上 下
9 / 116
第一章:八日前

天使_1-1

しおりを挟む
 その日、天使は署内を歩き、とある場所へと向かっていた。彼が歩けば歩くほど、人は徐々に少なくなり、いつしか誰もいなくなっていく。そんな同じ建物中であるにも関わらず、辺境のような場所――そこに向かって彼は歩いた。
 やがて見えてきたのは寂れた建屋だった。そこは基本的には誰も近づくことはなく、また、何の目的の場所かも教えられることのない場所だ。
 もしかしたら、倉庫だと勘違いしている人が大半かもしれない。そんな場所だ。
 建屋の中は埃っぽく、かび臭い――でも、天使には懐かしい匂いだった。更に進むと、表札のないドアがある。いや、表札は床に落ちて埃にまみれていた。

『庶務二課』

 それが、ここの表向きの名前だ。しかし、その名前は組織図には存在しない。
 当然だ。庶務課なんて、一つで充分で、人員も足りているのだから。
 それでも、そこには仮の名前が必要だったのだろう。そして、いつからかその名前すらも必要なくなったのだろう。
 天使は表札を踏んで、目の前にあるドアに手を掛ける。彼は自分の意思でここに来た。それはここの本当の意味を、存在意義を知っているからだ。
「失礼します」
 そう言って、天使は中へと入る。

 二十畳ほどのスペースには乱雑に机が並び、資料や本が散らかり、ドアの開閉で埃が舞う。その奥には一人の老いた男性が座って、煙草をふかしていた。
 白髪で少し禿げており、べっ甲のフレームのメガネを掛けているその男は天使を見ると、錆び付いた体を動かすようにぎこちなく椅子に座り直した。そして、過去の怪我により動かす度に痛みが走る左腕を動かし、舌打ちをした後に煙草を掴んで机でもみ消した。右腕を使わなかったのは体を支えていたからだろう。
 天使はその男性に近づくと、
「方波見(かたばみ)さん、お久しぶりです」
「珍しい奴が来たもんだ。まぁ、お前が来たってこは――『捜査四課』に用事なんだろ?」
 方波見がそう問うと、天使は肯定するように笑顔を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

有栖と奉日本『カクれんぼ』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第六話。 有栖の上司である一色の娘――楓がイジメにあっているかもしれない…… その相談を受け、有栖達は桜華学園の調査を実施するが、過去の問題から有栖は現場の調査を外され、反保が中心に学園を調査することになる。 学園の調査を行う中で、イジメに関して錯綜する情報。同意と相反を繰り返す教師と生徒の意見。 更には三ヶ月前には、とある生徒が自殺していて――物語は想定外の結末へと動いていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

処理中です...