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過去との対話_有栖_1

有栖_1-3

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 たぶん『私』はこのときに男女の差、というものを思い知った。以前の男子とのケンカとは違い、空手の競技の上では男女に差なんてないと思っていた。

「おいおい弱ぇな!」

『私』は全身の痛みに顔を歪めながら、相手の嘲笑の混じった罵声を聞いた。
 試合にはならなかった。リーチ差で攻撃は届かない。いや、なんとか一度か二度は腹を殴ったけど硬くてダメージはなし。『私』は殴られ、蹴られ、痛めつけられた。

「二度とこんな目にあいたくなかったら、出しゃばるんじゃねぇぞ!」

『私』が膝を着いたからだろう、その男子は詰め寄り、襟元を掴み強制的に立たせて、そう怒鳴った。

「謝って、許しを請えよ!」

 たぶん、そんなことを言っていた。だけど、『私』は――今なら攻撃が届くって思ったんだ。

「――ぎっ!」

 声にならない声、というものを聞いた。それが発せられたのは『私』が男子の急所を蹴り上げたからだ。その痛みは想像できないし、どれほど残酷な行為だったのか『私』には解らなかった。いや、解る必要もなかったし、気遣う余裕もなかった。
 ただ、相手の拘束が外れ、前屈みになったことで『私』の真正面に顔面があった――だから、ぶち込んだ。
 何千回も練習した自信のある一撃――正拳突きを。

 今までで一番上手く放てた、と思う。
 真っ直ぐに放った拳は相手の鼻と歯を砕き、めり込み、噴水のように血を吹き出させた。

「ぎゃぁぁぁ! 痛いよぉ、痛いよぉ!」

 泣き叫ぶ上級生。顔面蒼白の取り巻き達。凍り付いた道場。
 その中で、『私』はじりじりとした痺れと熱さを右拳に感じて、少し感動していた。
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