有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第三章:まぁだだよ

飛田_3-1

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 一方で飛田と反保は許可を得た上で職員室の一角に設けられたデータベース室、という部屋でパソコンを操作し、学園のデータベースを確認していた。パソコンを操作するのは反保で、彼が色々と情報を確認するのを後ろで飛田がぼんやりと見ている。
「何か気になる情報はあったか?」
「いや、特には……」
 合間に雑談と沈黙を挟みながら、調査を進めていく。
「なんか学校って良い記憶が無いんだよな」
 何気なく、飛田がそう口にした。
「楽しい思い出とか無いんですか?」
「いや、まぁ、あるにはあるんだけど……俺は学生生活はテキトーだったからなぁ。何か青春をしてた感じでもないし。そっちは?」
「小学校以降は学校、というものに行ってないので解らないです」
「あー、ごめん」
「何に対しての謝罪ですか、それ」
「えーっと、その、あれだ……」
「別に良いですよ、気を使わなくて。学校に興味がない、といえば嘘になるでしょうけど、今更過去に戻れるわけじゃないし、僕は僕でこの人生だったから今ここにいるわけで……もちろん、運が良かっただけですけど、それでも、今は納得してるし、良かったとも思えています」
「そっか。それなら良かったよ」
 反保の言葉に飛田はどこか嬉しそうだった。
「ですが、バイトでは仕事仲間に高校生とかもいたので、彼等に対する印象、というは持っています。勝手な認識ですが――難しい時期だな、と」
「難しい時期?」
「子供でもないし大人でもない。先生なんて信用してない人もいますし、交友関係も一生ものだと考えていない人もいる。中には友達すら信じてない人もいましたよ。自己が形成されつつあり、最も不安定な時期だと思います」
「……心当たりはあるなぁ。だから、問題の一つや二つはあるってことでユースティティアはこの学園の調査をすることになったのか?」
「そんなところです」
 そこまで会話を交わすと反保はパソコンのモニターに表示されていたデータベースのウィンドウを閉じた。
「もういいのか?」
「はい、ちょっと難しそうなので……さて、これからどうしましょうか?」
「うーん、俺としては日下部って生徒が気になる。時任さんか、そのスクールカウンセラーの……」
「百井さんですね」
「あぁ、その人。その人達に日下部って生徒のことを、もっと詳しく聞いてみないか?」
「そうですね」
 反保が立ち上がり、部屋から出ようとしたが、一方で飛田は動かなかった。何かを考えているような、悩んでいるような表情を見せている。
「行かないんですか?」
「あー、あのさ。俺は気になっちゃうし、抱えたままが嫌だし、スッキリさせたいから聞くんだけど……」
「何ですか?」
「あのパイナップルとあの我孫子さんの関係ってさ……結構、面倒な感じなんだな。あのパイナップルに感じていたイメージとは違うっていうか」
「何か聞いたんですか?」
「いや、その……詳しく聞いたわけじゃないけど」
 割って入る反保の言葉に感情の昂ぶりを飛田は感じた。それと同時に、しまった、と後悔する。気まずい沈黙が生まれ、先程までの穏やかな雰囲気は完全に消えてしまった。
「……仮に我孫子さんから何かを聞かされたとしても、僕は双方の言葉を聞かないと信じません」
 沈黙を破ったのは反保だ。拳を強く握り、感情をそこに集中させて逃がしているようだった。
「『俺』はいつも自分の言葉を信じてもらえなかった。時には聞いてすらもらえなかった。だから、『俺』はそんなことしない。――あぁ、そうだったな、お前も勝手に決めつけて、話すら聞いてくれない奴だったな。『俺』と出会ったときもそうだった」
 反保の目が紅い。彼が話していることは飛田と初対面での出来事のことだ。最悪の初対面だったことは解っている。そこには飛田にも言い分があり、謝罪したい気持ちもあるのだが――
「違う。俺は――」
「あぁ、ここにいたんですね。少し遅かったから様子を見に来たのですが……」
 突然、ドアが開き、虹河原が入って来た。
「どうかしましたか?」
 室内にいた二人の雰囲気に違和感を覚え、彼は尋ねたが、
「いえ、何もありません。今から日下部って生徒について時任さんや百井さんに話を聞きにいこう、としていたところです」
 反保は虹河原に先程決まったことを話す。いつの間にか彼の目の色は元に戻っていた。
「そうですか。では、全員で行きましょうか……飛田くん、どうかしましたか?」
「いえ――何にもありません」
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