上 下
98 / 104
過去との対話_奉日本_6

奉日本_6-4

しおりを挟む
 そのあとは俺が何をせずとも片付いていった。
 先程の女性が伊東を格闘で制圧したあとに、警察が駆けつけてきたのだ。どうやら、伊東がナイフを持って歩いているところを通行人が見かけて、通報したらしい。

 本来ならばユースティティアの手柄ではあるが、通報を受けたのは警察だの、ユースティティアは見回りをしていただけ、と色々と口論があった後、ユースティティアの女性が俺の方を一瞥すると、諦めたかのように全てを警察に譲った。おそらく、手柄よりも被害者の状態を優先したのだろう。
 警察は簡単に俺から話を聞くと伊東を連れて、去って行った。
 そのあと、

「大丈夫ですか?」

 俺を助けてくれた女性がそう声をかけてくれた。

 ユースティティアの内情については俺の耳にも入って来ていた。
 とある性被害により大規模な人事異動と組織構成に変更が生じたこと。その性被害については、おそらく伊東の店で昏睡状態になった女性のことだろう、ということも。

 あのときの女性とはもう二度と会うことはないだろう、と思っていた。だが現実は、彼女は少し様相が変わったものの、ユースティティアに残り、一人の隊員として戦い続けていた。
 あの日のことから逃げたのではないのだろう。消化できたわけでもないだろう。傷をおっていないわけでもないだろう。真実を知ったわけでもないだろう。
 だからこそ、俺のことを心配している彼女を、俺は強い女性だと思った。

「助けて頂いて、ありがとうございます」
「警察に全て持っていかれましたけどね」

 そう言って、彼女は苦笑いをしていた。

「あの、お名前を聞いても良いですか?」
「え? 自分ですか? 自分は、有栖、といいます。もしまた何かあったらユースティティアに名指しで連絡してくれれば駆けつけますよ。あと――」

 有栖、と名乗った女性は俺の今後のことも心配していた。あれこれと丁寧に説明をし、そこには真摯さも感じた。
 一方で、俺は彼女に興味を持っていた。俺だけが理解している奇妙な出会い。もしかしたら、彼女とは縁があるのかもしれない。

 悪縁は悪縁を呼ぶ。
 良縁は良縁を呼ぶ。
 では、この奇妙な縁は何と呼び、何を呼ぶのだろう。

 俺はそのことに興味を持ったのだ。
 だから――

「有栖さん、お礼をさせてください。俺の店でランチを食べていきませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

無能力探偵の事件簿〜超能力がない?推理力があるじゃないか〜

雨宮 徹
ミステリー
2025年――それは人類にとって革新が起きた年だった。一人の青年がサイコキネシスに目覚めた。その後、各地で超能力者が誕生する。 それから9年後の2034年。超能力について様々なことが分かり始めた。18歳の誕生日に能力に目覚めること、能力には何かしらの制限があること、そして全人類が能力に目覚めるわけではないこと。 そんな世界で梶田優は難事件に挑む。超能力ではなく知能を武器として――。 ※「PSYCHO-PASS」にインスパイアされ、本や名言の引用があります。

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

殺人推理:配信案内~プログラマー探偵:路軸《ろじく》九美子《くみこ》 第1章:愛憎の反転《桁あふれ》~

喰寝丸太
ミステリー
僕の会社の広報担当である蜂人《はちと》が無断欠勤した。 様子を見に行ってほしいと言われて、行った先で蜂人《はちと》は絞殺されて死んでいた。 状況は密室だが、引き戸につっかえ棒をしただけの構造。 この密室トリックは簡単に破れそうなんだけど、破れない。 第一発見者である僕は警察に疑われて容疑者となった。 濡れ衣を晴らすためにも、知り合いの路軸《ろじく》九美子《くみこ》と配信の視聴者をパートナーとして、事件を調べ始めた。

僕達の恋愛事情は、それは素敵で悲劇でした

邪神 白猫
ミステリー
【映像化不可能な叙述トリック】 僕には、もうすぐ付き合って一年になる彼女がいる。 そんな彼女の口から告げられたのは、「私っ……最近、誰かにつけられている気がするの」という言葉。 最愛の彼女のため、僕はアイツから君を守る。 これは、そんな僕達の素敵で悲劇な物語──。 ※ 表紙はフリーアイコンをお借りしています ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://m.youtube.com/channel/UCWypoBYNIICXZdBmfZHNe6Q/playlists

処理中です...