猫奴隷の日常

ハルカ

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仲直りの風景

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叩いた扉が内側から開かれて、現れたのは数日ぶりに会う恋人だった。
一瞬驚いた顔をした相手が、すぐに飛び出してきて抱きしめてくる。それに気を良くしてしまう自分の単純さには呆れる。

「暇ならちょっと付き合えよ」

そう誘うと、ヴァイスは一度中に引っ込んでダンの肩を叩き、カイを指さして意思を伝えてから再び外に出てきた。

「何してたんだよ、今まで」

肩を並べて歩きながら聞くと、ヴァイスは家の横にある倉庫を指さした。なんだかよく分からない機械が山積みになっているのが見える。それが倉庫の両側に分けて置かれてあった。

「何。倉庫の整理かよ」

ヴァイスが頷く。

「相変わらずじいさんにこき使われてんな」
「・・・」
「まぁいいや。行こーぜ」

肩を叩いて少し前に出る。今日は天気がよくて散歩日和だ。カイとヴァイスは急ぐでもなく、ぽつぽつと人が行き交う街道を進んでいった。




詩吟亭の看板がかかる建物の前で足を止めると、ヴァイスが問うようにカイを見た。

「オレんち」

そう言って、さっさと扉を開けて中に入る。まだ早い時間だからか、客足はまばらだった。奥のテーブルを選んで座ると、すぐにリュカがカイを見つけてやってくる。

「カイ!珍しいね」
「まーな。夜遅くに来られるくらいならこっちから出向くっつーの」
「アハハ ありがとう。来てくれて嬉しいよ。君は、カイの友達?」

リュカがヴァイスを見てほほ笑む。

「まあ、みたいなもんだな」
「初めまして。カイの兄のリュカです」

丁寧に頭を下げるリュカにつられたようにヴァイスも頭を下げる。

「なににする?」
「なんか軽いもんでいーんだけど」
「じゃあ、適当に持ってくるよ」

そう言ってテーブルを離れかけたリュカが、立ち止まってカイを見た。

「フェリクスは、元気にしてる?」
「フェリクス?ここには来てねーの?」
「最近は」
「そーいやオレも見てねーな」
「そうなんだ・・・」
「なんかアイツに用でもあんの?」
「ううん。そういうわけじゃないよ」

笑って首を横に振る。どことなく力のないそれを見ながら、カイは首を捻った。

「なんか分かんねーけど、顔出すように言っとく」

カイがそう言うと、リュカは慌てたように手を振った。

「いいよ。ちょっと、気になっただけだから」

言いながら、さっと身を翻して行ってしまう。

「なんかおかしいんだよな、こないだから。リュカ兄といい、フェリクスといい。オメェ、なんか知って・・・ るわけねぇか」

横を見ると、ヴァイスはじっとリュカの後ろ姿を目で追っていた。
カイは何かを考える前にその頬を指で引っ張っていた。

「おい」
「!」
「なに見惚れてんだ」
「!」

首が横に振られる。しかし、こちらが話しかけるのにも気づかないくらい、真剣な顔でリュカを見つめていたのだ。当然おもしろくない。

「オメェ、オレには理解できねーけど、この顔好みなんだもんなぁ。だったら可愛げのねーオレより、リュカ兄の方がいいとか思ったんじゃねーの?」
「・・・!」
「抱き着くな!暑っ苦しい!」
「・・・!」
「わぁかったっつーの!冗談に決まってっだろ!」

笑う声がして、見るとリュカがこちらを見ていた。

「仲がいいんだ」
「良くねぇ! ・・・わけじゃねーけど」

勢いで言ってから、少し気まずい思いで訂正する。

「それにこないだのこと、オレは許したなんて言ってねーし」
「・・・」

ヴァイスがなぜかリュカを指さす。

「なんだよ。リュカ兄になんの関係があるってんだ」
「・・・」

ヴァイスの耳が下がる。カイは深く吸った息を、意識してゆっくりと吐き出した。
喋れない相手との意思の疎通に困難を感じるのはこんなときだ。相手の心情を慮ってやれるのは自分に余裕があるからこそで、そういうことは本来それほど得意なわけではない。
しかしすれ違ったままを良しとしないならば、結局はカイが折れて言葉を尽くすしかないのだ。

「・・・嘘だって。別にもう怒ってねーし」
「・・・」
「だから、今日来てもいーぜ」
「・・・!」
「だから、抱き着くんじゃねーよ!」

キスまでしかねない勢いの相手の脇腹を、慌てて肘で押し返す。

「ったく。夜まで待てねーのかよ」

呆れて言ったはずの言葉が、自分で思ったよりも機嫌よく響いて聞こえる。カイは何でもなさを装って前を向きながら、そんな自分に苦笑した。

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