猫奴隷の日常

ハルカ

文字の大きさ
上 下
84 / 192

狼たちの宴

しおりを挟む
居酒屋の入り口から寒風が吹きこむのを感じ、目をやると待っていた人物がそこにいた。
手を振って合図すると、ほっとしたような顔でこちらに歩いてくる。

「ごめん。遅くなったかな」

マフラーを外しながらリュカがカイを見て言い、それから隣に座るヴァイスに軽く頭を下げる。改めてウェイターを呼んで注文をし、三人の手にそれぞれ酒の入ったカップが行き渡ったところで乾杯となった。
リュカはカイと違ってあまり酒は飲めない。一口酒に口をつけた後は一緒に頼んでいたジュースに移行したリュカを、カイは向かいから眺めた。

「しっかし、驚いたぜ」
「ごめんね、カイ」
「いーけどよー。あんなんで出て行かれたオレの身にもなってくれよなー。こいつはフェリクスとは別の意味で口を割らねーし」

言いながら、ヴァイスの横顔を軽く睨む。
いつの間にフェリクスと結託したのか。いくら問い詰めたくとも相手は喋らない。
どころか、暖簾に腕押しとばかりに そよ とも感情を動かさない目でカイを見てくる。最後には疲れてやめてしまった。

結局は二人が屋敷から帰った次の日、仕事を終えたリュカがカイの元にやって来て一応の説明はしていった。しかし元々説明上手でもないリュカが、カイには言いずらいことを端折って伝えたため、ほとんど説明にはなっていなかった。
しかしカイはそれを深くは追求しなかった。
一晩経って冷静になっていたのもあるし、ヴァイスが理由もなくカイを止めたとも思わなかったからだ。

「で?アイツはどうしたいってんだよ?」
「・・・詩吟亭を守りたいって」
「ふぅん。まあ、守りたいっつーんなら好きにさせときゃいーんじゃねーの?害になるわけじゃねーし」
「でも、ボクは何も返せないのに・・・」
「リュカ兄がヤダっつってもアイツはやる気なんだろ?」
「・・・多分」

リュカの手元で、コップに入った氷がカラカラと涼やかな音を立てる。

「ところでリュカ兄、もうアイツとはヤッたのかよ?」
「かっ!カイ!」
「遠回しに聞いてもしょうがねーだろ」
「っ!」

酒も入っていないはずのリュカの顔が真っ赤になる。ちらちらと周りのテーブルに目をやって、各自各々の話題で盛り上がってこちらに注意を向ける者がいないのを確認してから、ようやく口を開いた。

「・・・・・・ 最後までは、してない」
「つーことは、途中まではしたってことか」

カイの指摘に、リュカは銅像のように固まって動かなくなった。何を考えているのか、赤くなったり青くなったりしている。そんなリュカを、カイは不思議な思いで眺めた。

「でも、嫌いなわけじゃねーんだろ?リュカ兄はアイツのことどう思ってんだよ」
「・・・。分からないよ」

リュカは迷子のような顔で俯いている。あの日最後に会ったきりのフェリクスも、珍しく葛藤の様子を見せていた。

「ま、アイツ自身も分かんねーんだろーな。アイツが今まで遊んでんのは後腐れねータイプの女ばっかだし」

言ってから、リュカの表情が沈んだのを見てカイは慌てた。潔癖なところのあるリュカに、フェリクスの女関係の話はタブーだった。

「いや、今は遊んでねーと思うけどな」
「・・・ボクは、そういうこと平気でする人は苦手だよ」
「だろーな。だから、無理して付き合う必要はねーよ。確かに、アイツと付き合ったらリュカ兄は苦労するかもな」

言いながら、果たして過去にフェリクスが本気になった相手はいたのだろうかと考える。カイから見て、それと分かるほどのめりこんで恋愛している様子はなかった。
だとしたら、奴にとっても初めての本気なのかもしれない。
どちらにしても厄介な男に惚れられたものだと兄を見ると、そのリュカは何も言わずにじっとカイを見ていた。

「なんだよ?」
「・・・カイは、フェリクスのことよく分かってるよね」
「あん?」
「カイだけじゃなくて、フェリクスも。お互い分かりあってる」
「そうかぁ?」

そんなことはないと思いつつヴァイスを見ると、こちらも深く頷いていた。
再びリュカに目を向ける。その瞳の中には確かな嫉妬が見て取れる。

「脈がなくもねーのかな」

完全に範疇の外にいると思われる自分にすら嫉妬するぐらいだ。案外簡単にくっつくかもしれない。カイはそう納得して、残り少なくなったカップの酒を煽った。
ジュースを舐めていたはずのリュカも、いつのまにか酒が入っていたカップを空けていたが、カイは気づいていなかった。

「・・・カイこそ」
「ん?」
「カイこそ、ヴァイス君と付き合ってるんだよね?」
「あ?まー、そーだけど?」
「そういうことも、してるんだよね?」
「ま、まあ、してねーこともねーけど?」
「・・・」
「なんだよ?」
「・・・ボク、人とそういうことあんまりしたことないんだけど、フェリクスって、その、上手いのかな・・・」
「え」

ほんのりと赤く染まっているリュカの顔を眺める。なにかとんでもないことを言い出しそうな雰囲気に、カイは固唾を飲んだ。

「ボク、フェリクスに触られると頭が変になっちゃうんだ。もう、全部どうでもいいって思っちゃうくらい気持ちよくて・・・」
「ちょっ、ちょっとストップ。リュカ兄。あ!?いつの間にか酒なくなってるじゃねーか!」
「カイは、そんなことないの?ヴァイス君に触られても、そんな冷静でいられるの?」
「う・・・」

カイは背中にじっとりと嫌な汗が出てくるのを感じた。リュカはお構いなしに向かいから期待に満ちた目でこちらを見てくる。横からも視線を感じて、カイは自棄になって机に突っ伏した。

「あーもう!結構な頻度で、しぬかも と思うぐらいイかされまくってるよ!」
「へぇ、カイさんもベッドの上ではそんなになっちゃうんすか」

聞きなれた声に驚いて顔を上げると、いつの間にかやって来ていたフェリクスがニヤニヤと笑いながらこちらを見下ろしていた。

「て、テメェ・・・!」
「怒んないでくださいよ。言われた通りの時間になったからリュカさん迎えに来たんじゃないっすか」

両手を降参の形に上げる。確かに時計を見ると、カイが指定した時間になっていた。
夜道を一人帰ることになるリュカを心配してこの男を呼んでいたのだったが、間が悪すぎる。

「フェリクス?」
「リュカさん、迎えに来たっすよ」
「わざわざいいのに」

酒が入ってふらつくリュカを、フェリクスが片腕で支える。カイは余裕そうな態度の相手を睨んだ。

「おい、送り狼になんなよ」
「わかってるっすよ。そちらこそ、酔ったついでにイタズラされないように気を付けた方がいいんじゃないすか?ほら、酒が入るといつもより感じやすくなっちゃうし」
「うっせぇし!」

手を払って余計な口を叩く男を追い払う。フェリクスがリュカを伴って居酒屋の外へ出て行くのを見届けてから、カイはため息をついた。

「なんかもー、疲れたから帰ろーぜ」
「・・・」

二人に続いて店を出る。なんとなく辺りを見回すが、まだざわざわと人々の行き交う雑踏の中に知った姿を見つけることはできなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

僕は性奴隷だけど、御主人様が好き

泡沫の泡
BL
鬼畜ヤンデレ美青年×奴隷色黒美少年。 BL×ファンタジー。 鬼畜、SM表現等のエロスあり。 奴隷として引き取られた少年は、宰相のひとり息子である美青年、ノアにペットとして飼われることとなった。 ひょんなことからノアを愛してしまう少年。 どんな辱めを受けても健気に尽くす少年は、ノアの心を開くことができるのか……

純粋すぎるおもちゃを狂愛

ましましろ
BL
孤児院から引き取られた主人公(ラキ)は新しい里親の下で暮らすことになる。実はラキはご主人様であるイヴァンにお̀も̀ち̀ゃ̀として引き取られていたのだった。 優しさにある恐怖や初めての経験に戸惑う日々が始まる。 毎週月曜日9:00に更新予定。 ※時々休みます。

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

玉縛り玩具ランブル!?~中イキしないと解けない紐~

猫丸
BL
目覚めたら真っ白な部屋で拘束されていた。 こ、これはもしや『セックスしないと出られない部屋』!? ……は?違うの?『中イキしないと解けない紐』!? はぁぁぁぁぁ!?だから、俺のちんこ、しらない男とまとめて縛られてるの!? どちらが先に中イキできるのか『玉ちゃん(主人公)・丸ちゃん(彼氏)vs対馬くん・その彼氏』の熱い戦いの火蓋が切って落とされた!!!! えー、司会進行は『ウサギマスク』がお送りいたします。 ===== ワンライならぬ1.5hライで、お題が「玉縛り」だった時に書いた作品を加筆修正しました。 ゴリッゴリの特殊性癖な上に、ふざけているので「なんでもこーい」な方のみ、自己責任でお願いいたします。 一応ハッピーエンド。10,000字くらいの中に登場人物5人もいるので、「二人のちんこがまとめて縛られてるんだなー」位で、体勢とかもなんとなくふわっとイメージしてお楽しみいただけると嬉しいです。

竜騎士の秘密の訓練所(雌穴調教)

haaaaaaaaa
BL
王都で人気の竜騎士はエリート中のエリート集団だ。リュウトは子供のころからの憧れの竜騎士を目指し、厳しい試験をクリアし、念願の新人として訓練に励む。誰も知らない訓練内容には、ドラゴンに乗るためと言われなぜか毎日浣腸をしないといけない。段々訓練内容は厳しくなり、前立腺を覚えさせられメスイキを強いられる。リュウトはなぜこんな訓練が必要なのか疑問に感じるが、その真相は。

処理中です...