有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ

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第一章:この指止まれ

奉日本_1-1

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「彼の依頼を受けるんですか?」
 右京が店から出て行った後、カウンター席に座り直した有栖にランチの準備をしながら奉日本は尋ねた。本日のランチはタコライス。準備には時間は要しないが、提供を遅らせたのは二人の話が終わるのを待ち、かつ、聞き耳を立てていたからだ。
「不確定な情報なので正式に案件として受理するのは難しいとは思います。ですが、世話になっている上司の娘さんなので、助けたい、というのが本心です」
「まぁ、個人の感情を優先できないのが悲しいところですね」
「それでも出来ることはやってみようかと。彼も真剣でしたからね」
 私情を挟むわけにはいかない、ということを理解しながらも人情を持って動くから有栖、という人間は面白い、と奉日本は思う。利己的な自分とは違う、とも。
「というか、桜華学園って有名な学校ですよね?」
「小中高一貫の学校で名門ですね。確か、彼女は高校二年生だったはずです」
 奉日本も楓のことを知っていた。彼の場合は一色の娘ではなく常連客の一人、という認識だ。会話も数回なら交わしたことがあるが、僅かな時間でも好印象を抱くぐらいに彼女は良い性格をしていた。
「名門校かぁ……潜入捜査とかいけますかね?」
「編入生を受け入れていますが有栖さんでは難しいかもしれませんね」
「学力的に?」
「年齢的に」
「冗談ですよ」
「解ってますよ」
 互いに作り笑顔を見せ合った後、奉日本はタコライスを有栖に差し出した。
「沖縄料理でしたよね、これ」
「はい。あと、本日はデザートにプリンがあります」
「お、それは嬉しい」
 提供が遅れたおわびに、という言葉を彼は心の中で付け足す。
「しかし、桜華学園ですか……」
「何か知ってます?」
 タコライスを一口頬張った有栖の問いに、奉日本は少し思考を巡らせた後、
「――いえ、別に。『最近は』、特別なことを聞いた覚えはありませんね」
 と、答えた。
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