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「『ワクチン』ですか?」
「どうやら開発者のアース博士は『レシエントメンテ』を作る際に、『ワクチン』も同時に……いや、先に作っていたんだろうな。開発中に一歩でも間違えれば大変なことになるのだからある意味当然なのかもしれない」
「『レシエントメンテ』の削除はともかく、改ざんされたデータも修正するって可能なんですか?」
「考えられるのは『レシエントメンテ』が削除や改ざん、新たに作った際にデータに目印をつけておく。『ワクチン』はそれを判断条件にして……と、そこまでは考えられるが修正方法までは解らない。だが、それが出来るから彼女は天才だった――そういうことだろ」

 有栖の質問にすらすらと答える佐倉も頭の良さを充分に感じさせたが、アース博士はそれを更に上回り、手の届かない存在ということだ。だが一方で、『レシエントメンテ』のような恐ろしいものが作れるならば、それに対抗するものを作ることができるのも彼女しかいない、というのはその場にいる全員が納得できた。

「『ワクチン』の情報を手に入れた経緯については後で説明するが、我孫子が警察から消されなかったのは、警察が『我孫子はワクチンに関する情報、もしくは、ワクチンそのものを持っている』と疑っていたからだ」
「あぁ、なるほど。警察が我孫子を捕まえる、拘束する、危害を与える、殺害する――いずれかでこの『ワクチン』が起動し、『レシエントメンテ』が消されてしまうことを恐れたんですね」
「反保くんの言う通りよ。だけど、我孫子は今回のユースティティアのデータベース改ざんの疑いに対する聴取に対応することで、自らそのことを否定してしまった」
「今回の件で自分も一週間以上の聴取を受ける為に拘留されました。早期の対応だったので拘留以前も以後も外部と連絡する術はなかった。それなのに『ワクチン』が起動しない、となると……」
「つまり、我孫子を拘留しても『ワクチン』は起動しないことを、アイツは聴取に応じることで自ら証明してしまった。それが解れば警察は我孫子が外に出た瞬間に拘留するだろうな。『レシエントメンテ』で罪をでっち上げて」

 特務課のメンバ―と佐倉はテンポよく会話をすることで知識と状況を展開、共有していく。

「まぁ、そういった理由から我孫子はユースティティアで拘留している。警察に捕まるよりは安全だし、今回の情報を得たことで俺達が動けば警察の目は確実にこちらへと向くだろう。ユースティティアの反乱分子と『ワクチン』を同時に潰せるチャンスだからな。『ワクチン』さえ無くなれば、『レシエントメンテ』を止める術は完全に失われる。つまり、誰も警察を止めることはできなくなる、ということだ」
「『レシエントメンテ』も『ワクチン』も生み出したアース博士は既に死んでしまっていますからね……」

 有栖の発言で『ワクチン』の重要さを全員が再認識する。今あるものが失われてしまっては二度と再現はできない。それは『レシエントメンテ』を消す希望でもあり、『レシエントメンテ』を止める術を無くす絶望の両方を孕んでいた。
 一呼吸挟み、京が口を開く。

「さて、我孫子が自供した罪についてけど――それは殺人。彼は一人の男性を殺害している。そして、それが今回の『ワクチン』に関係しているの」
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