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過去との対話_奉日本_5

奉日本_5-1

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 そう、俺はあの日――あの場所にいた。
 十五歳で社会へと逃げ出した俺に選択肢は少なく、最初は形振り構わず働けるところで働いた。もちろん、悪意がスーツを着てやって来るなんてことを知らないときは簡単に騙されたが、命が無事だったなら安い授業料だと思い受け入れた。
 頭を打つような痛い経験は、次は失敗しない為の良い教材だった。まぁ、今だから言える結果論ではあるけれど。

 それでも後悔、というのはあった。それは人を見る目を養うのに時間を要し、それまでは良好な関係を築くべきではない人までに恩を作ってしまったことだ。
 その一人が伊東、という男だ。

 自分の中で、より情報が集まりやすいカフェとバーの店を持とう、と方針を定めてからはそのような関係の仕事をしている人物と接触し、働きながら必要なことを学んでいった。
 カフェは表社会での関わりは強いが、バーというのは非常に表と裏が混ざり合う場所だ。だからこそ、選んだ、というのはあるのだけれど。

 伊東はバーの勉強をしていくときに出会った人物だ。面倒なことに一度借りを作ると骨の髄まで啜ろうとし、機嫌を損ねると過剰なほど粘着質に仕返しをしてくる。衝突せずに上手く流して徐々に関係をフェードアウトするのが得策の相手だった。

 着実に良縁であろう人脈を作りつつ、開業資金も貯まり、店の場所も決まり、開業まであと少し――そのときに伊東から連絡があった。

『おう、奉日本。悪いんだけどさ、二週間ぐらい店手伝ってくれないか?』

 伊東と最初に出会ったのは、バーテンダーのノウハウを教わった店のマスターのところで働いていたときに、彼も働いていた。勤務態度は不真面目だったが、要領の良い男だった。真面目に働いていないが、サボっているようには見えないようにするのが得意、といったところだ。年齢もその店で働いていたキャリアも少し上なので、教えを請うことがあり、強制的に世話になった、というわけだ。

 ふとした会話や通話。時々、誘われる食事やオフのときに見かける様子、そして、周囲からの評判や噂――それらをまとめると裏社会との付き合いがあるようだが、関係を持っている人物達は俺の目からすれば危険度が高く、あまり良い人間関係には思えなかった。

 だから、付き合いは最低限に、と思っていたし、最近は連絡もなかったので関係が切れたかと思ったが少し認識が甘かった。どうやら開業のことを聞きつけて先に開業した先輩として少し風を吹かせたかったのだろう。
 いい迷惑だが断る理由もなく、また、先回りするかのように予定も伝手で調べられていた。結局、断ると厄介なことになりそうだったので、俺はその話を了承した。
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