。
「はい、では16日の午後13時ですね。了解しました」
電話を切った後、ドキドキする気持ちを静めるために、私は計算した。
息子の担任の教師は、俳優の吉○亮に激似。
そんな教師が
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる