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第一章:この指止まれ
反保_1-3
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「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」
そう聞いた反保に有栖は不機嫌そうに返事をした。彼女の左腕はアームホルダーによって腕を吊り、固定されていた。ユースティティアに戻ってから治療をして、骨折ではなく小さなヒビと靭帯が軽めだが損傷しているらしい。全治一か月だそうだ。
そして、二人は今、ユースティティアの応接室で並んで座り、待機中だ。もうすぐ一色が来るらしい。
組み手は天使の一本勝ちで決着。なにやら機嫌の良い彼は、
「今日は引き上げて頂きますが――そうですね、条件付きで貴方たちの調査を承認したいと思います。それについては私から我孫子さんに伝えますので、とりあえず、今日はお帰りください」
そう告げた。彼にどのような権限があるのかは解らないが、何かしらの働きかけが出来るようだった。
反保はその詳細を聞くよりも有栖が心配だったので、早々に引き上げ、一色に連絡して車で迎えに来てもらった。車中で経緯に関しては反保から差し支えないの無い範囲で伝えておいた。彼の娘のことは、有栖が睨むので伝えてはいない。
「よう、お疲れさん」
ノックの音が数回させて、一色が入ってきてそう言った。そして、向かいに座る。
「まったく、連絡の受けてない調査はするわ、怪我はするわ、何してんねん」
「すみません」
「すみません」
困ったように、心配するように投げかけられた言葉に二人は素直に謝った。
「で? 車中で軽くは聞いたけど、何の調査してたんや?」
「学園でイジメがあるって話を、いきつけのカフェで桜花学園の生徒の知り合いに相談されたので調査しに行きました。連絡しなかったのはイチさんの娘さんが通う学園なので、不安になるかと思いまして、言いにくかっただけです」
有栖は根幹の部分の説明を避けつつ、事実の回答を行った。
「そうか……まぁ、余計な気を使わせたんやな、悪かった。確かに、聞いたら俺も心配になってたかもな」
「調査はもう止めた方が良いですか?」
「いや、続ける」
二人には中止、という文字が頭に浮かんでいたので、一色の回答は予想外だった。
「元々やねんけど、桜花学園には裏口入学を斡旋し、その際に裏金を貰っている疑惑があった。まぁ、学園と警察の関係が強くて調査が出来んかったんやけどな」
「僕等は生徒や教員の調査を表向きに、裏でその調査をすれば良いんですか?」
「その手がかりが掴めればラッキーってとこやな。けど、表が優先や。下手に裏を調べて怪しまれると厄介やからな」
「なるほど」
反保は話を聞きながら、納得する。
「せやけど、警察側から条件がつけられた。今回、警察と一悶着があったやろ?」
一色の視線は有栖の腕へと向いていた。そして、一瞥したあと二人に視線を戻す。
「条件は調査はユースティティアから二人だけ。それに警察からも二人つけて、一緒に調査すること」
「動きにくくはなりますが、自分と反保なら何とかなるでしょ」
「いや、有栖。お前はその調査に参加できん」
意気揚々としていた有栖に、一色が水を差す。その表情は怪我を心配しているのではなく、別の意味があるかのように神妙な面持ちだった。
「何故ですか?」
明らかに不満がこめられた声で有栖が問う。その問いに、一色は有栖ではなく、反保を見た。彼には状況の理解が出来なかったが、
「いいから説明してください」
有栖の言葉に、一色は小さく溜息をついてから話す。
「警察からユースティティアの調査を担当する一人に我孫子課長が指定された」
「…………」
「ユースティティアでは過去に問題があった人員同士を同じ任務、同じ現場で調査はできないルールがある。もちろん、必要があれば特例で許されるが、今回は該当しない。よって、今回の担当は反保だけや」
反保は自身が担当になる不安よりも、悔しそうに歯を食いしばる有栖が気になった。彼も簡単に聞いたり、踏み入って良いことではないと理解しているので、黙っていることしかできない。
「俺も別件で忙しいから対応は難しい。有栖は怪我の治療をしながら、学園外からの調査と反保のサポートをすること。反保は有栖の指示を聞きながら、無理のない範囲で調査をすること」
「……解りました」
「わ、解りました」
一色の指示に二人はそれぞれの思いを抱き、返事をした。
「大丈夫じゃない」
そう聞いた反保に有栖は不機嫌そうに返事をした。彼女の左腕はアームホルダーによって腕を吊り、固定されていた。ユースティティアに戻ってから治療をして、骨折ではなく小さなヒビと靭帯が軽めだが損傷しているらしい。全治一か月だそうだ。
そして、二人は今、ユースティティアの応接室で並んで座り、待機中だ。もうすぐ一色が来るらしい。
組み手は天使の一本勝ちで決着。なにやら機嫌の良い彼は、
「今日は引き上げて頂きますが――そうですね、条件付きで貴方たちの調査を承認したいと思います。それについては私から我孫子さんに伝えますので、とりあえず、今日はお帰りください」
そう告げた。彼にどのような権限があるのかは解らないが、何かしらの働きかけが出来るようだった。
反保はその詳細を聞くよりも有栖が心配だったので、早々に引き上げ、一色に連絡して車で迎えに来てもらった。車中で経緯に関しては反保から差し支えないの無い範囲で伝えておいた。彼の娘のことは、有栖が睨むので伝えてはいない。
「よう、お疲れさん」
ノックの音が数回させて、一色が入ってきてそう言った。そして、向かいに座る。
「まったく、連絡の受けてない調査はするわ、怪我はするわ、何してんねん」
「すみません」
「すみません」
困ったように、心配するように投げかけられた言葉に二人は素直に謝った。
「で? 車中で軽くは聞いたけど、何の調査してたんや?」
「学園でイジメがあるって話を、いきつけのカフェで桜花学園の生徒の知り合いに相談されたので調査しに行きました。連絡しなかったのはイチさんの娘さんが通う学園なので、不安になるかと思いまして、言いにくかっただけです」
有栖は根幹の部分の説明を避けつつ、事実の回答を行った。
「そうか……まぁ、余計な気を使わせたんやな、悪かった。確かに、聞いたら俺も心配になってたかもな」
「調査はもう止めた方が良いですか?」
「いや、続ける」
二人には中止、という文字が頭に浮かんでいたので、一色の回答は予想外だった。
「元々やねんけど、桜花学園には裏口入学を斡旋し、その際に裏金を貰っている疑惑があった。まぁ、学園と警察の関係が強くて調査が出来んかったんやけどな」
「僕等は生徒や教員の調査を表向きに、裏でその調査をすれば良いんですか?」
「その手がかりが掴めればラッキーってとこやな。けど、表が優先や。下手に裏を調べて怪しまれると厄介やからな」
「なるほど」
反保は話を聞きながら、納得する。
「せやけど、警察側から条件がつけられた。今回、警察と一悶着があったやろ?」
一色の視線は有栖の腕へと向いていた。そして、一瞥したあと二人に視線を戻す。
「条件は調査はユースティティアから二人だけ。それに警察からも二人つけて、一緒に調査すること」
「動きにくくはなりますが、自分と反保なら何とかなるでしょ」
「いや、有栖。お前はその調査に参加できん」
意気揚々としていた有栖に、一色が水を差す。その表情は怪我を心配しているのではなく、別の意味があるかのように神妙な面持ちだった。
「何故ですか?」
明らかに不満がこめられた声で有栖が問う。その問いに、一色は有栖ではなく、反保を見た。彼には状況の理解が出来なかったが、
「いいから説明してください」
有栖の言葉に、一色は小さく溜息をついてから話す。
「警察からユースティティアの調査を担当する一人に我孫子課長が指定された」
「…………」
「ユースティティアでは過去に問題があった人員同士を同じ任務、同じ現場で調査はできないルールがある。もちろん、必要があれば特例で許されるが、今回は該当しない。よって、今回の担当は反保だけや」
反保は自身が担当になる不安よりも、悔しそうに歯を食いしばる有栖が気になった。彼も簡単に聞いたり、踏み入って良いことではないと理解しているので、黙っていることしかできない。
「俺も別件で忙しいから対応は難しい。有栖は怪我の治療をしながら、学園外からの調査と反保のサポートをすること。反保は有栖の指示を聞きながら、無理のない範囲で調査をすること」
「……解りました」
「わ、解りました」
一色の指示に二人はそれぞれの思いを抱き、返事をした。
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