有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第一章:この指止まれ

有栖_1-5

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「えっと、どちらさまですか?」
「あぁ、すみません。私はこういうものです」
 突如現れた男は軽く頭を下げると、名刺を有栖に差し出す。友好的で、敵意はないように思えた。
「警察の――テンシさん?」
 差し出された名刺に警察のロゴが入っていたので、有栖は警戒心を持ったが、変わった名前に思わず困惑してしまった。
「よく間違えられるんですよ。けど、テンシではなくアマツカです。天使 薫(あまつか かおる)と言います」
「その警察の天使さんが、何の用ですか?」
 相手の態度は友好的なようなので、有栖は邪険に扱わずに冷静に対応する。
「ユースティティアから急な来訪があって対応に困っています、と学園長から連絡がありまして……私、学園長とはそこそこに長い付き合いですので」
 どうやら、学園長はヘルプの電話を警察にしていたらしい。有栖がその話を聞いた直後に学園長へと視線を向けると、彼は露骨に目を逸らした。急な来訪をした彼女達にも少々の引け目があるので強く追求はできないのだが。
「あー、すみません。こちらとしては訪問での調査を不当とは思っていませんし、ユースティティアと揉めるつもりはありません。なので、穏便に済ませる為に事前に知り合いのユースティティアの方に相談し、ご同行して頂きました」
「ユースティティアの社員ですか?」
「はい。先程まで一緒に皆さんを探していたのですが――あ、こちらに来ましたね」
 反保の問いに天使は笑顔で応対すると、当人を有栖達の向こう側――彼女達の背後に見つけたようだった。それに反応し、彼女達は振り返る。
「なっ……」
 その人物を見たとき、有栖は真っ先に反応し、その表情に表れた嫌悪を隠すことはなかった。それに反保も気づいたが、その理由までは解らない。
「知り合いですか?」
 反保のその問いに対しても、有栖が何かを答えることはなかった。

 頬の痩けた骨に皮膚が張り付いているような痩せた四十代ぐらいの男性だった。浅黒く、無精髭を生やし、髪も無造作で整ってはいない。グレーのスーツにはシワがあり、中に着ているシャツはノーネクタイ。天使とは正反対のような少々だらしない男に見えた。
 その男は有栖達を無視し、学園長へと近づくと、
「初めまして、学園長。ユースティティアの生活安全課の課長、我孫子 武士(あびこ たけし)です」
 そう言って、しゃがれた声で自己紹介をした。
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