76 / 86
第七章:Catch22
有栖_7-1
しおりを挟む
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
声を揃えて礼を言う海野と中島の声の大きさに有栖と反保は少々圧倒された。そこには強い感謝がこめられ、態度も彼女達が何か発するまでは決して頭を上げないように思えた。
「頭を上げてください。無事、旗揚げ記念日が終わって良かったですね」
興行が終わり、客も退席し、セットの片付けが進む中、四人は一つの控室にいた。海野と中島に案内された部屋に入ると、先程の謝罪が始まったわけだ。
「ありがとうございます。全て、有栖さん達のおかげです」
頭を上げた海野は左脚に重心を置き、テーピングされた右脚は軽く浮かせていた。隣の中島の肩を借りて立っている様子から、まだ痛むのだろう。反保もメインイベント中に治療を受けたので頭には包帯、右頬にはガーゼが貼り付けている。
「今後はこのようなことはせず、素直に頼ってください。一人でできることは少ないですし、限界がありますから。後悔してからでは遅すぎますので……それより、脚は大丈夫ですか?」
「これぐらいなら、少し興行を休めば治ります。そちらも大丈夫ですか?」
海野の視線が反保に向く。中島が何度も謝り、それに対応する彼の方が気まずそうだった。
「スゴい打たれ強さですね。ユースティティアを辞めることになったらレスラーになることも考えてみてください」
海野の冗談に、それは良い、と中島も顔を明るくしたが、
「いえ、大変そうなので遠慮します」
と、反保は手を激しく動かして断る。
「うちの優秀な人材を引き抜かないでくださいよ」
「あはは、すみません」
「それより、思いっきり蹴ったのに……スゴい回復力ですね」
「まぁ、レスラーに怪我はつきものですから。対処の仕方も詳しいんですよ。しかし、本当に強かったです」
「自分としては、あれで諦めてくれなかったら、もう一つだけ手段はあったんですが……選手生命が終わるリスクがあったので実行に至らなくて良かったです」
「あー、それは……本当に良かったです」
海野が苦笑いをしながらも、場の雰囲気は穏やかなものだった。
そこに、
「失礼する」
ドアを開けて、石橋と飛田が入ってきた。
「ありがとうございました!」
声を揃えて礼を言う海野と中島の声の大きさに有栖と反保は少々圧倒された。そこには強い感謝がこめられ、態度も彼女達が何か発するまでは決して頭を上げないように思えた。
「頭を上げてください。無事、旗揚げ記念日が終わって良かったですね」
興行が終わり、客も退席し、セットの片付けが進む中、四人は一つの控室にいた。海野と中島に案内された部屋に入ると、先程の謝罪が始まったわけだ。
「ありがとうございます。全て、有栖さん達のおかげです」
頭を上げた海野は左脚に重心を置き、テーピングされた右脚は軽く浮かせていた。隣の中島の肩を借りて立っている様子から、まだ痛むのだろう。反保もメインイベント中に治療を受けたので頭には包帯、右頬にはガーゼが貼り付けている。
「今後はこのようなことはせず、素直に頼ってください。一人でできることは少ないですし、限界がありますから。後悔してからでは遅すぎますので……それより、脚は大丈夫ですか?」
「これぐらいなら、少し興行を休めば治ります。そちらも大丈夫ですか?」
海野の視線が反保に向く。中島が何度も謝り、それに対応する彼の方が気まずそうだった。
「スゴい打たれ強さですね。ユースティティアを辞めることになったらレスラーになることも考えてみてください」
海野の冗談に、それは良い、と中島も顔を明るくしたが、
「いえ、大変そうなので遠慮します」
と、反保は手を激しく動かして断る。
「うちの優秀な人材を引き抜かないでくださいよ」
「あはは、すみません」
「それより、思いっきり蹴ったのに……スゴい回復力ですね」
「まぁ、レスラーに怪我はつきものですから。対処の仕方も詳しいんですよ。しかし、本当に強かったです」
「自分としては、あれで諦めてくれなかったら、もう一つだけ手段はあったんですが……選手生命が終わるリスクがあったので実行に至らなくて良かったです」
「あー、それは……本当に良かったです」
海野が苦笑いをしながらも、場の雰囲気は穏やかなものだった。
そこに、
「失礼する」
ドアを開けて、石橋と飛田が入ってきた。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。
『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。
一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。
平等に進む時間
確実に進む時間
そして、決戦のときが訪れる。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる