43 / 104
過去との対話_有栖_7
有栖_7-2
しおりを挟む
シャワーを浴び終えた『私』は一度脱いだ服を着る気にはなれずに備え付けてあったバスローブを羽織った。熱い湯は『私』の酔いをさますことだけには効果を発揮したらしく、頭痛は軽くなり、少しは冷静に考えられるようになっていた。
とりあえず、近くにあったソファに身体を預けるように腰掛け、頭を抱える。情報と状況の整理が『私』には必要だった。
『私』を犯したのは我孫子で間違いないだろう。最後の言葉とタクシーで送る場面までは薄らと記憶にある。
ならば、我孫子がここにいないのは何故か? 行為を終えたあとは長居する理由がないので去ったと考えるのが妥当だ。酩酊状態の『私』が完全に意識を取り戻したときに、その場に当人がいると彼には面倒なのだろう。おそらく、『私』の記憶が曖昧なことをいいことに周囲と口裏を合わせる算段なのかもしれない。
そこで『私』はとあることに気がつき、ベッドとその周囲を慌てて探った。自身が犯されたことを今更否定するつもりはないが、違うことが気になった。そして、いくら探しても『それ』がないことが、また『私』を絶望へと突き落とした。
その場にはコンドームがなかったのだ。
ゴミ箱にあるは個装で封が切られたローションと丸まったティッシュペーパーだけだった。
つまり、我孫子は――
「うっ……」
『私』は突然、吐き気を覚え、トイレに駆け込み嘔吐した。一度吐くと口の中に広がった酸味と臭いが気持ち悪く、また吐いた。それを何度も繰り返し、トイレに土下座でもするかのように前のめりに身体を崩した。
「七十二時間以内に産婦人科に受診。あと、証拠だ。体毛とか体液を……」
自身の身体の状態を確認する為と、加害者を特定する術を『私』は知っていた。『私』は力の入らない身体を重たそうに引きずって、ベッドのある場所へと戻った。
とりあえず、近くにあったソファに身体を預けるように腰掛け、頭を抱える。情報と状況の整理が『私』には必要だった。
『私』を犯したのは我孫子で間違いないだろう。最後の言葉とタクシーで送る場面までは薄らと記憶にある。
ならば、我孫子がここにいないのは何故か? 行為を終えたあとは長居する理由がないので去ったと考えるのが妥当だ。酩酊状態の『私』が完全に意識を取り戻したときに、その場に当人がいると彼には面倒なのだろう。おそらく、『私』の記憶が曖昧なことをいいことに周囲と口裏を合わせる算段なのかもしれない。
そこで『私』はとあることに気がつき、ベッドとその周囲を慌てて探った。自身が犯されたことを今更否定するつもりはないが、違うことが気になった。そして、いくら探しても『それ』がないことが、また『私』を絶望へと突き落とした。
その場にはコンドームがなかったのだ。
ゴミ箱にあるは個装で封が切られたローションと丸まったティッシュペーパーだけだった。
つまり、我孫子は――
「うっ……」
『私』は突然、吐き気を覚え、トイレに駆け込み嘔吐した。一度吐くと口の中に広がった酸味と臭いが気持ち悪く、また吐いた。それを何度も繰り返し、トイレに土下座でもするかのように前のめりに身体を崩した。
「七十二時間以内に産婦人科に受診。あと、証拠だ。体毛とか体液を……」
自身の身体の状態を確認する為と、加害者を特定する術を『私』は知っていた。『私』は力の入らない身体を重たそうに引きずって、ベッドのある場所へと戻った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
無能力探偵の事件簿〜超能力がない?推理力があるじゃないか〜
雨宮 徹
ミステリー
2025年――それは人類にとって革新が起きた年だった。一人の青年がサイコキネシスに目覚めた。その後、各地で超能力者が誕生する。
それから9年後の2034年。超能力について様々なことが分かり始めた。18歳の誕生日に能力に目覚めること、能力には何かしらの制限があること、そして全人類が能力に目覚めるわけではないこと。
そんな世界で梶田優は難事件に挑む。超能力ではなく知能を武器として――。
※「PSYCHO-PASS」にインスパイアされ、本や名言の引用があります。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
魔法使いが死んだ夜
ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。
そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。
晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。
死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。
この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。
殺人推理:配信案内~プログラマー探偵:路軸《ろじく》九美子《くみこ》 第1章:愛憎の反転《桁あふれ》~
喰寝丸太
ミステリー
僕の会社の広報担当である蜂人《はちと》が無断欠勤した。
様子を見に行ってほしいと言われて、行った先で蜂人《はちと》は絞殺されて死んでいた。
状況は密室だが、引き戸につっかえ棒をしただけの構造。
この密室トリックは簡単に破れそうなんだけど、破れない。
第一発見者である僕は警察に疑われて容疑者となった。
濡れ衣を晴らすためにも、知り合いの路軸《ろじく》九美子《くみこ》と配信の視聴者をパートナーとして、事件を調べ始めた。
僕達の恋愛事情は、それは素敵で悲劇でした
邪神 白猫
ミステリー
【映像化不可能な叙述トリック】
僕には、もうすぐ付き合って一年になる彼女がいる。
そんな彼女の口から告げられたのは、「私っ……最近、誰かにつけられている気がするの」という言葉。
最愛の彼女のため、僕はアイツから君を守る。
これは、そんな僕達の素敵で悲劇な物語──。
※
表紙はフリーアイコンをお借りしています
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://m.youtube.com/channel/UCWypoBYNIICXZdBmfZHNe6Q/playlists
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる