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パラレルワールドにて 7
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疲れていた。カイは部屋に戻ると、倒れ込むようにベッドに横になった。
まだ日は高い。夕方までには間がある。
この世界でカイが女だったように、レイが屋敷に現れなかったように、フェリクスもまた違っているのだろうか。それも最悪な方向に。
もしもフェリクスが元の世界に戻って、自分だけが残されてしまったら。どうあっても、カイがこちらの世界のフェリクスと対面することになるのだ。
幸い体に暴力を受けたような跡はなかったが・・・
「一発でも殴られたら死ぬな・・・」
急速な眠気に襲われ、カイは目を閉じた。
ーーーーー
誰かが髪を撫でていた。飽きもせず、何度も指が髪をすいていく。時々耳に触れそうになるのが妙にくすぐったい。カイは浮上した意識を、己の髪を撫でている者へと向けた。
「起きたんですね」
フェリクスはまだ外出した時のままの格好だった。
「おかえり。どうだった?レイは見つかりそうか?」
「この街にいるようならすぐにでも。いないとなると、少し時間がかかるでしょうね」
それでも、見つからないとは言わない。事実、フェリクスなら見つけてくるだろう。
「メシは?」
「持ってこさせましょうか?」
「うーん。あんま腹減ってないかも」
寝返りを打って横になる。
デニスに会ったことは、やはり言わないことにした。
「オレ達って、夫婦になってどのくらいなんだろうな」
「さあ。どうしてです?」
「子どもとかいねーんだなーと思って」
「そうですね・・・」
フェリクスはまだカイの髪を触っている。無意識なのかもしれなかった。
「オレのせいかもしれません」
「なにが?」
「多分ですけど、オレは子どもを作れない体なんです」
思わず体を起こす。フェリクスの指から髪が滑り落ちていった。
「オレ、昔からよく女の子に誘われたんですよね。それこそ、どうすれば子どもができるかも知らなかった頃から。賭け試合で勝つようになってからは特にね。彼女たちは多分、できてもいいと思ってたんでしょう。オレも、特に深く考えもせず、誘われるままって感じで。オレにその能力があれば、すでに何人か子どもがいてもおかしくない」
苦笑する気配。よく分からない痛みを感じた。フェリクスは今、恐らく誰にも言ったことのない話しをしている。
「だからきっと、オレ達に子どもはできません」
静かな声で言い切るフェリクスの声に潜む孤独を、カイは感じ取っていた。
選んで子を残さないのではなく、残せないという孤独を。
「そっか。・・・でも、でもさ、そうとも限らねーんじゃねーか?」
窓の外へ向いていたフェリクスの視線が戻って来る。カイは務めて明るく言った。
「ほら、オレなんて性別まで変わってんだぜ?この世界のオマエはつくれるかもしれねーじゃん。子ども」
言葉にしてみると、実際その可能性もなくはないような気がしてきた。
フェリクスも同じように感じたのだろう。何かが溢れたように表情が歪み、思わずといったふうに持ち上がった手が、こちらへ伸びかけて途中で握りしめられた。
「・・・やっぱ、酒とツマミぐらい頼みましょうか」
そう言ってベッドを離れるフェリクス背中を、カイは黙って見送った。
まだ日は高い。夕方までには間がある。
この世界でカイが女だったように、レイが屋敷に現れなかったように、フェリクスもまた違っているのだろうか。それも最悪な方向に。
もしもフェリクスが元の世界に戻って、自分だけが残されてしまったら。どうあっても、カイがこちらの世界のフェリクスと対面することになるのだ。
幸い体に暴力を受けたような跡はなかったが・・・
「一発でも殴られたら死ぬな・・・」
急速な眠気に襲われ、カイは目を閉じた。
ーーーーー
誰かが髪を撫でていた。飽きもせず、何度も指が髪をすいていく。時々耳に触れそうになるのが妙にくすぐったい。カイは浮上した意識を、己の髪を撫でている者へと向けた。
「起きたんですね」
フェリクスはまだ外出した時のままの格好だった。
「おかえり。どうだった?レイは見つかりそうか?」
「この街にいるようならすぐにでも。いないとなると、少し時間がかかるでしょうね」
それでも、見つからないとは言わない。事実、フェリクスなら見つけてくるだろう。
「メシは?」
「持ってこさせましょうか?」
「うーん。あんま腹減ってないかも」
寝返りを打って横になる。
デニスに会ったことは、やはり言わないことにした。
「オレ達って、夫婦になってどのくらいなんだろうな」
「さあ。どうしてです?」
「子どもとかいねーんだなーと思って」
「そうですね・・・」
フェリクスはまだカイの髪を触っている。無意識なのかもしれなかった。
「オレのせいかもしれません」
「なにが?」
「多分ですけど、オレは子どもを作れない体なんです」
思わず体を起こす。フェリクスの指から髪が滑り落ちていった。
「オレ、昔からよく女の子に誘われたんですよね。それこそ、どうすれば子どもができるかも知らなかった頃から。賭け試合で勝つようになってからは特にね。彼女たちは多分、できてもいいと思ってたんでしょう。オレも、特に深く考えもせず、誘われるままって感じで。オレにその能力があれば、すでに何人か子どもがいてもおかしくない」
苦笑する気配。よく分からない痛みを感じた。フェリクスは今、恐らく誰にも言ったことのない話しをしている。
「だからきっと、オレ達に子どもはできません」
静かな声で言い切るフェリクスの声に潜む孤独を、カイは感じ取っていた。
選んで子を残さないのではなく、残せないという孤独を。
「そっか。・・・でも、でもさ、そうとも限らねーんじゃねーか?」
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「ほら、オレなんて性別まで変わってんだぜ?この世界のオマエはつくれるかもしれねーじゃん。子ども」
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「・・・やっぱ、酒とツマミぐらい頼みましょうか」
そう言ってベッドを離れるフェリクス背中を、カイは黙って見送った。
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