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第六章:名もなき毒

反保_6-4

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 視界はぼやけて、薄暗くなりそうになると意識を強く持つように心がけるので明滅を繰り返す。足下はふらつき、バランスをとろうとするが、間違えて腰を着くこともあった。
 限界かと問われれば、間違いなく限界だろう。それぐらいにはレスラーの驚異は味わった。

 ――リングの上でこれを何回も、何十分も放ち、放たれ合うのを繰り返すレスラーは超人だな

 そう思わざるを得なかったほどだ。自身が相手にダメージを与えることは難しいと理解してからは、防御に徹した。棚神選手のところには有栖が必ずたどり着くと信じているからこそ、中島を先に行かせないことだけでも貢献している、と信じていた。
 それに加え、中島の攻撃を受け続けているときに、彼がまるで自身が傷ついているような表情を浮かべることから、目的と達成させる為とはいえ他人に攻撃することは本意ではないことは充分伝わってきた。彼自身としては優しい人物なのだろう。そして、決断したとはいえ迷いが全くないことでもないのだろう。
 だからこそ、反保としては決して倒れるわけにはいかなかった。

「……痛いんですよ」

 反保は少し言葉が出にくいな、と感じながらも伝えなければならないことを口にした。
 今、反保の視界は『通常の色』だった。感情の高ぶりで紅くなる視界は変わることはなかった。それは攻撃を受けながらも頭は冷静だったからだろう。そして、その頭は思考を整理させ、伝えなければならないことが解ってきた。それを言うまでは更に倒れるわけにはいかなくなった。

「僕は身体の痛みに鈍感だけど、それが『痛い』って知っています」

 視界が徐々に紅くなってきた。感情が自然と高ぶってきたのだろう。

「大切な人が、尊敬する人が死んでしまうことが……何より辛くて、シンドくて、何より『痛い』って知っているんだ」

 視界は紅い。

「だからこそ、『俺』がそれを止められるなら絶対に止めてみせる。それがきっと………『俺』が一色さんとの別れで学んだことだから――」

 反保は紅く染まった世界で叫ぶ。

「貴方にそんな思いをさせてたまるか! 絶対に行かせない! 『俺達』が絶対に阻止してみせる!」
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