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第二章:ファイティングプロレス

反保_2-1

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 刀義が話したように、ユースティティアに『ファイティングプロレス株式会社』から旗揚げ記念日の警備依頼が届いた。どのような手段を用いたのかは不明だが、そのことについては特務課も佐倉も問わないようにしていた。そこを追求しても待っているのは暗い深海でしかなく、そこの探索はいつかはしなくてはいけないことだとしても、今ではない。裏社会の協力を得なければ動けないことは不本意だとしても、その苦汁を舐めながらも甘えなければならない現状がユースティティアの、特務課の現在地でもある。

 そして、旗揚げ記念日の三日前。
 有栖と反保の二人はユースティティアの代表として『ファイティングプロレス株式会社』の挨拶と警備についての打ち合わせをする為に来訪していた。

「本当にここの誰かに毒が渡されたんですかね?」

 反保は少しだけ悲しそうに呟く。彼がそんな感情を抱くのは、この日が来るまでにこの会社について、これまでの興業など……つまりはプロレスの試合を見てきたからだ。
 そこに映っていたのは『筋書きの無いドラマ』だった。熱い男達が戦いを繰り返すことで様々な感情が紡がれ、過去の何気ない小さな戦いが、数年後には大きな因縁や強い絆となる。
 反保は有栖の補足説明を聞きながら主要試合を数試合だけ見ただけだが、それでも熱くなり、夢中になる理由に納得したものだ。
 だからこそ、そこに所属する選手や社員が陰謀や殺害を計画しているなんて考えたくもなかった。

「企業である以上、そこに利権が絡む要素や不平や不満があるのは否めない、と思う」

 そう回答した有栖の表情も寂しそうに見えた。
 利権は会社の社員。不平と不満は選手のことを指しているのだろう。前者は解りやすいが、後者は選手の誰がフィーチャーされるのかはコントロールできないものだ。過去には会社としてプッシュしたい選手がいても、予想外の試合がファンからの高評価を得て、輝き、別の選手がフィーチャーされることがある。もちろん、会社がプッシュして上手くいった選手もいる。そういった部分を鑑みると様々な感情や思惑も否定できない。

「特にあの噂もあるし」
「海外進出と合併の噂ですね」

 過去は世界二位だった『ファイティングプロレス株式会社』だったが、観客動員数は昨年から現象の傾向もあり、団体として生き残るのには現在世界二位となった新団体と合併するべきや積極的に海外進出するべきだ、という噂がネット上では流れているようだった。また、その考えにも賛同する声も多く見えた。しかし、その流れにならないのは――

「拒否している人もいるんですよね」
「その人と会うことになるかもね」

 そんな会話を交わすと、二人は『ファイティングプロレス株式会社』のエントランスへと向かう。
 出入口はオートロックとなっていて、磨り硝子の自動ドアの奥は見えないし、勝手には開かない。近くにある無人の受付にはタッチパネルがあり、操作すると用件を選択できるようになっていた。
 有栖が手際よく操作すると、

『はい、こちら受付です』

 と人の声が機械を通して聞こえてきた。

「本日、来社を予約していましたユースティティアの有栖です」
『お待ちしておりました。少々、お待ちください』

 ぷつり、と切断音が聞こえ、待つこと数分。自動ドアの向こうに人の気配を感じると、カードキーで解錠したかのような電子音が鳴った。
 そして、自動ドアが開く。有栖達も身支度を軽く整え、開くのを待つと――

「え?」
「うわっ」

 有栖も反保も自動ドアの向こうに立っている人物に驚いた。二人は社員が迎えてくれるのだろう、と思っていたのだが、

「ようこそ! ファイティングプロレス株式会社へ」

 さわやかな声と笑顔で二人を迎えてくれたのは団体の主要かつ人気選手である棚神選手だった。
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