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第七章:Catch22

高良組_7-1

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「旗揚げ記念日は無事終了したそうです」

 久慈の報告を聞き、珍しくスーツ姿の刀義は革張りの椅子の背もたれに身体を預け、天井をぼんやりと見上げた。静寂の空間に椅子の軋みが妙に響き、彼が話すまでの時間を繋いでいるようだった。

「そっか。棚神さん、助かったんだな。良かった、良かった」
「最初から毒が彼に渡るのは解っていたのでしょう?」
「確証はないさ。ただ可能性としては一番高かった。まぁ、身体的にも精神的にも一番脆いときに、この出来事を乗り越えられたのは大きいな。今日のことは団体内で共有できるし、今後は困ったらユースティティアや警察に頼るってことも覚えただろうし」
「随分と世話を焼きますね」
「その理由は……解るでしょ?」

 刀義が久慈に対して口元だけ笑顔を見せる。

 棚神選手と高良組は過去に繋がりがあった。金銭面で団体が窮地に陥ったとき、彼は高良組に頼ったのだ。ありとあらゆる消費者金融から満額借り、どこからも借りられなくなった上での最終手段だった。
 当日、暗黒期と呼ばれ、この先の未来なんて誰もが倒産しか思えない中、毎日頭を下げ、頼み続けた棚神選手の男気に先代の組長は協力した。当時、刀義は父親から棚神選手のプロレスに対する愛に負けた、と口にしたことを聞いたことがある。
 結果、ファイティングプロレスはV字回復をし、借金は返済。裏社会との関係も切れた……しかし、一度関係を持ったことを知られると甘い蜜を求めて這い寄ってくる奴らもいる。

「これから世界に打って出るってのに、いつまでも裏社会と繋がっているわけにはいかないだろ。自衛できるようにならないと。今回のは良いテスト――経験になっただろ」
「いい機会だったというわけですね」
「まぁ、便乗だけどね。さて、と――久慈さん、そろそろ時間だ」
「はい。準備はできています」
「そっか。じゃあ、行こうか」

 刀義は椅子の背もたれを利用し、反動で降りた。

「全く、正装ってのは堅苦しいね。早く脱ぎたいよ」
「では、早く片付けましょう」
「そうだね、それがいい」

 二人はそう会話を交わし、部屋から出て行った。
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