猫奴隷の日常

ハルカ

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侍女、ミナの暗躍

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なぜ、こうもうまくいかないのだろう。

フローラと共に客間に戻り、茶の用意をしながら、ミナは歯噛みした。

今日も、エイベル・セヴィニーとは面会できなかった。
お嬢様が会いたいと言えば、男たちは何をおいてもフローラを優先するはずなのに。
子爵家の息子も、伯爵家の息子も、豪商の息子も、皆フローラに夢中になり、その中でも子爵家の息子は、同じくフローラを好きになった友人と決別してしまったほどだ。
フローラは心を痛めたが、ミナは気にしなかった。
そのくらい、フローラは魅力的だということだ。
それなのに。

うまく行っていない。
その事実を、認めなければなるまい。
しかし、あっさりと諦めてしまうには、公爵家という階級はあまりに惜しい。
エイベル・セヴィニーと繋がりができれば、王族との繋がりだってできるということ。

「ミナ、わたし疲れたわ」

フローラはソファに凭れ、目を瞑っていた。

「マッサージいたしましょうか」
「お願い」

フローラをベッドにいざない、華奢な体にマッサージを施してゆく。
フローラの身の回りの世話は、ずっとミナ一人で行っている。マッサージも。その度に思う。
フローラにもっとも相応しいのは、一番の高みだ・・・


マッサージを受けながら、フローラは眠ってしまった。
ミナは音を立てないように廊下に出た。
廊下には、コウが控えていた。
気まずそうに下を向いている。

コウは、屋敷の使用人達に接触し、主の情報を引き出してみせると豪語していた。それを全て失敗したと、昼前に報告を受けていた。
ミナはコウを無視して、その前を通り過ぎた。

エイベルとフローラを直接会わせ、フローラの可愛さを知らしめる、というこちらの目論見も、今の所失敗している。しかし、もう一つの方は順調だった。

ミナはエントランスの時計で時間を確かめてから、外に出た。
少し待っていると、男が一人やって来るのが見えた。

この屋敷で働く使用人は極端に少ない。当然、業務は回っていない。そのため、洗濯屋や酒屋など、街の業者が数人出入りしている。ミナはその全てに接触していた。
彼ら、彼女らは、領主の屋敷に突如現れた美しい女性・・・ もちろんフローラのことだ。その女性に興味しんしんで、ミナが話を持ちかけると、皆一様に同情し、味方になると約束した。
その中の一人が、今やって来た、この犬族の男だった。

「おまたせしましたか」

軽い足取りで短い階段を上がってきた男が、ミナに笑顔を向けて言った。

「女の子をこんな寒いとこで待たせちゃって、悪かったな」

流れるように手を取ろうとする。ミナは慌てて手を引っ込めた。
男を睨む。
男は全く気にしたふうもなく、空をきった手をひらひらと振った。

男は、フェリクスと名乗った。屋敷に出入りし、御用聞きのようなことをしているらしい。主のことも知っていると言う。

「お詫びに、美味しいものでも奢りますよ」
「お断りします。お嬢様のお側を離れるわけにはいきませんから」

軽い男だ。こういう男は好かないが、ミナの話はきちんと聞いてくれる。味方になりそうな者は、一人でも多いほうがいい。

「真面目だなぁ。好きですよ、そういうの」
「・・・」
「睨む顔も悪くない」

言って、笑う。
ミナは警戒心を強めた。
フェリクスは、ただの庶民とは思えないほど、整った顔立ちをしている。かといって、貴族的かというとそうではない。野生の肉食動物のような雰囲気がある。

「誘ったのはね、噂を聞いたからですよ」

ミナの警戒にはお構い無しで、フェリクスは言った。

「主の悪口になりそうなことを、ここで言うわけにもいかないじゃないっすか?」

フェリクスが声をひそめ、ミナに顔を寄せてきた。
ミナは思わず体を引きながらも、フェリクスが言った言葉に敏感に反応していた。

・・・噂。

「それ、聞いたらすぐに戻りますから」

牽制するために言っておく。
フェリクスは何も言わず、ただうっすらと笑った。




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