有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第一章:この指止まれ

有栖_1-8

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「顔への打撃は無効。それ以外は何でも有りです。一本とった時点で終わりですので。では――始め!」
 反保の言葉で組み手が始まった。

 最初の一撃は有栖。素早く踏み込んで顔面への左ジャブ。当てるつもりはないので、顔面スレスレで止めて引くつもりだった。
 しかし、天使はそれを容易く左でパーリング――掌で叩き落とした。
 そこから今度は天使の左ジャブ。同様に顔面へと鋭く伸びるが、有栖もパーリングで叩き落とす。それを数回繰り返す――ということは天使は有栖のスピードに対応している、ということでもあった。

 ――この人、強い。

 有栖はユースティティアでもトップクラスの戦闘能力がある。格闘に関しては、ユースティティア内でも組み手で負けたことはなかった。その彼女が『強い』と認識したのだ。
 天使の戦闘能力は高レベルだ。そして、もう一つ。有栖には感じることがあった。

 ――何だ……この違和感は……

 打撃は当てられない、と判断すると有栖は構えを変え、スッと身を低くして天使にタックルをした。狙いは右足。しかし、それを天使は読んでいたのか、側転で避けると背後に回る。そして、逆に足首を掴もうとしたので、彼女は身体をその場で横方向に回転させ、その手を弾いた。
 そして、間合いを取り合うように再び互いにジャブを打ち合い、互いにパーリングで叩き落としあう。そして、足運びも同じく反時計回りだった。二人はまるで踊り、円を描くような移動をし、攻撃を繰り出しあう。

「突くなら砕く。蹴るならば刈り取る――」
 攻撃と防御の間隙を縫うように、天使から呟くような声が聞こえた。
「掴むなら投げる。投げたなら極める」
 並べられる言葉には聞き覚えがあった。これは――
「極めたなら、折り、締める」
 有栖は理解し、戦慄が走る。この言葉は――
「全ての手法を尽くし相手を潰す――これぞ千変万化」
 有栖が過去に習得した流派の言葉だった。

 ――まさか天使さんも同じ流派……いや、今はどうでも良い。もうタイミングは掴んだ。次のジャブで終わらせる!

 ジャブの応酬で有栖は天使の攻撃のスピードとタイミングを掴んでいた。なので、先にもう一度ジャブを放ち、弾かれ、次に放たれるジャブを引き込みサブミッションで終わらせる――つもりだった。

「なっ!」
 その考えを先に実行したのは天使だった。有栖のジャブを引き込み、脇に抱え込むと流れるように足を払い、彼女はうつ伏せに倒れる。そして、倒れたと同時に腕が極められている――脇固めだ。
「がぁ!」
 肘から肩に激痛が走り、自然と呻き声が上がる。有栖は必死でもがくが逃げ道はない。
 更に力が徐々に加えられ、痛みが増す。更に腕が曲がらない方向へと力が加えられていく。
「ぐっっがぁぁ!」
 有栖は無意識に右手で床を必死に叩き、ギブアップを天使に伝えた。
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