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過去との対話_奉日本_3
奉日本_3-4
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二つ目のダメージは父が異動になったことだ。部署の変更、というのは滅多にない会社だったらしいが、震災の影響で仕事への復帰が遅れる人もいれば、これを機に転職する人、二度と復帰できない人――様々な理由で震災のあった付近を拠点としている企業には影響があった。
天災だから仕方ない、と世界の人々が同情したとしても社会は生きる為に容赦なく動き続けた。父の会社に仕事を依頼していた他の企業は、震災で機能していない企業に対して
「仕方ないですね。今は一日も早い復旧を願っています」
と、お祈りをしてくれても仕事を待ってはくれなかった。
当然だ。相手の時間も有限なのだから。怪我をして足が遅くなった選手を待って、肩を貸してあげて、一緒に進みましょう……そんなことはしない。容赦なく切り捨て、容赦なく置いていく。その相手の企業も業務を止めるわけにはいかない――となると、同業他社へ仕事を回す。それまで、どれだけ懇意にしていたとしても。
その対策として、父の会社でも今いる人材を上手く活用し、同業他社への業務流出を避ける為に可能な限りに仕事を受けられる体制を整えたのだ。
課長だった父は別の部署でも同じポストを与えられた。これまで慣れていたことから違う業務へ。使い慣れていた部下は実力がどれほど持ち合わせているのか知らない部下へ。環境は一変した。
どんな環境でも、業務の根幹を理解し、ソリューションを導ける人間が社会では優秀なのだろうが、父はそうではなかった。
元々いた部署の現場たたき上げで、上司に気に入られ、更にはその上司が構築したノウハウを引き継いだだけだ。彼が何かを考え、生み出したものなんてないのだ。与えられた優秀な道具を上手く使っていただけ。唯一の武器であるこれまでの経歴や人脈も活かせずゴミと化した。
ただでさえ業務についていけない上に、そこにIoTやDXと呼ばれる社会変化の一波目が来た。業務の効率化が求められ、レガシーシステムの放棄が課題となると同時にハラスメント対策とコンプライアンスの強化。
昔ながらの仕事の仕方は出来なくなっていき、柔軟な対応が求められた。
パソコンを扱うことですら危うかった父は当然ながらその波には乗れずに飲み込まれ、硬い頭は硬いことにすら気づけなかった。
それでも社会は残酷なことに役に立たない人間をすぐには淘汰せず、しばらくは様子見をする。結果、父は部下から無能な上司の烙印を押され、世間体を気にする彼は課長という役職だから故に部下に頼ったり教えを請うことを恥と考え、何も出来ず、お飾りになってしまった。
「俺はここじゃなきゃ、もっと仕事が出来るんだ」
と、誰にも聞かれていないのに心の中で言い訳をしては自身のプライドを守ろうとした。部下達に笑われ、邪魔者扱いされていることは解っている。でも、それに苛立ちを覚えても、実際に役に立たないのだから吐き出せない。
毎日積もっていく鬱憤の吐き出す矛先は――当然、家族に対してだった。
天災だから仕方ない、と世界の人々が同情したとしても社会は生きる為に容赦なく動き続けた。父の会社に仕事を依頼していた他の企業は、震災で機能していない企業に対して
「仕方ないですね。今は一日も早い復旧を願っています」
と、お祈りをしてくれても仕事を待ってはくれなかった。
当然だ。相手の時間も有限なのだから。怪我をして足が遅くなった選手を待って、肩を貸してあげて、一緒に進みましょう……そんなことはしない。容赦なく切り捨て、容赦なく置いていく。その相手の企業も業務を止めるわけにはいかない――となると、同業他社へ仕事を回す。それまで、どれだけ懇意にしていたとしても。
その対策として、父の会社でも今いる人材を上手く活用し、同業他社への業務流出を避ける為に可能な限りに仕事を受けられる体制を整えたのだ。
課長だった父は別の部署でも同じポストを与えられた。これまで慣れていたことから違う業務へ。使い慣れていた部下は実力がどれほど持ち合わせているのか知らない部下へ。環境は一変した。
どんな環境でも、業務の根幹を理解し、ソリューションを導ける人間が社会では優秀なのだろうが、父はそうではなかった。
元々いた部署の現場たたき上げで、上司に気に入られ、更にはその上司が構築したノウハウを引き継いだだけだ。彼が何かを考え、生み出したものなんてないのだ。与えられた優秀な道具を上手く使っていただけ。唯一の武器であるこれまでの経歴や人脈も活かせずゴミと化した。
ただでさえ業務についていけない上に、そこにIoTやDXと呼ばれる社会変化の一波目が来た。業務の効率化が求められ、レガシーシステムの放棄が課題となると同時にハラスメント対策とコンプライアンスの強化。
昔ながらの仕事の仕方は出来なくなっていき、柔軟な対応が求められた。
パソコンを扱うことですら危うかった父は当然ながらその波には乗れずに飲み込まれ、硬い頭は硬いことにすら気づけなかった。
それでも社会は残酷なことに役に立たない人間をすぐには淘汰せず、しばらくは様子見をする。結果、父は部下から無能な上司の烙印を押され、世間体を気にする彼は課長という役職だから故に部下に頼ったり教えを請うことを恥と考え、何も出来ず、お飾りになってしまった。
「俺はここじゃなきゃ、もっと仕事が出来るんだ」
と、誰にも聞かれていないのに心の中で言い訳をしては自身のプライドを守ろうとした。部下達に笑われ、邪魔者扱いされていることは解っている。でも、それに苛立ちを覚えても、実際に役に立たないのだから吐き出せない。
毎日積もっていく鬱憤の吐き出す矛先は――当然、家族に対してだった。
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