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第六章:名もなき毒

海野_6-2

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 ――ローキック?

 バチン、と有栖の攻撃を受ける。単なるローキックならダメージは蓄積されるだけで、即座に効くものではない。打点をズラせば長時間耐えることも可能だ。
 そう考えていたが、

「――痛っ」

 電気が走ったような衝撃が海野に走ると同時に、激痛を感じた。その一撃で相手が何を狙ったのかを彼は理解したが、その対策を実行する前に有栖は再び『同じ箇所』に二発、三発、と的確にヒットさせた。

「がぁ!」

 思わず声が出た。慌てて右足を引き、後退するが既にその足は重たかった。

 ――カーフキックか

 有栖が狙ったのは単純なローキックではなかった。カーフキック、と呼ばれる膝から下である『ふくらはぎ』を狙う脛の骨を使ったキックだった。脛の外側やふくらはぎは強打を受けるとすぐに筋断裂を起こしてしまう。そうなれば動きは鈍くなり、最後には立っていられなくなり、動けなくなる。
 もちろん、技術がいるし、相手が動くとなると狙いにくく上手くいくのは難しい。ただ、今の海野は防御に徹していたので有栖からすれば当てることは容易なことだった。

 ――だけど、狙いは解った。

 海野は右足の状態を確認し、まだ動くことを確認すると再びその足を少しだけ前に出す。
 当然のように有栖はそこを同じ攻撃をしてきた。彼女からすればレスラーの意地を見せてきたように感じたのだろう。しかし、海野の狙いは違った。
 海野はカーフキックの弱点を知っていたのだ。

 ――カーフキックは膝に力を入れてカットする。そうすれば……

 脛の骨は比較的に薄く、膝などの硬い部位で受けると相手側の骨が折れてしまうことがある。つまり、防御がそのまま相手への攻撃になるのだ。これが格闘技でカーフキックの使い手が少ない理由だった。当てる技術が必要なのだ。当てれば効果は高いが、防御されるとリスクは高い。
 事実、格闘技の試合でカーフキックによって勝利した者もいるが、その一方で防御され骨折し敗退した者も多い。

 有栖の攻撃が再び、鋭く海野の足を狙う。それに合わせて、彼は膝でカットしようとした。

 ――これで相手は動けなく――えっ……

 海野が膝を合わせた瞬間、有栖の攻撃はヒットの直前で止まったのだった。
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