有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第一章:この指止まれ

大人

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『学園長、ユースティティアの方々が受付に来ているのですが……』
「え?」
 桜華学園の学園長である門倉(かどくら)は受付から掛かってきた電話に、いつも通り何気なく対応していたのだが、その言葉を聞いて驚いた。
「な、なんの用かね。今日はそのような予定はなかったはずだが?」
『何やら少し調査がしたい、と聞いています。学生の素行について、とのことです』
「そ、そうか」
 門倉は少なくなった頭髪をがりがり、と掻きながら言葉に焦りが出ないように対応する。

 ――ここで嘘をついて追い返しても、また来たときに心証を悪くするから悪手だな。嘘の予定も言ったところで調べられると解るし、その際には何か隠した、と勘ぐられるのは避けたい。

 門倉はゆっくりと一呼吸をしたあと、
「まずは話を聞くので私の部屋まで案内してくれ。あぁ、ちょっと資料が散らかっているので十五分後でお願いしたい」
 そう受付に伝える。
『かしこまりました』
 がちゃり、という音を聞き、受話器を置くと大きく深呼吸をした。
「どうする? どうしたらいい?」
 既に整理整頓され、片付いている学長室で門倉は頭を抱えた。五十歳の少し太った身体は脂汗が出て、髪は銀色のような白髪と僅かな黒が混ざっているが、全てが白くなるか抜け落ちてしまいそうなほどのストレスを感じている。

 門倉がここまで焦っている理由は一つ――桜華学園には一部の生徒を裏口入学させており、そのときに金銭の授受をしているからだ。それは学園長を含む一部の関係者しか知らない。彼は、ユースティティアがその調査に来たのではないのか、と思ったのだ。やましいことをしている人間は常にそれが暴かれるリスクに怯えている。ただ、それでも堂々と振る舞えるか、焦って混乱するかはその当人の器によるのだろう。

「そ、そうだ!」
 門倉はスマホを取り出し、関係者――警察に電話をした。彼は警察に裏金の一部を賄賂として送金し、この行為を見逃してもらっていたのだった。

『はい、どうしました? 門倉学園長』
「あぁ、大変なんだ。急にユースが来て――」
 門倉は事の経緯を話す。
『なるほど。では、今から助けに行きますので少し時間を稼いでください』
「解った。頼むよ――アマツカくん」
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