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第九章_ハローワールド

一色_9-5

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 二階に逃げた一色だったが、戦闘から一時的に離脱すると自身が想像以上に疲弊していることを、改めて理解させられた。息が切れ、天使との戦いで負ったダメージはしぶとく、痛みは鈍痛で続いている。しかも、彼は警察とユースティティアの捜査網をくぐり抜ける為に日夜休めていない。コンディションとしては過去最悪だった。

 ――こりゃ、真っ向から戦ってもあの双子にも勝てんかもな。天使なら尚更や

 背後から聞こえる足音やロボットの駆動音に注意を払い、まずは可能な限り離れる。そして、物陰から一撃で相手を仕留めるのが一色に出来る一番効率が良く、勝算のある戦闘方法だった。
 それでも、まずは体力の回復。そして、戦う場所を選定する為に部屋と部屋を移動し、三階へと逃げた。

 ――この状況まで作った天使は『化物』や……いや、この表現はアカンな。ホンマに恐ろしいわ。戦闘でも、頭脳でも勝てん……覚悟を決めんとな

 そう思い、気を引き締めて、三階にある大部屋のドアを開けた。

「ようこそ、一色さん」

 ドアを開けて一歩入ると、その横の壁には天使が寄りかかっていた。そして、右手には――拳銃が握られている。

「くっ!!」

 引くよりもそのまま前進した方が速い、と判断すると一色は前方に跳ぶ。しかし。パンッ、と乾いた音が鳴り、左肩に激痛が走った。
「がぁ!!」
「咄嗟の判断と反応――流石です。しかし、引く方が正解でしたね」
 天使がにこり、と笑うと、一色の背後から彼方と此方が猛スピードで駆けて来た。彼が入って来たドアとは反対方向にあったドアから入って来たのだろう。
 一色は双子から遠ざかろうとしたが……遅かった。彼方と此方の攻撃は一色の両脚を深く切りつけ、膝を着かせると、流れるような動きで二つのナイフを彼の首を挟むように添えた。
「一色さん、ご苦労様でした――チェックメイトです」
 捕まった一色に天使は笑顔を崩さず、そう言った。
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