有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第一章:この指止まれ

有栖_1-6

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「我孫子さんですか、はい、よろしくお願い致します」
 学園長は目の前にいる男に少々怯えるように一礼した。それに対して、我孫子は少しだけ身体を傾けて、浅い礼を返した。
「ここからは生活安全課の私が、彼女達が行っていた調査を引き受けましょう。そもそも、このような業務はこちらの管轄ですので」
「なっ――ちょっと待ってください!」
 我孫子の発言に、さすがに有栖も静観、というわけにはいかなかった。突然現れて、当然のように自身が遂行しようとしていた案件を奪われようとしたのだ。黙っていたら、それは黙認と思われてしまう。
「待たねぇよ。このような学生の素行やそれに関する教育機関の調査は、ユースでは生活安全課の業務の一環だ。調査レベルに不安もないだろ? 元は刑事課のトップだった俺が担うんだから」
 我孫子は有栖の発言を一蹴するように返答する。
 ユースティティアの生活安全課の主目的は生活に影響を及ぼす環境、地域の自主的な防犯力の向上、そして、学生を含む未成年の素行や犯罪、それに関する機関への調査や指導などがある。
 その点では確かに我孫子の主張は正しい。また、彼の発言の中にあった経歴についても。
「ですが、自分達にも調査を続ける権利があるはずです」
 有栖は負けじと言い返す。
「特務課の存在意義は理解しているが――なぁ、有栖。『また』俺と問題を起こす気か?」
 我孫子の発言で有栖は一瞬硬直し、そして、何かに抗うように、また、それしかできないかのように相手を睨みつけた。
 険悪であり、だが、どこか我孫子が嫌悪で有栖を飲み込んでしまいそうな異質な雰囲気の中、反保も上手く言葉を挟めない。
 膠着状態のまま時間は流れるのかと思ったが、それは違った。意外な人物が早々に口を挟んだのだ。
「あのー、私に提案があるのですが」
 天使だった。彼だけは何の干渉も受けていないかのように、動き、話す。
「我孫子さんを連れてきたのは私です。もちろん、調査もお願いしたい。ですが、有栖さんの業務を奪ったのなら申し訳ない気持ちになります――なので、一つ勝負をしましょう」
「勝負?」
「私と有栖さんで組み手をして、私が一本とれば今日はお引き取りの上、調査についてはユースティティアと警察で相談の上、進める。有栖さんが一本とれば、我孫子さんには退いてもらって、このまま調査を続行してください」
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