猫奴隷の日常

ハルカ

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ネコさん達の集い 翌日

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神様、ありがとうございます。
その日オレは、存在すら信じていなかった神が実在することを確信した。
そして感謝した。

忙しさから解放された昼下がり。今日は朝からなぜか姿のなかったリュカさんと、弟のカイさん、それからレイさんが、そろって詩吟亭にやってきたのだ。
そして、昨日と同じ席に、無言のまま腰かけた。

なんと。例の報告会が行われるんですか!?
オレは興奮が抑えきれず、危うく持っていた皿を割りかけた。
さすがに耳目のある店の中でするような話でもなし。かといって参加させてもらえるような権利も持っていないオレは、三人の昨日の会話の続きを知ることは一生できないと諦めていた。それなのに?
オレはさりげなさを装って近づくため、用意した三つのグラスに水を汲んだ。
そうして三人のテーブルに戻ると・・・ なんと、少し目を離した隙に、先ほどのテーブルには三体の死体が転がっていた・・・

「だっ、大丈夫ですか!?」

オレは落としかけたグラスを近くのテーブルに避難させると、テーブルに駆け寄った。
三人が三人共テーブルに突っ伏して、オレの呼びかけにも全く反応しない。
目を離した隙に、一体なにがあった?

混乱していると、ようやくフラフラとレイさんが頭を上げ、オレをキュートな目で見上げた。

「大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで」

声に反応したのか、カイさんとリュカさんも突っ伏していた体勢から起き上がった。酷く億劫そうではあったが。

「ふぁぁ・・・ やべ。眠すぎて意識がもーろーとするな」

そう言ったカイさんの言葉に、珍しくリュカさんが目を吊り上げた。

「カイのせいだよ。カイが昨日あんなこと言うから」
「そうだよ。僕なんか、僕なんか昨日ここでした話、全部喋らされたんだからね。しかも裸で!」
「レイくんも?」
「リュカさんもですか」
「うん・・・ 酷い目にあったよ。本当に、酷い目に・・・」

一体どんな目にあったというのか。リュカさんの目は死人のそれのようだった。
同時にオレは納得した。なるほど、だから店に出て来られなかったのか。
しかし二人の悲哀とは反対に、カイさんの方はやけにあっけらかんと笑っている。

「なーんだよ、大げさな奴らだなー」
「なんでそんなに元気なのさ」

レイさんが口を尖らせて言う。そんな顔もかわいい。

「分かった。自分はもう結果は分かってるから、しなかったんだ。僕たちにだけ、・・・アレをさせて」

途中で、周囲を気にするようにレイさんが辺りを見回す。オレの聞いていないフリも、そろそろ達人の域に達しようとしている。オレは三人の前にグラスを設置した後は、さも興味がないような顔で空いたテーブルにクロスをかけていた。その実、もちろん全力で三人の話に聞き耳を立てているわけだが。

「いいや?オメーらにだけやらせて、オレは知らん顔なんかしてらんねーかんな。オレももちろんやってた」
「だったら・・・」

カイさんとリュカさんが息を飲む。なんだか息がぴったりで、カイさんよりもむしろこの二人の方が本当の兄弟のようだ。

「ちょうどいいとこに帰ってきたからよー、部屋に引っ張り込んで襲ってやった」
「・・・!」
「・・・!」

衝撃を受けたように、二人が目を見開いたまま固まった。

「そこまでは良かったけど、ブレーキぶっこわれたみてーになっちまったのは失敗だったけどなー」

ハハ と笑う。
それを見て、レイさんとリュカさんは肩を寄せ合い、顔を両手で覆って嘆き始めた。

「そうだよ。あんまりこっちが恥ずかしがるから、向こうも興が乗っちゃうっていうか、そうなっちゃうんだって、後から思ったけどもう遅かったっていうか!」
「うう・・・ ぼくだって、そんなふうに思えたら・・・ でも、無理だよ。フェリクスを襲うなんて、ぼくにはできない」
「ですよね。わかります。フェリクスを襲うなんて、不意打ちがうまく決まらないかぎり無理ですよ」

ひそひそと話しあう二人には頓着することなく、カイさんは目の前のグラスを取り上げて中身を煽る。
その時。カララン と来店を告げる鐘がなった。
「いらっしゃいませー」と言いかけて、オレは固まった。

「お待たせしましたーっ」

先頭を切って入ってきたのは、金髪で犬族のフェリクス。この人はリュカさんの恋人だ。フェリクスはテーブル席に三人を見つけると、まっすぐにそちらに向かった。
次に店に入ってきた茶髪の犬族の獣人、ヴァイスも後に続く。
そうして最後に入ってきたのは、この店にも二度来たこのある、レイさんの恋人、エイベル様だった。
相変わらず、のどかな大衆食堂に全く馴染まない存在感だ。

「リュカさん、そろそろ行きましょうか」
「えっ、で、でも、ぼく店手伝わないといけないし・・・」
「大丈夫です」
「大丈夫?なにが?」

さあさあと急かされて、リュカさんはフェリクスに回収されていった。

「レイ」

低いいい声で、エイベル様がレイさんを呼ぶ。レイさんの耳がへにょりと倒れ、細い手がエイベル様に伸ばされる。その手を軽々と引き上げて、半ばレイさんを抱えるようにしてエイベル様は去って行った。
二人がどこに連れて行かれたのか・・・ いやいや。考えるのはよそう。
最後に残されたカイさんは、なぜかずりずりと横にあった椅子を引き寄せていた。その座面を、ぽんぽんと叩く。そこに大人しくヴァイスが座ると、カイさんはその肩にもたれた。

「寝る。一時間したら起こしてくれ」
「うん」

ほどなくして、すぅすぅと寝息が聞こえ始める。その寝顔を見下ろすヴァイスの耳が、ヒコーキのように横に倒れている。

・・・いい。彼らのような恋人が、どうやったら作れるのだろう。
羨ましさマックスでそれを眺めていると、横に殺気を感じた。

「ヒッ!」

オレは驚いてその場から飛びのいた。カイさんのお父さんで店のマスターでもあるテオが、鬼の形相でカイさんとヴァイスの寄りそう背中を眺めていた。

「・・・あいつぅ、オレの店でなにをやっとる・・・!!」

やばい。そうこうしている内にカイさんの体がずれて、今や膝枕状態だ。
オレは憤るマスターの横を、そっと離れた。


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