21 / 86
第二章:ファイティングプロレス
有栖_2-6
しおりを挟む
そのあとはエレベーターで下のフロアに降りて、棚神選手からジムの紹介をしてもらった。
広々としたフロアには有酸素運動や筋トレを行える様々なマシンや機器が備え付けられていた。シャワールームも完備でそこら辺にある安っぽいジムとは比べものにならない豪華な仕様だ。
ジムのフロアは二つあり、階は違うが両方とも同じ設備があり、今の時間帯は使用している人はいなかった。
「予約システムがあり、選手は専用のアプリから使用する時間帯を予約できるんです。確か、もう少ししたら使用する選手もいますよ」
棚神選手がスマホにそのシステムであろうアプリを表示して見せてくれた。もしかしたら、彼は選手が使用していない時間を考慮していたのかもしれない。
「なるほど。これなら効率良く使用できますね」
「まぁ、それもありますが……」
「他にも理由が?」
明らかに言葉を濁す棚神選手に有栖が質問をする。
「いやぁ、相手を強く意識する選手もいますので」
「あぁ、なるほど。バチバチってやつですか」
「バチバチってやつです」
「もしかして、同じ設備のジムが二つもあるのって……」
「そういうことです。一昔はライバル同士の選手が鉢合わせてケンカってこともありましたよ。このシステムを導入してからは、そんなこともなくなりましたが」
その後、再びエレベーターに乗り一階へ。
「次は道場に行きましょう」
棚神選手に連れられ、オフィスビルを出て、隣接する道場へと向かう。中に入ると、少し汗の臭いが鼻を突き、体育館を思い出させた。
「棚神さん! チワッス!」
「棚神さん! チワッス!」
周囲を見渡す前に、元気の良い声が響く。
その声に有栖達が振り向くと、二十代前半であろうジャージ姿の若い二人の男性が頭を下げている。
「お疲れさん。えっと、彼らはウチに所属するヤングヒーローの中島と海野です。二人とも、こちらはユースティティアの有栖さんと反保さん。こちらに来た理由は事前に連絡した通りだ。自己紹介をしなさい」
棚神選手に言われ、中島と海野の二人は頭を上げ、有栖達を見ると、
「自分は海野翔(うみのしょう)です! 本日は宜しくお願い致します!」
海野が頭を下げると、続けて、
「自分は中島祐(なかじまゆう)です! 本日は宜しくお願い致します!」
中島が自己紹介をして頭を下げる。
顔を上げたときに見えた顔は、海野は少し海外の人のようにも見える堀の深い顔立ち、髪の毛は黒で肩ぐらいまで延びているさらさらストレート。中島は大きな顔に対して、目などパーツは少し小さめで髪の毛は黒で天然のチリチリパーマだった。
棚神選手が口にしたヤングヒーロー、というのはファイティングプロレスに所属する新人選手のことだ。下積み、と言っても過言ではない。各選手の雑用を行いながらも、トレーニングをし、試合にも出場する。この期間を数年繰り返した後、海外や他団体への武者修行を経て、再びファイティングプロレスに一流選手となって戻ってくる、というのが選手育成の流れだ。そのことを有栖はプロレスを見ていたことから、反保は彼女に教えられ知っていた。
だが、気になったのはそのヤングヒーローの二人が言ったことだ。
「本日は宜しくお願いします、とは?」
有栖が棚神選手に聞いた。
「ここから先はこの二人が案内します。その方が都合が良いので」
「都合……ですか?」
「えぇ、詳しい理由は二人から聞いてください。海野、中島、連絡した通りに頼むぞ」
「はい!」
「はい!」
気持ちの良い返事が飛んでくる。
「では、私はこのあと会議があるので失礼します」
そう言うと、棚神選手は一礼し、道場から出て行った。
広々としたフロアには有酸素運動や筋トレを行える様々なマシンや機器が備え付けられていた。シャワールームも完備でそこら辺にある安っぽいジムとは比べものにならない豪華な仕様だ。
ジムのフロアは二つあり、階は違うが両方とも同じ設備があり、今の時間帯は使用している人はいなかった。
「予約システムがあり、選手は専用のアプリから使用する時間帯を予約できるんです。確か、もう少ししたら使用する選手もいますよ」
棚神選手がスマホにそのシステムであろうアプリを表示して見せてくれた。もしかしたら、彼は選手が使用していない時間を考慮していたのかもしれない。
「なるほど。これなら効率良く使用できますね」
「まぁ、それもありますが……」
「他にも理由が?」
明らかに言葉を濁す棚神選手に有栖が質問をする。
「いやぁ、相手を強く意識する選手もいますので」
「あぁ、なるほど。バチバチってやつですか」
「バチバチってやつです」
「もしかして、同じ設備のジムが二つもあるのって……」
「そういうことです。一昔はライバル同士の選手が鉢合わせてケンカってこともありましたよ。このシステムを導入してからは、そんなこともなくなりましたが」
その後、再びエレベーターに乗り一階へ。
「次は道場に行きましょう」
棚神選手に連れられ、オフィスビルを出て、隣接する道場へと向かう。中に入ると、少し汗の臭いが鼻を突き、体育館を思い出させた。
「棚神さん! チワッス!」
「棚神さん! チワッス!」
周囲を見渡す前に、元気の良い声が響く。
その声に有栖達が振り向くと、二十代前半であろうジャージ姿の若い二人の男性が頭を下げている。
「お疲れさん。えっと、彼らはウチに所属するヤングヒーローの中島と海野です。二人とも、こちらはユースティティアの有栖さんと反保さん。こちらに来た理由は事前に連絡した通りだ。自己紹介をしなさい」
棚神選手に言われ、中島と海野の二人は頭を上げ、有栖達を見ると、
「自分は海野翔(うみのしょう)です! 本日は宜しくお願い致します!」
海野が頭を下げると、続けて、
「自分は中島祐(なかじまゆう)です! 本日は宜しくお願い致します!」
中島が自己紹介をして頭を下げる。
顔を上げたときに見えた顔は、海野は少し海外の人のようにも見える堀の深い顔立ち、髪の毛は黒で肩ぐらいまで延びているさらさらストレート。中島は大きな顔に対して、目などパーツは少し小さめで髪の毛は黒で天然のチリチリパーマだった。
棚神選手が口にしたヤングヒーロー、というのはファイティングプロレスに所属する新人選手のことだ。下積み、と言っても過言ではない。各選手の雑用を行いながらも、トレーニングをし、試合にも出場する。この期間を数年繰り返した後、海外や他団体への武者修行を経て、再びファイティングプロレスに一流選手となって戻ってくる、というのが選手育成の流れだ。そのことを有栖はプロレスを見ていたことから、反保は彼女に教えられ知っていた。
だが、気になったのはそのヤングヒーローの二人が言ったことだ。
「本日は宜しくお願いします、とは?」
有栖が棚神選手に聞いた。
「ここから先はこの二人が案内します。その方が都合が良いので」
「都合……ですか?」
「えぇ、詳しい理由は二人から聞いてください。海野、中島、連絡した通りに頼むぞ」
「はい!」
「はい!」
気持ちの良い返事が飛んでくる。
「では、私はこのあと会議があるので失礼します」
そう言うと、棚神選手は一礼し、道場から出て行った。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。
『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。
一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。
平等に進む時間
確実に進む時間
そして、決戦のときが訪れる。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる