猫奴隷の日常

ハルカ

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閑話 6

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「と、いうことがありました」

厨房の椅子に座った、カイ、サヤ、ヴァイスを順番に見てセバスが言った。
屋敷の使用人達に不審に接触してきた者達がおり、セバスに命じられて調査を行ったのはヴァイスだった。連中は街の便利屋や探偵事務所にも数件訪れており、正体が割れていた。
一様にレイのことを探ろうとした形跡があり、どこにも断られていた。

「で?どーにかすんのか?」

テーブルに肩ひじをついたカイが、セバスを見て言う。
セバスはその問いを受けて首を横に振った。

「とりあえずは泳がせます。今のところ何か仕掛けてきそうな雰囲気はないですから」
「悠長なこったな。何かあってからじゃ遅いんだぜ?」
「まあ、そうなんですけどね。さすがに何もない内から引っ張ってきて罪に問うことはできませんよ」
「まー、そーだろーけど」

不満そうなカイから、セバスはヴァイスに視線を移した。

「ヴァイス、日中はしばらくレイの傍にいてください」
「はい」
「ただし、レイにはこのことを悟られないように。余計な心配をさせたくありませんからね」
「分かりました」

神妙な面持ちでヴァイスが頷くのを確認してから、セバスは再び三人を見回した。

「また何か言ってくるようなことがあったら、すぐに知らせてください」

各々が頷く。しかし、サヤだけは眉間に皺を寄せたままだった。

「なんなの皆。私のところにはそんな不審な人なんて来なかったわよ?」
「そりゃオメー、お子ちゃまに聞いてもしょーがねーと思われたんじゃねーの?」

すっかりぬるくなった紅茶を飲みながら、カイがからかうように言う。それを聞いて、サヤはさらに不機嫌そうになった。

「まあまあ、サヤ。それはそれで幸運だったと思いますよ?ヴァイスなどはハニートラップをかけられて、その後大変だったようですから」
「セバス様!」

収まった話題を持ち出されて、ヴァイスが焦ったような顔をする。

「何が大変だったの?」
「恋人がヤキモチ焼きなんですよ」
「・・・なるほどね」

深々と頷くサヤを見て、ヴァイスが驚いた顔をした。

「サヤは、知ってるのか?オレの恋人が誰かってこと」
「もちろん知ってるわ」
「そうなのかぁ」
「ヴァイス、サヤは過分に誤解してますから」

がりがりと頭をかくヴァイスに、セバスは苦笑して言った。しかし動揺しているのか、ヴァイスは聞いていなかった。

「なんか照れるなぁ」

嬉しそうな笑顔でヴァイスに見られたカイが、うぐ と言葉に詰まる。世界広しといえども、カイを一瞬で黙らせることができるのはヴァイスだけに違いない。セバスはおかしなことに感心しながら三人を眺めた。

「気を付けた方がいいわよ」
「なにが?」
「狼族は嫉妬深い人が多いのよ」
「それは、うん。分かってる」

実感を込めて頷くヴァイスを、カイは不服そうに見た。

「おかしな誤解されるようなことする方がわりーんじゃねーか」
「でも、気分が悪そうな人を放っておくわけにはいかないし」
「だから、それについちゃなんも怒ってねーし」
「それにしては随分責められたような・・・」
「オメーの言い方がわりーんだ。はかなげできれいな女だったなんてゆーから」
「はいはい。私もサヤもいるんですから、人前でイチャイチャイチャイチャしないでください」

パンパン とセバスが手を打ったことで、三人が黙る。セバスはまだなんとなく面白くなさそうな顔をしているカイを見ながら、サヤとヴァイスを促して立ち上がった。

「さ、話はこれで終わりですから。仕事に戻りましょう」

三人で無人の廊下に出、仕事に戻るサヤを見送った後でセバスは困ったようにヴァイスを見た。

「カイは随分引きずっているようですけど、一体どのような説明を?」
「普通にあったことを言っただけですけど」
「それにしては、妬き方が酷いのでは?」
「まあ、そうなんですけど、多分あれは妬いてるっていうよりも」
「なんです?」

ヴァイスはまた照れたように頭をかいた。

「いや、どっちかっていうと、甘えたいときの言い方だと思います」
「あれでですか?」

セバスが呆れたような顔になる。

「分かりづらいですねぇ。でもそれなら、今すぐにでも傍に行きたいのではないですか?」
「そうですけど、仕事中ですし。後にします」

きっぱりと言い切ったヴァイスを、セバスは面白そうに見た。

「いつの間にか、あなたの方が年上のようになってしまいましたねぇ」
「全然。オレ、いままでずっとカイに甘えてばっかりだったから、早く仕事覚えて、しっかりして、カイを甘やかさせてあげたいんです」
「そうですか。それならこれまで以上にしっかり働いてもらわなければなりませんね」
「はい!」

しっかりと決意をこめて頷くヴァイスを、セバスは微笑ましく見た。


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